幻のホラー作家ローズマリー・ティンパリー、品切れの傑作2篇を徹底紹介

幻のホラー作家ローズマリー・ティンパリー、品切れの傑作2篇を徹底紹介

イギリスの作家ローズマリー・ティンパリーのホラー小説は、現在アンソロジーが品切れとなっており、容易に読めない状況が続いています。本記事では、彼女の優れた手腕を伝える代表作「クリスマスの出会い」と、隠れた名篇「レイチェルとサイモン」のあらすじと感想を紹介します。作品の復刊を願いつつ、その不思議な魅力に迫ります。(2026.6.8) 

ロアルド・ダールも激賞したゴーストストーリーの書き手

ローズマリー・ティンパリー(1920ー1988)はイギリスの女流作家で、25歳の時に発表した「クリスマスの出会い」が注目を浴び、「アンソロジー、雑誌、ラジオ等の常連作家となった」そうです(『ロアルド・ダールの幽霊物語』作家紹介による) 

特に『チャーリーとチョコレート工場』の作者で知られるロアルド・ダール(1916ー1990)が、テレビの企画から選んだ14篇からなるゴーストストーリーを収録した『ロアルド・ダールの幽霊物語』(ハヤカワ文庫)に、ただひとり2作の短編が収録されるという”厚遇”ぶりで、いかに優れたゴーストストーリーの書き手であったかが窺えます。 

にもかかわらず、ウィキペディアをみても、彼女の小説で邦訳されているのはたった4つだけということです。 

具体的には、以下の4作品です。 

  • ハリー」 (Harry) 
  • クリスマスの出会い」 (Christmas Meeting) 
  • マーサの夕食」(Supper with Martha) 
  • レイチェルとサイモン」(Rechel and Simon) 

邦訳4作品の現状と今すぐ読める唯一の短編「ハリー」

「ハリー」と「クリスマスの出会い」が『ロアルド・ダールの幽霊物語』収録作で、「マーサの夕食」と「レイチェルとサイモン」は仁賀克雄氏編纂の『新・幻想と怪奇』(早川書房)に収録されています。ただ、どちらもすでに品切れです。 

『ロアルド・ダールの幽霊物語』も『新・幻想と怪奇』もすでに品切れ

そのため、いま手軽に読むことができるのは、2010年に岩波少年文庫から出版された『八月の暑さのなかで』に収録されている「ハリー」のみとなっています。 

「ハリー」は『八月の暑さのなかで』の紹介で記事にしましたが、編纂した金原瑞人氏が「一生に一度でいいから、こんな短編を書いてみたい」と激賞するほどの作品です。 

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初期の代表作「クリスマスの出会い」あらすじと魅力

でも、そんなにローズマリー・ティンパリーのホラー短編が傑作なら、他の作品だって読みたくなりませんか? 

せめて本が品切れで読めない状態の他の3作品は、本そのものを復刊したり、ほかのアンソロジーに再収録したり、なんらかの手立てをとってほしいと思ってしまいます。 

そこでこの記事では、彼女の処女作で『ロアルド・ダールの幽霊物語』に収録された「クリスマスの出会い」と、仁賀克雄氏編『新・幻想と怪奇』に収録されている「レイチェルとサイモン」を紹介します。 

「クリスマスの出会い」は、もうすぐ50歳になろうという独身女性がひとり孤独なクリスマスを過ごす場面から始まります。

そこへ若い男が部屋に入ってきた。 

「おひとりなんですか」
「ええ」
「それは……おかしいですね、クリスマスにおひとりだなんて? このままおじゃましてお話なんかしていてよろしいでしょうか?」
「けっこうですよ。あなたさえよければ」

こうして彼女は若い男と部屋で会話を続けることになった。 

男は作家で、家族に執筆の時間を奪われることや芸術への無理解をこぼした。 

「どんなものをお書きになってるの?」
「詩と日記とを組合わせたものです。題は”私の詩と私”作者はフランシス・ランデル。これがぼくの名前なんです」

話が弾み、「そのうちぜひぼくの作品を読んでもらわなくちゃ」とまで口にするようにーー。 

女が「私たちはクリスマスの日というのに少し重苦しいことになってしまいましたね」と言ってコーヒーを入れたりするうちに若い男の姿は消えていた。 

女はがっかりして部屋の本棚を眺めた。すると一冊の古びた本が目にとまった。 

見ると一八五二年の春の出版とわかった。詩が主で、どれも未熟な作品ではあるが生き生きしている。それから日記のようなものがある。 

クリスマスのくだりをめくってみると、そこにはこう書いてあった。 

ぼくひとりだけの初めてのクリスマス。ちょっと妙な経験をした。散歩をして下宿に帰ってみるとぼくの部屋には中年の女がいた。初めぼくは部屋をまちがえて入ったのかと思ったのだが、そうではなく、ちょっと楽しい話などを交した後、彼女は……姿を消してしまった。 

