内藤了氏の最新作『吸魂の剣』は、昨夏から始まった新シリーズ『火之神の奉り』の待望の続編です。人柱の運命を背負う「憑童」の女子高生・神代江姫が、本作では妖刀に取り憑かれたストーカーとの因縁の対決に挑みます。現実の家族問題と超自然的な怪異が絡み合う、重厚な伝奇ファンタジーの魅力を紹介します。(2026.4.20)
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目次
『火之神の奉り』待望の続編!U-NEXT千夜文庫の新刊
『火之神の奉り』は昨年夏に新しく刊行した文庫シリーズ・U-NEXT千夜文庫の一冊で、『吸魂の剣』はその続編です。
あの眼がほしい。偶然目にした少年に男は心を奪われた。彼を手にできるならなんでもする……。一方文化祭を終え日常を取り戻した江姫。入院中の母にも回復の兆しが見えてきた。しかし父はどこか様子がおかしい。そんな中、街には正体不明の辻斬りが現れる。若い男ばかりを狙う犯人に、江姫を守る眷属たちはある因縁に気づく。繰り返される運命と家族の危機に、江姫が下した決断とは……。
内藤了『吸魂の剣』(U-NEXT千夜文庫)
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ストーカーと「妖刀」の因縁。江姫を狙う執念の正体
『吸魂の剣』の表紙を飾るのは、憑童(よりわら)の女子高生・神代江姫(かみしろこうき)と、水の化身・水龍と新たに眷属に加わった山犬姿の白孤。
それに、江姫がアルバイトで通うライブハウスのマスター・隼人とバンドメンバーで造り酒屋の跡取り息子・升一郎が江姫の護り役を務めています。
しかし、江姫が憑童である以上、ほかのものも引き寄せてしまう。水龍が言います。
あなたがひとたび光を見せれば、明かりに虫が群がるように天魔や鬼が依り憑いてくる。
そうやって引き寄せてしまったのが、前作『火之神の奉り』のハイライト、高校の文化祭で江姫が祭りで披露した神舞に魅入られた男でした。
あの子を自分のものにする。自分だけを見て欲しい。
男の部屋は、祭りのポスターから江姫の目だけを拡大コピーしたもので埋め尽くされていた。
これだ……この目だ……彼の眼だ……鬼どもを睨み、成敗した……美しい凶器のような鋭い眼差し……ああ……ステキだ……きみが好きだよ……
江姫を少年と間違えた男は、高校の通学路で待ち伏せしたが、目当ての少年を見つけられない。
少年に会いたい。あの目で自分を睨んで欲しい。あの眼が欲しい。あの子が欲しい。
そのためならば、なんだってする!
そんな男の妄執に引き寄せられたモノがあった。
……ほんとうかね……
……その言葉に偽りはないかと訊いたのだ…………そのためならば何でもすると、おぬしが言うのは本当か?……
男に取り憑いたのは刀剣の妖だった。川中島の合戦(1553-1564年)が終わってからも「百八十年の永きにわたって人を斬り続けた妖刀」で、それを封印したのが江姫の前世の憑童だった。
ストーカー男と因縁の妖刀は、次々と通り魔事件を起こし、ついに江姫を見つける。
江姫を護る眷属・水龍と山孤、江姫を慕う隼人と升一郎は、江姫を護り切ることができるのかーー。
家族の危機と「憑物」。不倫が生んだ負の感情の連鎖
『吸魂の剣』は、この因縁の対決と同時進行で、江姫の両親のことが描かれます。
バンドマンの父親の不倫から、自殺未遂を起こして入院中の母親。両親を何とかつなぎとめようともがく江姫。しかし、江姫の懸命な努力を裏切るかのような現実ーー。
父親の不倫相手の”悪意”を前に、水龍と白孤が言う。
「ーー相手の女にはトウビョウの類いが憑いているようです」
「なに? トウビョウって」
眉をひそめて江姫は訊いた。
「蛇だとか葛だとか言われるけども、絡みついたら離れないところが似ているだけで、本性は執着や妄念、嫉妬や執念といった負の感情だよ」
姫江が「人が生み出した瘴気なの?」と訊くと、水龍が答えた。
「憑物は心の虚ろに棲み憑きます。そして宿主自身をも蝕んでいく。だからといって、あなたには関係ないことですし、救ってやることもできません」
前作『火之神の奉り』では、エピローグで江姫が神舞と武術を鍛錬してくれた豊葦原瑞穂神社の随神門を守る二神に神酒を届け、一緒に酒盛りする…という多幸感に包まれるエンディングが用意されていました。
けれども『吸魂の剣』は、ストーカー男と因縁の妖刀との対決は無事に決着をつけられても、心の離れた両親をつなぎとめることはかなわなかった……というせつなさ溢れるエピローグとなっています。
次巻『憑童へ』への期待。江姫が背負う過酷な天の采配とは?
『吸魂の剣』の最後の行は
〈次巻:憑童へ〉
となっています。
憑童について、眷属の白孤は水龍とこんな会話をします。
「戦いを選んだのは若君だ。それが憑童の宿命で、宿命は変えられない。災禍の前に生まれてくるのは天の采配を助けるためだと、おまえさんも知っているはずーー」
憑童として生を受けた江姫には、どんな宿命が待っているのか。いずれ降りかかる災禍はどのようなもので、江姫はどんな役回りを果たすのかーー。
『憑童へ』というタイトルなら、次巻から物語が動き出すのかもしれません。
『火之神の奉り』の8か月後に『吸魂の剣』が刊行されているので、同じ間隔なら年末には『憑童へ』は発売される公算が大です。
今からとても楽しみです。
(しみずのぼる)
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