講談社から連続刊行された『最恐ホラー』シリーズ全6冊・計12篇の短編ホラー作品を紹介します。1つのテーマに対して2人の作家が挑む競作形式となっており、王道の怪談プロットから、闇バイトや動画配信といった現代的な題材まで、多彩な切り口の恐怖を堪能できるシリーズです。本記事では企画の成り立ちや収録作の概要、特に印象的なおすすめ作品の魅力をご紹介します。(2026.7.30)
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目次
『最恐ホラー』シリーズの誕生背景と豪華著者陣の競作企画
『最恐ホラー』シリーズは、2025年の「小説現代」8・9月号のホラー特集が基となっており、今年に入って2冊ずつ書籍化されました。
雑誌のホラー特集が企画された際の経緯が、三津田信三氏の「入稿の一夜」(『最恐ホラー 深夜の残業』所収)に出てきます。
久し振りに「小説現代」から執筆依頼があった。六組十二人の作家が参加して、その組毎(ごと)に一つのテーマを決め、作家同士で競作するーーという企画である。
(略)
編集部から「テーマはどうします?」と督促のメールが届いた。今更とても断れない状況になってしまう。そこで編集部にテーマ案を出してもらって、それに惹かれるかどうかで諾否を決めると返事をしたのだが、向こうもさる者である。一度に十のテーマを以下のように提示してきた。
ソロ・キャンプ、骨董品、スナック、猫、温泉街、サウナ、限界集落、古書、山荘、深夜残業。
こういう展開になると、この中から選ばざるを得ない。そこで僕は、ソロ・キャンプ、骨董品、古書、山荘、深夜残業の五つに絞った。特に理由などなく、ほぼ直感に従ったに過ぎない。この五つを同じ組の小田雅久仁に伝えてもらい、彼が一つに絞る。そういう決め方がフェアではないかと考えた。
その結果、我々の組のテーマは「深夜残業」になった。
もっとも、組が違うと決め方も異なったようです。
最初からテーマが決まっていたパターンもあって、矢樹純氏は「P霊園そばの縦に長い土地」(『最恐ホラー 忌まわしい土地』所収)で次のように書いています。
「ちょうど『或る集落の●』の発売が近い時期に、『週刊現代』でモキュメンタリーや実話怪談テイストの短編の競作をしていただくという企画が上がっていて、矢樹さんもどうでしょうか」
しかも自分の尊敬するレジェンド作家さんたちが多数名を連ねる、とんでもなく豪華な企画らしい。担当編集のKさんからそんな提案をされ、自分など場違いだろうと初めは躊躇した。
だが、この機会を逃せば、こんな特集で声をかけてもらえることは二度とないかもしれない。
(略)
自分の担当するテーマは《忌み地》だという。ご一緒させていただくのは福澤徹三先生とのことで……
いずれにしても、矢樹氏が言うとおり「とんでもなく豪華な企画」なのは間違いないでしょう。
全6冊の収録作品一覧と短編ホラーならではの魅力・読み方
書籍名とそれぞれ収められているホラー短編の作者・題名は以下のとおりです。
最恐ホラー 呪われた図書館
- 背筋 笑う女が立っている
- 平山夢明 そして家族全員、焼きそばス
最恐ホラー 忌まわしい土地
- 福澤徹三 K氏の日記(抄)
- 矢樹純 P霊園そばの縦に長い土地
最恐ホラー 嫌な記憶
- 貴志祐介 薔薇の小枝
- 荻堂顕 火中の栗
最恐ホラー 廃墟の映画館
- 真藤順丈 キイストーンの幽霊
- 梨 ギニーピッグの瘡蓋
最恐ホラー 深夜の残業
- 三津田信三 「入稿の一夜」
- 小田雅久仁 「黒衣の女」
最恐ホラー 不気味な空間
- 小野不由美 「縁日」
- 芦花公園 「三津原モールでたい焼き食べたい」
わたしは電子書籍で読んだので一冊ずつの厚さがよくわからないのですが、どれも短編小説ですから、すぐに読めます。というより、何か他の長編小説を読みながら、気分転換したいときに1作品ずつ読む感じでちょうどいいような分量です。
これだけの作者を揃えているので、どれが「最恐」かを測るのは無粋というものでしょう。そもそも、人によって何が怖いか、おのずと物差しが異なるものです。
とはいえ、せっかくの紹介文ですから、個人的にいちばん「怖い」と思い、かつ、闇バイトという現代的な題材を絡めた平山夢明氏の「そして家族全員、焼きそばス」(『最恐ホラー 呪われた図書館』所収)を取り上げます。