クリスマスのくだりはもう少し続くのですが、ラストを含めて明かさずにおきましょう。文庫本で6ページほどの小篇ですが、ホラーというよりは不思議な味わいの短編です。 

せつなさが胸を打つ名篇「レイチェルとサイモン」

次に紹介する「レイチェルとサイモン」も、ホラーというより不思議な味わいの短編ですが、せつなさという点では「クリスマスの出会い」より勝っています。 

ジョン・パーソンズは借りようと思った部屋を間違えて一階下の部屋の扉を開けてしまった。

そこには女性が立っていた。美しく品がよく穏やかな面差しで、エンジェル・ブルーのドレスを着こなし、それが彼女にぴったり合っている。 

部屋を間違えたことを詫びて上の階に上がったものの、彼女の魅力に惹かれ、パーソンズは上の階の部屋を借りることにした。一週間後、彼女との再会を果たした。 

「フラットをお借りになりましたのね」彼女は声をかけた。
「ええ、物音がご迷惑になりませんか?」
「足音はしていましたが、あなたとは知りませんでした。あまり大きな物音もしません。とてもお静かなかたなんですね」
「あなたもそうですね」彼は答えた。
「ええ、わたしも子供たちもあまり物音を立てませんので」
「お子さんがおありですか?」
「ええ、二人。レイチェルとサイモンです」
「おいくつですか?」
「レイチェルが五歳、サイモンが四歳です」

パーソンズはさらに彼女と親しくなるため、子供たちへの玩具を持って下の階を訊ねた。彼女は喜んだ。「レイチェルは人形が好きですし、サイモンは動物の玩具を好むんです」 

ところが、子供たちの姿は見えない。部屋には彼女しかいない様子だった。 

夫とは死別したことや、アンジェラ・フランシスという名前も聞き出し、フランシスが夫とは劇場によく出かけたと口にしたため、パーソンズは勇気を出して「よろしかったら、一晩をわたしとお付き合いいただけませんか?」と劇場へ誘った。 

しかし、フランシスは「ありがとう。でも子供たちを置いておくわけにはいきません」と答えた。 

「子供たちには、夜だけはわたしが必要で、わたしも同じです」
「そうですか。では日曜日はどうでしょう。あなたがた三人を外出にーー」
「わたしも、日曜日にはよく子供たちを連れて外出します。でも、あなたがいらしては、子供たちは外出しないでしょう」
「どうしてですか? わたしが変な男とでも?」
「とんでもありません。でも子供たちは非常に内気なんです。。他の子供たちとはまったく違うんです」
「どのように?」
「まったくの恥ずかしがり屋なだけです。それだけです」

結局、パーソンズはフランシスを外に連れ出すことをあきらめたものの、以後もフランシスの部屋から子供たちがいる気配はいっこうに感じられなかった。 

姿を見せない子供たちの謎と物語が残す深い哀感

不思議に思ったパーソンズは、建物の出入口に立つ用務員に訊ねてみた。「二十六号室のミセス・フランシスはーー昼間は彼女の子供たちをどうしているの?」 

すると、こんな答えが返ってきた。 

「わたしの知っている限り、彼女は子供なんかいませんよ。独り住まいです」 

パーソンズは翌日、勇気を出してフランシスの部屋を訪れ、子供たちは彼女の妄想だと指摘した。フランシスは激しく反論し、パーソンズと口論になった。 

彼女が夢の子供たちと幸せなら、その夢を壊してしまったのは自分ではないか? 多くの人々はとにかく夢に生きている。夢がなくては絶望だけだ。アンジェラ・フランシスは絶望していなかった。しかし絶望が間近にあるのを知り、その淵に追いやる夢の破壊者を恐れたのだ。
いくぶん、わかってきた。
しかし、彼女は彼の夢だった。彼女は生き身だった。ところが彼女の夢の子供たちは生き身ではなかった。かれらは存在しなかった! どうすればいい?

パーソンズはフランシスに心を込めて詫び状をしたためた。 

その日の夕刻、彼の部屋の前にフランシスが立っていた。

彼女のかたわらにはふたりの子供がいた。「レイチェルは黒髪で痩せているが、母親似の青い眼、高い額をしている。サイモンは母親の金髪、ぽっちゃりした唇を受け継いでいる。二人とも、アンジェラの子供に間違いなかった」。フランシスは微笑んだ。 

「ところで子供たちは妄想で、わたしは精神科医に診てもらったほうがいいといったのはどなたかしら?」 

引用はここまでにしておきましょう。 

なぜ、パーソンズの前にフランシスの妄想の子供たちは姿を現したのかーー。

その謎と哀感こもる結末は『新・幻想と怪奇』を探してご自身でお確かめください。 

不可思議な余韻が残る傑作の復刊を心から願って

ローズマリー・ティンパリーについて、『新・幻想と怪奇』を編纂した仁賀克雄氏は「彼女の短編集が見つかれば、ぜひ全部を訳してみたい魅力ある作家である」と書いていますが、その仁賀氏も2017年に亡くなっています。 

仁賀氏の遺志を継いでローズマリー・ティンパリーの短編集を編纂する出版社が出てきてほしいですし、早川書房さんには『ロアルド・ダールの幽霊物語』と『新・幻想と怪奇』を復刊してほしい…と切に願っています。 

(しみずのぼる) 

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