きょうはジェイムズ・シュミッツのSF小説『惑星カレスの魔女』を紹介します。商業宇宙船の船長が親切心で助けた3姉妹は”魔女”と恐れられる超能力者で、巻き込まれるように銀河系全体を揺るがす危機に姉妹と一緒に立ち向かう…という痛快冒険SFです。 (2026.7.4)
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宮崎駿の装丁で再刊!大森望が仕掛けた新装版の裏話
わたしの手元にある新潮文庫版は1987年刊行のものです。なぜ購入したかと言えば、なんと表紙がジブリの宮崎駿氏が担当しているのです。わたしのように表紙買いした人が多かっただろうと想像します。
ところが、長らく絶版だった同書が2024年に創元SF文庫から再刊されていたのです!
わたしは最近まで再刊したこと自体を知らなかったのですが、再刊された新装版もオリジナルの宮崎駿氏の表紙で、しかも、この装丁の仕掛け人は大森望氏だったそうです。
創元SF文庫のJ・H・シュミッツ『惑星カレスの魔女』は宮崎駿さんのカバーイラストで知られていますが、元々は一九八七年に新潮文庫から出たもので、同じ絵がカバーを飾っていました。担当編集者は、まだ二十五歳の大森さんでした。
この頃の宮崎さんは、前年に『天空の城ラピュタ』を公開し、すでに巨匠も巨匠。カバーイラストの依頼に対して固辞する宮崎さんに、大森さんは「先生しかこの小説のイラストはあり得ません。とにかく読んでください」とゲラ刷りを事務所の郵便受けに突っ込んでくるという荒技に出て、宮崎さんは根負けしたのでした。
その新潮版が絶版となったのを受けて、創元で再刊することにしたわけですが、それを大森さんに伝えたところ、「宮崎さんの原画なら、ぼく持ってるよ。再使用させてもらうといいよ」と言うではないですか。
小浜徹也氏のnote(2024年3月26日):〈本の雑誌〉に寄せたシュミッツ『惑星カレスの魔女』の思い出(2013年3月)
こんないきさつがあったんですね! 大森氏の働きかけもすごいですし、ふつうは再刊時に装丁が変わるのが一般的なのに、あの宮崎さんの装丁で再刊できたこともすごいことです。
ということで、装丁ばかりに目がいきがちですが、本書の内容も紹介しましょう。
創元SF文庫版『惑星カレスの魔女』【新版】
超能力を持つ3姉妹と遭遇!パウサート船長の災難
主人公は商業宇宙船ベンチャー号のパウサート船長。辺境の惑星で仕事を終え、恋人の待つニッケルダベイン星に戻ることを楽しみにしていたところへ、男たちに追いかけられる少女と遭遇。「その子供にかまうな!」と助けてしまう。
ところが、その少女マリーンから、妹2人がまだこの星にいると言われて、パウサートは妹たちーー次女のゴスと三女のザ・リーウィットも引き取り、3姉妹をカレス星に送り返すことに。
恋人の待つ故郷の星に帰るのが遅れると嘆いていたら、それ以上に深刻なのが3姉妹はウィッチ(魔女)と恐れられる超能力者たちだったーー。
マリーンは予知能力、三女のザ・リーウィットはあらゆる言語の解析能力、そして次女のゴスはテレポート能力で、シーウォッシュ・ドライブを操ることができた。
ゴスが宝石を船内に瞬間移動させたため、盗難の嫌疑で帝国軍の宇宙艦に追いかけられると、ベンチャー号が突然瞬間移動した。
船室の中央のテーブルの上に載っているーーあるいは浮かんでいるのか?ーーおおよそ円錐台のような格好に組みあわされた黒いワイアが、ちらりと見えた。それを見下ろして、その輝きを顔に映して、三人の幼い魔女たちが立っていた。
「いったいぜんたい、こいつはどういうことだね?」パウサート船長がじわじわと恐怖に捕らえられながら訊いた。
ザ・リーウィットはゴスを見た。ゴスはマリーンを見た。マリーンは疑わしげな口調で言った。「名前なら教えてあげられるんだけど……」
「あれがシーウォッシュ・ドライブなのよ」とゴス。
船長が邪魔したせいで28秒しか作動しなかったが、それでも「二光週間」も航路を先に進んでいた。
