ヤング「時をとめた少女」「今年の生贄」|可憐な少女と魅惑の美女で揺れる男心

ヤング「時をとめた少女」「今年の生贄」|可憐な少女と魅惑の美女で揺れる男心

日本のSFファンに深く愛され続ける作家、ロバート・F・ヤング。本記事では、彼の特徴が色濃く反映された2つの短編小説をご紹介します。ひとつは最新短編集の表題作「時をとめた少女」、もうひとつは複数のアンソロジーに収録されながら単行本未収録のまま埋もれている幻の佳篇「今年の生贄」。可憐な少女と魅惑的な美女の間で揺れ動く主人公の選択を描いた、ヤングならではのロマンチックな世界観を紐解きます。(2026.6.3)

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日本独自で進化を遂げるヤング短編集の歩み

それにしても、ロバート・F・ヤング(1915-1986)ほど日本人に愛され続けているSF作家は他にいないのではないでしょうか。 

日本独自のオリジナル短編集『ジョナサンと宇宙クジラ』(ハヤカワ文庫SF)は1977年の刊行以来、装丁を4回も変えて出版され、最新刊は2006年に出版されています。 

次のオリジナル短編集『ピーナッツバター作戦』(青心社)は1983年刊行(背表紙にロバート・F・ヤングの写真が載っています!)され、2006年に新装版が出ています。 

ヤングの代表作「たんぽぽ娘」も、風見潤氏編纂のSFアンソロジー『たんぽぽ娘』(集英社コバルト文庫)は長らく絶版でしたが、第3のオリジナル短編集『たんぽぽ娘』(河出書房新社)が2013年に出版され、しかも2015年には文庫化までされています。 

本国ではほとんど顧みられず、わたしがアメリカに1年滞在した時に探したものの、入手できたのは1966年刊行の「The worlds of Robert.F.Yong」(Victor Gollacz LTD)一冊だけでした。 

ああそれなのに、2017年には4冊目の日本独自の短編集『時をとめた少女』(ハヤカワ文庫SF)が出版されているのですから、これはもう彼我の違いに驚くばかりです。 

わたしが所有するロバート・F・ヤング本。右上がアメリカで唯一みつけた短編集

幻の稀覯本に埋もれた単行本未収録の佳篇

実は、最新短編集の表題作「時をとめた少女」は、かつての「たんぽぽ娘」と同様に、長らく読みたくても読めない小説でした。 

なぜなら、先日紹介したゼナ・ヘンダースンの「見えない友だち34人+1」を収録した風見潤氏編纂の『見えない友だち34人+1』(集英社コバルト文庫)に収録されていたからです。 

1980年に出版された『見えない友だち34人+1』は長らく絶版だったため、Amazonで調べれば1万円以上の値がつく稀覯本です。

 

『見えない友だち34人+1』は1万円以上の値がついています

ヤングもゼナ・ヘンダースンもSFアンソロジーの常連作家なのに、ヤングの作品はオリジナル短編集を編んでもらえて、ゼナ・ヘンダースンは読めない状態が続いているというのは、何とも理不尽な… 

という感想を抱いてしまいます。 

ただ、そんなヤングの短編でも、なぜか複数のSFアンソロジーに収録されながら、オリジナル短編集に未収録の作品があるのです。 

それが、きょう紹介する「今年の生贄」(原題:Victim of the Year)です。アイザック・アシモフ編『恐怖のハロウィーン』(徳間文庫、1986年刊)と中田耕治氏編『恐怖通信』(表題は「生贄の年」、河出文庫、1985年刊)に入っています。 

「今年の生贄」が読めるアンソロジーですが、どちらも絶版

どちらも40年以上前の本だから当然、絶版です。でも、 

面白くてヤングらしい佳篇なのに、埋もれさせるのはもったいないのでは? 長らく読めなかった「時をとめた少女」が”復活”を遂げたように、どこか出版社が5番目のオリジナル短編集を出版する時はぜひ収録してほしい… 

