SFアンソロジーの常連であり、今なお多くの作家や読者に愛され続ける作家ゼナ・ヘンダースン。彼女の作品は、不思議な世界観の中に温かみのある人間模様が描かれる点が魅力です。彼女が得意とする学校での教師と子供の交流を描いた短編2作ーー「見えない友だち34人+1」と「信じる子」を紹介します。(2026.6.1)
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目次
恩田陸氏も魅了された名作《ピープル》シリーズの系譜
ゼナ・ヘンダースン(1917-1983)はSFアンソロジーの常連作家で、日本にも多くのファンがいます。
作家にも多大な影響を与えていて、例えば、恩田陸さんは連作短編集『光の帝国 常野物語』(集英社文庫)のあとがきでこう書いています。
子供の頃に読んだお気に入りのSFに、ゼナ・ヘンダースンの「ピープル」シリーズというのがあった。宇宙旅行中に地球に漂着し、高度な知性と能力を隠してひっそりと田舎に暮らす人々を、そこに赴任してきた女性教師の目から描くという短編連作で、穏やかな品のいいタッチが印象に残っていた。
ああいう話を書こうと気軽な気持ちでこのシリーズを始めたのだが…
わたしも以前に恩田氏が挙げる《ピープル》シリーズや、名作の誉れ高い短編「なんでも箱」を記事にしています。
名作の多くが絶版に?入手しやすい収録短編集の現状
しかし、残念なことに《ピープル》シリーズの2冊『果しなき旅路』『血は異ならず』(どちらもハヤカワ文庫SF)は品切れ状態ですし、「なんでも箱」を収めたSFアンソロジーもことごとく絶版・品切れです。
そのため、ゼナ・ヘンダースンの著作で比較的入手しやすいのは、2006年に出版された中村融氏編纂の短編集『ページをめくれば』(河出書房新社)しかありません。
『ページをめくれば』(河出書房新社)

SFアンソロジーの常連作家だというのに、どうして?
特にSFアンソロジーに収録されたゼナ・ヘンダースンの名作短編群が、アンソロジーの品切れ・絶版とともに読むことができなくなっている現状は、何とかしてほしい…と痛切に思います。
ですから、こうやって記事にすれば「ファンがいるからゼナ・ヘンダースンのオリジナル短編集を出版しよう」と思ってくれる出版社が出てこないものか…と願いながら記事にする次第です。
そこで、きょうは絶版状態になったアンソロジーから1作、比較的入手しやすい『ページをめくれば』から1作を選んでご紹介します。どちらも、教師をしながら執筆したゼナ・ヘンダースンのSF短編の一大特徴である、小学校の教室を舞台にした子供たちの不思議な世界を教師の視線から描いた作品です。
「見えない友だち34人+1」:教室に現れた未知の存在
最初に紹介するのは「見えない友だち34人+1」です。
空想の中で遊び相手をこしらえるこどもは、たくさんいる。
あなたも、ひとりっ子だったり、寂しがり屋のこどもであったりしたなら、たぶんそんな遊び相手がいたのではなかろうか。
「見えない友だち34人+1」は、こんな書き出しで始まります。
わたしは小学校一年生の担任なので、この種の遊び相手にときたまでくわす。もっとも、こどもたちは『遊び相手』を家へおいてくるほうが多いようだ。
しかし、転入生のマーシャは違った。彼女がルー・リーと呼ぶ遊び相手を教室に連れてきて、そのスペースに他の子供が近寄ると文句を言い、喧嘩までしてしまう。
そのうちにクラスメートもマーシャの見えない友だちルー・リーが教室内にいるものと思って行動するようになる。
そんなある日、マーシャから訊ねられた。
「ルー・リーが、いつから読み方の勉強をするのか、教えてほしいんだって」
想像の友だちからSFへ!心に響く教師と異星人の交流
翌日、子どもたちがバスに乗り込んで帰宅の途に向かうと、教室にひとりのこっているところで声が聞こえた。
「読み方をおぼえたいんです」
児童の誰かがまだバスに乗っていないものと思って、顔をあげずに「いいわよ」「本を読むのはとてもおもしろいし、そのために学校へくるんですからね。でも、早く行かないと、バスに乗り遅れるわよ」と答えると、ふたたび声が聞こえた。
「いますぐおぼえたいんです」
顔をあげると、教室には誰もいない。深呼吸して「幻聴におそわれるほど、もうろくはしてないはずだ」と思おうとすると、声だけが響いた。
「先生、どうしてもおぼえたいんです」
わたしは声をしぼりだした。「あなたはだれ?」
ソフトで音楽的な笑い声が聞こえた。
「ルー・リーですよ」
「ルー・リー?」
麻痺したわたしの指は、ヨーヨーのひもをいじるだけだった。
「じゃ、もし目をあげても、わたしにはあなたが見えないのね?」
「たぶん見えないでしょう。あなたの目には限界がありますから」
幻覚だ!と叫びたいのを抑えていると、ルー・リーは説明した。
