きょうは「海外ロマンチックSF傑作選」の副題を持つSFアンソロジーを紹介します。風見潤氏が編纂した『魔女も恋をする』。稀覯本として知られますが、収録作品の魅力から、ぜひ復刊してほしいと思う一冊です。(2026.6.9)
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コバルト文庫の海外ロマンチックSF傑作選全3冊
「海外ロマンチックSF傑作選」の名で編纂されたアンソロジーは1980年に集英社コバルト文庫から出版されました。編者は風見潤氏。全部で3冊あり、それぞれのタイトルと収録作品は以下のとおりです。
『魔女も恋をする』
- 魔女も恋をする(ロイ・ハッチンズ)
- ユニコーンの谷(トマス・バーネット・スワン)
- 光、天より堕ち(マーガレット・セント・クレア)
- 完全なる富者(ジョン・ブラナー)
- 第十時ラウンド(J・T・マッキントッシュ)
『たんぽぽ娘』
- たんぽぽ娘(ロバート・F・ヤング)
- 風の人々(マリオン・ジマー・ブラッドベリイ)
- ベンフィールドへの旅(イリヤ・ワルシャワフスキー)
- 詩(レイ・ブラッドベリ)
- われら誇りもて歌う(ジュディス・メリル)
- チャリティからのメッセージ(ウィリアム・M・リー)
- なんでも箱(ゼナ・ヘンダースン)
- 翼のジェニー(ケイト・ウィルヘルム)
『見えない友だち34人+1』
- 見えない友だち34人+1(ゼナ・ヘンダースン)
- 時をとめた少女(ロバート・F・ヤング)
- 地球ってなあに(アーサー・セリングス)
- 魔術師(ジェイムズ・E・ガン)
集英社コバルト文庫から出版された「海外ロマンチックSF傑作選」の3冊
ビブリア古書堂でも話題を呼んだ名アンソロジー
このうち2冊目にあたる『たんぽぽ娘』が有名で、三上延氏の『ビブリア古書堂の事件手帖』(メディアワークス文庫)でも取り上げられました(3巻・第1話)
栞子たちは古本業者による交換会に出向き、「滝野ブックス」の滝野が出品していた絶版文庫に入札するが、僅差で「ヒトリ書房」の井上に落札されてしまう。翌日、絶版文庫から『たんぽぽ娘』がなくなっていることが分かり、来店した井上は、栞子の私物の『たんぽぽ娘』を盗んだものだと決めつけ、事件が解決するまで預かると本を持ち去る。(あらすじはウィキペディアによる)
『たんぽぽ娘』が、表題作の「たんぽぽ娘」だけでなく、ゼナ・ヘンダースンの「なんでも箱」やウィリアム・M・リーの「チャリティからのメッセージ」も収録されていて、いずれの短編も記事で紹介したぐらいですから、名アンソロジーの誉れ高いのは自分も認めます。

でも、ほかの2冊も『たんぽぽ娘』に勝るとも劣らず優れたアンソロジーなんです。
それは、『見えない友だち34人+1』に収録された表題作やヤングの「時をとめた少女」の紹介記事を読んでもらえればご納得いただけるでしょう。

📖『見えない友だち34人+1』収録作の紹介記事はこちら👉
ゼナ・ヘンダースン「見えない友だち34人+1」「信じる子」|教師と子供が織りなす不思議な世界
ヤング「時をとめた少女」「今年の生贄」|可憐な少女と魅惑の美女で揺れる男心