そんなふうに願って記事で紹介する次第です。 

時をとめた少女:アルタイルから来たと話す不思議な少女

最初に「時をとめた少女」から紹介しましょう。 

主人公のロジャー・トンプソンは、前から歩いてくる「ぴっちりした赤いドレスを着た背の高いブルネット娘」を見て、「なにかがおこりそうな予感」がした。 

娘がベンチの真向かいにさしかかると、娘の靴のヒールが舗道の割れ目にはまり、娘はつんのめった。慌ててロジャーが助けた。娘は感謝し、ベッキーと名乗った。 

若者が娘にめぐりあう、娘が若者にめぐりあう。若者はぞっこん惚れこんでしまう。娘もそれを受け入れる。 

そう書きながら、ヤングはこう続けます。 

ところがこのロマンスは、時の記録に決してとどめられることはなかったのだ。 

不思議な始まりかたですが、ここから「時をとめた少女」の物語は始まります。 

ロジャーはブルネット娘と恋に落ちた翌日、同じベンチで今度は青いドレスの少女と言葉をかわした。 

「顔にちりばめられた金色のそばかす、るりつぐみの羽の色のような目、きびしい初霜の洗礼を受けたウルシの葉の色をした小さな口もと」……。グラマラスなベッキーとは別の魅力があった。 

しかし少女はひどい発音で、おかしなことを口にした。 

「あたしって、字をよくじらないのーーことに外国の言葉は」 

「ああ、外国から来たんですね?」と訊ねると、少女は答えた。 

「ぞう。ブゼンボルグから。あなたがたが、アルタイルとよんでる星の第六惑星の南極大陸にある小ざな国。けさ地球に着いたばかりなの」 

宇宙から来たとは信じなかったものの、話をあわせて会話を進めると、アレインと名乗った少女は、光速で進むと時間の経過が遅くなることや、それでもタイム・パラドックスが生じないことをスラスラと説明した。 

ロジャーはアレインとの会話を一通り楽しみ、酒場で野球観戦するため別れようとすると、アレインは引き留めた。「わたしをさそわないの?」 

「さそわないとも。どうしてさそわなくちゃいけない?」 

そう訊ねると、「あたしのワジェットは九十を指しているのに」と意味不明な言葉をつぶやく。それでも、ロジャーは酒場にアレインを伴い、アレインと意味不明な会話を楽しんだが、酒場を出るときに「今晩は、何時に電話してくださる?」と訊かれて堪忍袋の緒が切れた。 

「ワジェットだの質量相殺装置だの、超光速エンジンだのと、一日きけばたくさんだよ。それに今晩はたまたま先約がありましてね。そのデートのお相手のお嬢さんというのが、ぼくがこれまで無意識に求めつづけていた、そして、きのうの朝やっと見つけた理想のひとで……」 

ロジャーがきのう出会ったブルネットの娘とデートすることを言うと、アレインは目に哀しみを浮かべ、口もとをふるわしながら、「あたしがくるのが一日おそかった」とつぶやいた。 

「それをぼくで立証するのはむりだ。じゃブゼンボルグのみなさんによろしく」
「あのーーあしたの朝、また公園に来てますか?」
かれは、断固ノウといおうと口を開いたがーーそのとき二粒めの涙が見えた。それは一粒めの涙よりも大きくて、左目の目じりに、透明な真珠のように光っていた。「たぶんくると思うけど」かれは不本意ながらそういった。

恋のルールと女系国家の罠に陥ったロジャー

ところが、その翌日、公園でアレインと会っているとき、ちょうどベッキーとはちあった。ベッキーはアレインに激しい言葉をぶつけた。 

「最初に見つけたのはあたしよ。ルールはわかっているでしょ。だから、ほっておいて!」 

ベッキーもアルタイルから来た宇宙人だった。しかも、アレインによると、ベッキーの惑星ムッゲンボルトは女系国家で、夫を四人捕まえて使役させる風習だった! 

アレインと出会うのが一日遅れたせいで、ロジャーはこのままベッキーの四番目の夫にされてしまうのかーー。 

表題が「時をとめた少女」ですから、そんな結末ではないのは先刻ご承知でしょうが、紹介はここでとどめましょう。結末を知りたい方は、稀覯本の『見えない友だち34人+1』ではなく、ハヤカワ文庫SFの『時をとめた少女』をお買い求めください。 

今年の生贄:ハロウィーンの夜に迫る魔女の罠

では次に、収録したアンソロジー集が絶版のため、事実上、読みたくても読めない作品となっている「今年の生贄」を紹介しましょう(引用は、アイザック・アシモフ編『恐怖のハロウィーン』所収の仁賀克雄氏訳から) 

主人公のハロルド・ノーレスは仕事をクビになり、次の仕事を探すも面接で断られ続け、職業安定所に通ってすでに6か月が経っている。 

ハロウィーン当日も、いつものように職業安定所に出向き、すでに顔なじみとなった小柄なブルネット娘と顔を合わせた。 

すると、いつも自分に視線も向けない彼女が申請書の間にメモを滑り込ませ、帰宅したら読むように小声でささやいた。

メモにはにわかに信じられないことが書いてあった。 

今夜はハロウィーン。まもなくあなたにかなりの危険が迫るでしょう。私は魔女だからそれがわかるの。私の魔力のあかしに魔法の木の葉を二枚同封しておきます。必要な時に二十ドル札になります。 