「マーシャのスピードに合わせているひまはないんです」
「単語に備わった人間的な概念と、その背景を知ることが、ぜひとも必要だから」
ルー・リーは宇宙からやってきた調査団のひとりだった。地球で何を調べているのだろうかーー。
疑問だらけだったし、マーシャから「ルー・リーを取った!」と抗議を受けたりしたが、それでもわたしは根気よくルー・リーに本の読み方を教え始める……。
幼少期にありがちな「想像上の友だち」と思わせておきながら、徐々にSFの要素を強めていくあたりにゼナ・ヘンダーースンの特徴がとてもよく表れています。
「信じる子」:何でも鵜呑みにする転入生といじめっ子たち
次に紹介する「信じる子」に登場するディズミーも、マーシャと同じ小学校一年生への転入生です。
出生証明書もなく、名前のスペルもおぼつかない野営地に住む「恵まれない児童」だったが、母親は「先生のおっしゃったことをちゃんと聞くんだよ」とディズミーに釘を刺したあと、教師のわたしにおかしなことを言った。
「この子には真実を教えてやってください。娘は信じる子ですから」
どういう意味だろう?と疑問に思ったものの、その謎はしばらくすると解けた。いじめっ子たちの言う言葉を、ディズミーは鵜呑みにしたからだ。
特にディズミーに絡む二人の男の子ーーバニーとマイケルは、ディズミーの何でも信じる癖を逆手にとって、いたずらを繰り返した。
ある時はディズミーが校庭からいつまでも戻ってこず、捜しにいってみると校庭の真ん中で立ちすくんでいた。
「せんせー!」ディズミーはしゃくりあげました。「ううー、せんせー!」
バニーたちがディズミーの影の上に石ころを置いて、「お前は動けない」と言ったからだった。
「ああ、もうディズミーったら!」思わず声が高くなります。「そんなわけないの! いつだって好きなときに教室に戻れるはずでしょう! 石なんかで影を押さえつけられやしないんだから! ほんとのことじゃないんだから!」
というふうに、小学校低学年のクラスだったらどこにでもあるような、ほのぼのした情景が続くのですが、授業で『オズの魔法くらべ』を教えるくだりから様相が変わってきます。
誰も発音できない呪文?ディズミーが起こした驚きの奇跡
『オズの魔法くらべ』には「ほんものの効果抜群の呪文」が書かれていた。ただし、どう発音したらよいかわからない呪文が……。わたしは黒板に書いた。
Pyrzqxgl。まずは分析です。含まれている文字はぜんぶ知っているのに、母音が「それからときどきy」のyしか出てきません。母音がないうえに音節に区切れるところがどこにもないことばをどうやって発音しましょう? これだけ長いことばなら、音節はふたつ以上あってもいいはずなのに?
黒板の文字に児童たちの興味を一心に惹きつけたところで、『オズの魔法くらべ』に書いてある文章を読み上げた。
『……その不思議なことばの発音のしかたさえ知っていれば、どんな相手だろうと、動物にだって魚にだって、いえ、なんにだって変身させて、またもとにもどすことができるのです』
数日後、ディズミーがかすかなほほえみを浮かべていた。そして、バニーとマイケルの姿が見えない。じっとディズミーを見つめると、口の端をゆがめた。
「あいつらを石ころに変えてやった」
「変えてやった?」わたしは呆気にとられた。「石ころに?」
「そうです。だって意地悪だし。ものすごく。だから変えてやった」またしてもかすかなほほえみが浮かんですぐに消えました。
わたしは訊ねた。「どうやって? いったいなにをしたの?」
ディズミーは誇らしげに答えた。「呪文を練習したんです。先生が教えてくれたやつ。あのPyrzqxgl」
ディズミーはなぜ、誰にも発音ができない子音だらけの呪文を発音できたのか?
このあと思わず膝を打ちたくなるような秀逸な解答がディズミーの口から語られるのですが、そこは明かさないでおきましょう。
紹介作品の収録本とゼナ・ヘンダースン作品の入手方法
「見えない友だち34人+1」は、風見潤氏編纂の『見えない友だち34人+1』(集英社コバルト文庫)に収録されています。
しかし、1980年出版の同書は絶版。同じシリーズの『たんぽぽ娘』『魔女も恋をする』とともに稀覯本扱いになっています。
ちなみに、このシリーズの『たんぽぽ娘』には、ゼナ・ヘンダースンの「なんでも箱」が入っています。

「信じる子」が収録されている『ページをめくれば』(河出書房新社)には、《ピープル》シリーズの一篇「忘れられないこと」が収録されているほか、「光るもの」「しーっ!」のように過去にSFアンソロジーに収録された短編もあり、バラエティ豊かな短編集となっています。
紹介した短編が気に入ったら、まずは『ページをめくれば』をお買い求めください。
(しみずのぼる)
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