異様な文章で幕を開ける平山夢明『そして家族全員、焼きそばス』
「そして家族全員、焼きそばス」の最初の章ーー「7〈セブン〉」は、異様な文章で始まります。
父が突然「中コは嘘の部分だコ」と、言っては宅配ピザの耳生地しか食べなければ。
母は笑んつつフォークだトッピングをかた端から剥ぐン、妹は落ちた生地の具だけをんめて
紙皿に載さ、「可愛いコレよね」と写真コ撮った。
こころざわつきながさも、家族がうれしそうで、あるので黙ってたは。
不思議なもので、読めなくもない。でも、明らかに異様ーー。この異様な文章がしばらく続いて、
今夜、そしき的、家族全員哉焼きそばス。
の一文のあと、「……なんだこりゃと思った」と、ようやく普通の文章になります。
語り手の30歳の男は、闇バイトの斡旋屋から「超楽チンなラストバイトしない」と誘われた。以前紹介された闇バイトは、工場の床に長々と伸びた袋を鉄バールで叩くというもの。「それが人間以外のものだとは、部屋に戻ってからも思えなかった」
「もうヤバイのは厭なんですけれど」と躊躇ったが、それは図書館の朗読会の御世話係で、7日間で50万円払われるという。金欲しさに負けて応じたものの、ほかに誰もいない私設の図書館の中で、いかにも富豪というお年寄りたちの前で朗読会の世話をする日々が7日間続く。
それにしてもさっき朗読させられた本は最低だった。日本語もちゃんとしていないし、頭のおかしな人間が酔っ払って書いたようじゃないか……あんなもの、いったい何になるって云うんだろう。本だと渡されたけど、ちゃんとした本屋から出たものじゃない。皮の表紙がしっかりしていたけれど、あれは素人の自費出版ってやつだな。それにタイトルが酷すぎるーー『せぶん』。
解き明かされる謎と「一番怖いのは人間」という狂気の結末
次の章ーー「8〈エイト〉」は、またまた異様な文章から始まります。
三十歳の誕生日か、古い家を父から引き継いだ。
ただ場所は世田谷のと外れで、電車とか中途半端に遠いさきの丘の上にだれだ。
この異様な文章も、
そして家族全員ミ、焼きそばス。
で終わると、「……なにこれ、と、あたいは思った」と続きます。
「8〈エイト〉」の語り手は、トーヨコでねぐら探しをしているときに「避暑地でバイト」を持ち掛けられた女子だった。会員制の「プライベート図書館」で朗読会の世話をするだけで、50万円もらえるという。
この章の終わり方(と続く次の章の始まり)は不気味です。7日間のバイトを終えて明日帰れるというタイミングです。
靴を履いて外に出ようとした。
把手がガチっと止まった。
『え? なにこれ?』
部屋は鍵が掛かっていて、開かなかった。9〈ナイン〉
仰せのままに、どにお地獄へ。
ねえ、下僕なあなた。
チヒロ「愛してる」、とか「必要だった」という白々しい台詞、が舐めて悦に浸ってた即、よかったわね。おひとりの人間を囲わんとして、あなたっへの狭宇宙は完成た。
このあたりから、最初の30男が読んだ意味不明の本『せぶん』はその前の闇バイトの書いた(?)もので、トーヨコ女子が読んだ本はおそらく『えいと』で、これは「最後の闇バイト」と応じた30男の書いた(?)もので、『ないん』がきっとトーヨコ女子の書いた(?)ものだな…とわかる仕掛けです。
『極限状態におかれた者は傑作を書けるはずだ』
『死を覚悟した人間が書く物の中に真実がある』但し、マークは要る。
最後に『そして家族全員、焼きそばス』と、一文を載せることだ。純粋な創作以外にドキュメンタリーを入れてもいいらしい。
ーー強制的に物語として並べられる字のなかに、自由な字が一定周期で埋め込まれる。
怪異と呼べる現象はひとつも出てきません。幽霊もでなければ、心霊現象も起きません。
でも、個人的にはこれが一番怖かった……ということは、やっぱり一番怖いのは人間だということかもしれません。
講談社のX上の告知では「最恐ホラーここに顕現」とうたっています。
どの作品が「最恐」かーー。ホラー小説好きなら、ぜひ手に取って読んでみてはいかがでしょうか。
(しみずのぼる)
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