少女漫画の金字塔・萩尾望都氏の『ポーの一族』が、40年ぶりの続編として奇跡の復活を遂げました。かつて完結したと思われていたエドガーとアランの物語が、なぜ現代になって再び動き出したのか、意外と知らない読者も多いのではないでしょうか。現在までに新シリーズは5冊の単行本として書籍化され、ファンの間で大きな反響を呼んでいます。本作が再び描かれることになった背景には、作家・夢枕獏氏による長年の熱烈な執筆要望(ラブコール)があったという興味深いエピソードも存在します。本記事では、現代に蘇った『ポーの一族』続編シリーズの概要や執筆の舞台裏、そして物語の新たな見どころについて詳しく解説します。(2025.10.3)
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目次
40年ぶりに始動した『ポーの一族』続編の認知度
『ポーの一族』は1970年代に多感な10代を過ごした人たちは、女子はもちろん男子でもはまった人は多いだろうと思います。わたしも高校生の頃に3歳下の妹の書棚から盗み読みした口です。
でも、令和の時代に10代の少年少女が『ポーの一族』を手に取るかと言えば、決して多数派ではないでしょう。
自分の子供に勧められるままに読んだ漫画を振り返っても、『進撃の巨人』『鬼滅の刃』『スパイ・ファミリー』等々、いま流行の漫画はあまた溢れかえっています。
そんな令和の時代に「50年前の傑作だよ」と言ってもなかなか伝わりません。
他方で、1970年代に10代で『ポーの一族』の”洗礼”を受けた人たちは、令和の時代、大方が60代です。
新しいものはなかなかついていけなくて…と愚痴めいた言葉もチラホラ出てくるようになって、むかし読んだ漫画を読み直すことは時折しても、最近出版された漫画まではウォッチを怠ってたりします。
そのためか、実は『ポーの一族』が2016年から40年ぶりに連載を再開したことを知らない人が多いのです。
例えば、妹(60代)と最近こんな会話をしました。
わたし:『ポーの一族』は知ってるよね?
妹:もちろん。お兄ちゃんに勧めたのはこのわたしよ!わたしはアランのファンだったわ…
わたし:そのアランの復活をめぐる続編が出てるって知ってた?
妹:うそ!本で読めるの?
ちなみに高校生の時に読んだという妻(60代)も、続編が出ていることを知りませんでした。
かくいう私も最近知って現在発売されている5冊を読んだばかりです。わたしを含めてたった3人のケースで断定するのは危ういですが、それでも、
いまの若い人は『ポーの一族』を知らず、70年代に青春時代を過ごした人は『ポーの一族』の続編を知らず…
という不幸なすれ違いが起きているような気がしてなりません。
新シリーズとして現在までに刊行された5冊の概要
『ポーの一族』の続編はこれまでに5冊発売されています。発売順(カッコ内は書籍の出版年)に、
春の夢(2017年) 永遠の時を生きるバンパネラ(吸血鬼)であるエドガーとアランは、1940年代戦火のヨーロッパ、イギリス郊外でナチスドイツから逃れてきたドイツ人姉弟と出逢う…そしてその出逢いが新たな運命の歯車をまわす
ユニコーン(2019年) 旧作のラストに直結する新エピソード開幕!40年ぶりの新作発表で話題となった『ポーの一族 春の夢』の続刊。旧作のラストエピソード「エディス」で炎にのまれたアランとその後のエドガーそしてバンパネラ一族の運命が紡がれる衝撃の新エピソード
「春の夢」(フラワーコミックス) 「ユニコーン」(フラワーコミックス)
秘密の花園(1巻=2020年、2巻=2021年) 19世紀末、旅の途中のエドガーとアラン。体調を崩したアランのためにアーサー・クエントン卿の館に滞在することになり、エドガーは…?
青のパンドラ(1巻=2023年) アランの復活を望むエドガー!新章開幕!消息を絶ったエドガーが姿を現した2016年、ミュンヘン。火災で消えたアランの復活を強く望むエドガーの前に現れたのは…!? 一族の異端児・バリーは「自分ならできる」というが!? バリー、アーサー、ファルカ、そして大老ポー。次々とエドガーを巻き込み導き、これまで語られてこなかったポーの一族の過去が明らかになっていく衝撃の新章開幕!!