ハロルドは笑い出しそうになったが、とりあえずガールフレンドのプリシラと昼食する約束のため待ち合わせのレストランに向かった。 

仕事は断られ続けているものの、プリシラとの交際は順調だった。レストランでプリシラが「今夜パーティーに来るでしょう?」と訊ねた。 

「あなたが来てくれなくちゃ、ハロルド! 水に浮べたリンゴ喰べ競争や、ロバの尻尾止めゲーム、ダンスやいろいろな楽しいことがあるのよ。それだけじゃなくて、ヴィク伯父さんも来るのよ。あなたに会えるのをそれは楽しみにしていたんだから!」 

レストランの支払いが心配で、ハロルドは心ここにあらずの状態だったが、支払いの時、ポケットにたった一枚残っていた五ドル札を取り出そうとしたら、新札の二十ドルが出てきた。プリシラはハロルドが支払うのを黙って見ていた。 

失業も魔女見習いの実習のせいだった

ハロルドは夕方ふたたび職業安定所に出向き、魔女をかたるグロリアという名の受付嬢に事情を聞いた。グロリアの説明はこうだった。 

グロリアはまだ魔女の見習いで、魔女学校で修行中の身であること。古参の魔女がその年の犠牲者を指名し、魔女見習いクラスに送り込むこと。そしてハロウィーンまで魔法の実習を行うこと。その今年の犠牲者がハロルドであること……。 

「私のクラスメイトと私はあなたをいかに苦しめるか技を競ったわ。まずあなたを失業させて、それから雇主を職安に行かせ、あなたは勝手に退職したといわせたの。それであなたは六週間も失業保険はもらえなかったでしょう。車のローンを払う金にも窮し、仕方なく手放したの。失業以来どの屋主にも、その社員にも心の中にあなたへの敵意を植えつけておいたの」 

ハロルドへの同情の気持ちが高まって、危険が迫っていることを教えるメモを書いたものの、裏切りがばれれば大変なことになるとも付け加えた。 

グロリアは「今夜は充分に気をつけてね」と念押しした。「大勢の人たちと一緒にいるのがいちばんなんだけど。人ごみでは魔女の魔力も効かないのよ」 

ハロルドがハロウィーンパーティーに誘われていると言うと、グロリアは不安そうに言った。「沢山の警官のいるところならもっと安全なのに。魔女は法には弱いわ。悪魔の手先も同じよ。表面は従順なよき市民たれと悪魔は訓示しているわ」 

主人公を今年の生贄に選んだ魔女の正体

ところが、パーティーのさなか、グロリアから電話がかかってきた。校長先生にばれて退学と言われた…と動揺していた。ハロルドはいったんパーティーを離れてグロリアのアパートに行くと、グロリアは恐怖の表情を浮かべ涙を流していた。 

「あなたを今年の生贄に選んだ魔女に、あなたが魔法のお金を持っていることを知られてしまったのーー魔女の目はごまかせないわーーそれを校長先生にしゃべったのよ。校長先生はカンカンに怒っているわ」 

その魔女のことを訊ねると、グロリアは続けた。「私たち見習い魔女には会うことも許されないわ。でもあなたの知人のだれかなことはたしかよ」 

ハロルドが魔法の木の葉の二十ドル札を使うのを見ていたのはプリシラだった。 

「ぼくにはそれが何者かわかったよ」 

ハロルドはふたたびハロウィーンパーティーに戻ってプリシラと対決するのですが、どういう手段で魔女をやりこめるのか、それは明かさないでおきましょう。 

男の願望充足をパロディ化する恋愛SFの魅力

「時をとめた少女」が雑誌に掲載されたのは1961年で、「今年の生贄」は翌1962年。「たんぽぽ娘」も1961年ですから、ヤングの脂が乗り切っている時期の作品です。 

加えて両作は、主人公が恋愛関係にある魅惑溢れる美女が実は…というストーリーで共通します。 

『時をとめた少女』の解説で牧眞司氏は、「時をとめた少女」について、 

「ヤングの小説に描かれる恋愛は男の願望充足的な側面が多分にあるのだが、本作はそれ自体をパロディ化している」 

と評していますが、「今年の生贄」にもあてはまるように思います。 

「時をとめた少女」のように、「今年の生贄」は次にヤングのオリジナル短編集を出すときは必ず収録してほしい……そんなふうに願っています。 

(しみずのぼる) 

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