小学生にプロポーズ?ゴスと船長のコミカルな関係
しかし、帝国艦の前から姿を消した出来事で、ベンチャー号は何やら「新型の宇宙航行装置」を搭載している!と疑われるようになり、パウサートは3姉妹をカレス星に送り返した後、帝国軍から追われることになる。
そんなパウサートを助けるのが、ベンチャー号にひとり密航していた次女のゴスだった。
ゴスは、パウサートには2年程度の「魔法使いになる訓練」が必要と言った後、こう続けた。
「実際にはもうすこし長いわ。わたしが結婚適齢期になる寸前までよ!」
「わたしは全部決めたの」
「みんながカレスであなたに奥さんを見つけてやらなければいけない、と話をはじめた時からよ。わたしはすぐに、あたしがなるわ、って言ったの。そしたら、最後には、みんな、それがいいだろうと認めたわーーマリーンまでね。だって姉さんにはボーイ・フレンドがいるんですもの」
なんとも積極的な少女ですが、パウサートがゴスを最初に見た時に「9歳か10歳ぐらいの少女」と表現しているので、小学生に「あなたと結婚する!」と言われたようなもの。パウサートの困惑ぶりが目に浮かぶようです。
こんなふうにコミカルな場面が随所に挟まれますが、シーウォッシュ・ドライブで逃れた先のウルデューン星でカレス星の人間が持ち運んだ謎の物質を見せられ、それを仲間たちのいる星まで届けることになるあたりから、帝国軍の情報部員や海賊から追われたり、その謎の物質をめぐって対立する二つの世界の争いに巻き込まれたり……と、スペース・オペラ的な展開になっていきます。
でも、本書が2度も文庫化されるほどファンが多いのは、やはり主人公パウサートとヒロイン・ゴスの凸凹コンビの魅力にあるのでしょう。
ファン待望の続編も!2度文庫化された名作の系譜
本書のラストで、パウサートの叔父にあたるゴスの父親が「あの娘がおまえに関心を持っているのは、彼女にとっていいことなんだ」とパウサートに話す場面が出てきて、続けてこんなやりとりをします。
船長はむしろほっとしていた。「実は、この先、ゴスといっしょに旅ができなくなれば、ずいぶん寂しい思いをすることでしょう」船長はクスクス笑った。「もちろん、彼女が大きくなったら結婚するという話を、それほど真剣に受けとっているわけじゃありませんが!」
「そうだろうともよ、どうしようもなく鈍いわしの甥っ子よ。昔はわしも同じように、トール(しみず注=ゴスの母親)のそういう意志を真剣に考えていなかったものさ」
こんなくだりを読むと、パウサートとゴスの続編を期待してしまいますが、やっぱりそう思う人が多かったのでしょう、著者ジェイムズ・シュミッツ(1911 – 1981年)の没後20年以上たった2000年代に入って、別の作家による続編が出版されているそうです。
続編である『The Wizard of Karres』は、Mercedes Lackey、Eric Flint、Dave Freerによって書かれ、2004年にBaen Booksから出版され、オリジナル小説と同じキャラクターが登場します。『The Sorceress of Karres』は、Eric FlintとDave Freerによって書かれ、2010年にSimon & Schusterから出版され、ほとんどのキャラクターが再登場して物語が続きます。3番目の続編である『The Shaman of Karres』は、Eric FlintとDave Freerによって書かれ、2020年にBaen Booksから出版されました。
英語版ウィキペディア「The Witches of Karres」から翻訳
いつか読んでみたいものですね。でもまずは、宮崎駿氏の表紙でふたたび日の目を見た創元SF文庫版『惑星カレスの魔女』をぜひ手に取ってみてください。
(しみずのぼる)
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