「秘密の花園」全2巻(フラワーコミックス) 「青のパンドラ」1巻(フラワーコミックス)
前回記事の「エディス」のラストをもう一度紹介しましょう。
アランが階下に落下する大時計に足をとられるシーンは、泣けて泣けて仕方ありませんでした。 その場面を呆然と見つめるエドガーのモノローグが始まります。
萩尾望都『ポーの一族』解説!バンパネラが抱える永遠の孤独と魅力…帰ろう
帰ろう
遠い過去へ…
もう明日へは行かない
昔の昔の幸せ
遠い過去へ帰ろう…とエドガーが永遠の生にみずから終止符を打つエンディング。そして何より時計に足をとられて火にのまれるアランの姿……。そこから、エドガーが生きていて、アランの復活再生のために動き出す続編を予想することはとてもできませんでした。
続編執筆の契機となった夢枕獏氏の熱い要望
萩尾さんに強く続編を望んだのは作家の夢枕獏氏です。
文芸別冊の萩尾望都特集(2010年、河出書房新社刊)で、夢枕氏は次のように書いています。
この物語にはたくさんの空白部分があります。ちょっと気になっている続きのことや、たとえば現代にエドガーがいたりしたらどうなんであろうとか、こちらの頭の中には、あれこれの妄想がいっぱいつまっているわけです。
そんなわけで、
「あの続きを、いつか、一本でいいから描いて下さいお願いします」
いつも萩尾さんに言っていたのですが、もちろんこれは、そう簡単なことではありません。一度けじめがついてしまったものをもう一度やるというのは、これは作家にとってたいへんなことです。基本的にはもう、お描きにならないであろうということはわかっているのですが、それでもついつい、こういった無謀なお願いをしていたわけであります。文芸別冊 萩尾望都特集(河出書房新社刊)
この文章は2010年当時のものです。でも、この夢枕獏氏の「無謀なお願い」が2016年の続編再開につながったのです。
長年のラブコールが萩尾望都の心を動かした!
そのことは萩尾氏自身が『別冊NHK100分de名著 時をつむぐ旅人 萩尾望都』(2021年、NHK出版刊)で明かしています。
ファンの方からも、続きを描かないのですか、とよく訊かれていたのですが、「もう絵が変わってしまって描けないので、あなたが描いてください」なんて言って、ひとに丸投げしてきたんです。そんな中でも、夢枕獏さんは甘え上手で「ぼく、あの続きが読みたいな、読みたいな」ってまるで乙女なの。何年も会うたびにそんな風におっしゃるものですから、こんな親切な方の期待に応えられるといいな、と私もつい思ってしまったんですね。
「別冊NHK100分de名著 時をつむぐ旅人 萩尾望都」(NHK出版刊)
ほんとに夢枕獏さんに感謝ですね!!
「エディス」で消失したはずのエドガーとアランの復活劇は、続編第2作『ユニコーン』から始まりますが、復活劇に絡む登場人物が出てくる続編第1作『春の夢』からーーまだ元気なころのエドガーとアランの物語から読まれることをお勧めします。
『ユニコーン』は2016年のミュンヘンが最初の舞台。すでに復活したエドガーが『春の夢』から登場するファルカとこんなやりとりをします。
エドガー:その電話機 今みんな使ってるんだね
ファルカ:ああ これ?スマホさ 世の中どんどん変わってる…
このシーンは夢枕獏氏が「文芸別冊」で「たとえば現代にエドガーがいたりしたらどうなんであろう」と書かれているのを意識したのかもしれませんね。
作中で描かれるバンパネラたちの新たな見どころ
最新刊『青のパンドラ』1巻のラストは次のようなところで終わっています。
エドガー 帰ってきたのか……
ただいま……アーサー
それは…?アランか…!?
そしてアランが目覚めるとーー。
ぼくのツメ誰かマニキュアぬったの?
青いんだけど
復活したアランはこの後どうなるのか!? 第2巻の発売が待ち遠しいです…
現代に復活したエドガーとアランの物語。70年代に多感な10代を過ごした方なら絶対に読んでほしいですし、いまの若い人にも世界に通用する吸血鬼ストーリーとして、ぜひ手に取ってもらえたらと思います。
(しみずのぼる)
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