こんな名アンソロジーを絶版のまま放置するのはあまりにもったいない!
と思ってしまいます。しかも、集英社コバルト文庫では、長らく絶版だった故・氷室冴子さんの『銀の海 金の大地』を集英社オレンジ文庫から「奇跡の復刊」(公式サイトの表現)したという輝かしい前例だってあります。
こうやって収録作品の紹介記事を書き連ねていたら、集英社さんが復刊に動いてくれないだろうか……。そんな密かな期待も込めて、風見潤氏の名作アンソロジーを紹介する次第です。
稀覯本『魔女も恋をする』表題作のあらすじを紹介
もっとも『たんぽぽ娘』と『見えない友だち34人+1』の収録作品はすでに何度か記事にまとめているので、きょうは『魔女も恋をする』から、ロイ・ハッチンズの表題作を紹介します。
舞台はアメリカ・ヴァーモントの〈空腹が丘〉という名がつく片田舎。母親の後を継いだ若い魔女ウォンダは、魔法を使って病気の牛をなおしたり、惚れ薬を作ったりしていた。村の男にも興味を抱くことなく、村人たちは彼女は結婚しないのだろう…とうわさし合っていた。
そんなウォンダが恋をした。相手は祖父の農場を次いで都会から住み着いたヘンリィ・コグウェルで、一目惚れだった。
だが、彼女が魔女だと名乗ると、ヘンリィは「すごいユーモアだ!」と真に受けない。
「あなたがヴァーモントで暮らすつもりなら、心を広くもたなくちゃいけないわ。さもないと餓死することになってよ。まず、わたしの言葉を信じることから始めることね。わたしがいなかったら、空腹が丘は明日にも破滅するのよ」
それでも信じないため、ウォンダは足を踏み鳴らし大風を起こし、ウィンクして稲妻を走らせた。
驚くヘンリィの様子に心が和んだウォンダは言った。「お詫びになにかしてあげられると思うわ。病気の家畜をなおしてあげましょうか? 誰かに呪いをかけてあげましょうか? それとも、あなたと結婚してあげましょうか?」
ヘンリィから「まにあってます」と断わられても、一方的に好きになったウォンダはヘンリィのために白魔術と黒魔術を駆使して「いかなる邪悪も彼に触れることはできず、いかなる幸運も彼を見のがして通りすぎることはなく、彼を傷つけようと思う者は、地獄の恐怖に遭遇する」ようにした。
そのうちにヘンリィもウォンダに好意を寄せるようになった。ところが、パーティの帰り道で「君のことを好きだ」と言った後、「ぼくは魔女とは結婚できない」と続けた。
「なぜ」彼女は訊ねた。「なぜなの?」
「わからないのかい? 金持ちの女性と結婚するのと同じさ。いや、もっと悪い。なぜって、自分の力で金を稼いだのか、そうじゃないのかわからないからだ。みんな、裏へまわったら何て言うか知れたもんじゃない。もうみんなをまともに見られないよ」
ヘンリィは、自分の力で周囲に認められたいと願う、プライドと独立心を何より大事にする男だった。
「ああ、ヘンリィ」もの悲しい声をあげる。「わたし、魔女なんかでいたくない。ただの女でいたいわ、あなたのために」
「そうならば、どんなにいいだろう」ヘンリィは悲しげにつぶやいた。「ほんとに、そうならばどんなにいいだろう」
恋する魔女の空回りな魔法が巻き起こすハッピーエンド
ようやく相思相愛の関係になっても、ウォンダの努力の方向はどんどんズレていきます。
ルイ15世の愛人マダム・ド・ポンパドゥールを魔法で呼び出して男の落とし方を訊ね、マダムから男に金と権力を与えて「かけがえのない人間」になることだと教わると、村中の富がヘンリィに集まるように魔法の力で仕向け、そのしわ寄せが空腹が丘の村人たちに押し寄せて……と迷惑はなはだしい展開になっていきます。
もちろん結末はハッピーエンドですが、「恋は盲目」と言うものの魔女が「盲目」になったらーーというコメディタッチの短編です。
著者のロイ・ハッチンズについて、風見潤氏はこう書いています。
残念ながら、詳しいことはわかりません。一九五〇年代に〈ビヨンド〉とか〈ギャラクシィ〉といったSF雑誌に数編の作品を発表しただけで消えていきました。あるいは有名作家が余技に使ったペンネームなのかもしれませんね。
(しみずのぼる)
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