X(旧Twitter)でも話題にのぼることが多い杉井光氏の「羊殺しの巫女たち」(KADOKAWA刊)を読みました。著者が意識したというスティーヴン・キング「IT」、小野不由美「屍鬼」、綾辻行人「Another」のファンなら絶対楽しめる上質なホラーミステリーです(2025.10.1)
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「世界でいちばん透きとおった物語」の著者
「羊殺しの巫女たち」のことを最初に知ったのはX(旧Twitter)上の書き込みでした。
読書垢の方々が推奨しているのを読んで「へえ~、面白そう」と思って購入(電子書籍)したので、あらすじもうろおぼえで、作者がどういう方かも知らずに読み始めました。
一気に読み終え、紹介文にまとめようと思って調べたら、なんと「世界でいちばん透きとおった物語」の著者ではありませんか!
「世界でいちばん…」は出版社の方に「〇〇さんは『小説はだいたい電子書籍で読む』と言ってましたけど、これだけは電子書籍で読んではダメですよ」と念押しされて勧められた小説でした(以前に「これだけは電子書籍で買ってはいけない! 星新一「進化した猿たち」」で少し触れました…)
『IT』『屍鬼』『Another』
さらに、著者インタビューを読んで、ますます「確かにそうだな~」と思ったのが、前文で書いた3冊への言及でした。
僕はホラーのよい読者ではないんですが、昔からスティーヴン・キングの『IT』は大好きだったんです。あれは少年時代に一つの約束をした仲間たちが大人になってそれをやり遂げるという話で、ホラーというより青春小説の部分が好きだったんですよ。みんな『IT』というとピエロのペニーワイズが怖いという話しかしないのが悔しくて、いつか日本を舞台にしたオマージュ作品を書いてみたいと思っていました。作家デビュー前からの夢でしたね。
――キングというのは納得です。日本のホラーはそれほど読んでこられなかったというお話ですが、本作には伝承や祭事などさまざまな要素が盛り込まれて、しっかりとした民俗ホラーになっていますね。
これも大好きな作品で、小野不由美先生の『屍鬼』はだいぶ参考にさせてもらいました。この小説の舞台は閉鎖的な村で、村長と医者と、宗教指導者の三役ががっちり支配している。『屍鬼』だとお寺なんですけど、本作は「おひつじ様」という神様が支配する村なので、神社が中心です。そういう図式を作ったらあとは自動的に決まっていきました。『IT』、『屍鬼』、そして綾辻行人『Another』が目標にしていた三作なので、装画が『Another』を手がけた遠田志帆さんに決まったときは、本当に嬉しかったですね。
カドブン – 【インタビュー】青春小説とホラー、ミステリの融合作登場 杉井光『羊殺しの巫女たち』
「羊殺しの巫女たち」を読了した人なら、この3冊への言及は「なるほど!」と膝を打つのではないでしょうか。
ちなみに、わたしは読んでいる途中で「これは『Another』みたいな展開かな?」と思いました(詳しく書くとネタバレになるのでこれ以上は控えますが…)
少年の日に体験したあの恐怖の正体は何だったのか? 27年後、薄れた記憶の彼方に引き寄せられるように故郷の町に戻り、IT(それ)と対決せんとする7人を待ち受けるものは?――(スティーヴン・キング「IT」1巻、文春文庫)
人口わずか千三百、三方を尾根に囲まれ、未だ古い因習と同衾する外場村。猛暑に襲われた夏、悲劇は唐突に幕を開けた。山深い集落で発見された三体の腐乱死体。周りには無数の肉片が、まるで獣が蹂躙したかのように散乱していた――。闇夜をついて越して来た謎の家族は、連続する不審死とどう関わっているのか。殺人か、未知の疫病か、それとも……。超弩級の恐怖が夜の帳を侵食し始めた(小野不由美「屍鬼」1巻、新潮文庫)
夜見山北中学三年三組に転校してきた榊原恒一は、何かに怯えているようなクラスの雰囲気に違和感を覚える。同級生で不思議な存在感を放つ美少女ミサキ・メイに惹かれ、接触を試みる恒一だが、謎はいっそう深まるばかり。そんな中、クラス委員長の桜木が凄惨な死を遂げた! この”世界”ではいったい何が起きているのか!?(綾辻行人「Another」上巻、角川文庫)
ホラーやホラーミステリーの名作秀作を意識したという「羊殺しの巫女たち」は次のようなあらすじです。

「十二年後、次の祭りの日に、ここでまた集まろうよ。みんなで」
山に囲まれた早蕨部村で12歳を迎える6人の少女たちは、未年にのみ行われる祭りの巫女に任命される。それは繁栄と災厄をもたらす「おひつじ様」を迎えるため、村の有力者たちが代々守ってきた慣習だった。祭りの日、彼女たちは慣習に隠された本当の意味を知る――。そして12年後、24歳になった彼女たちは、村の習わしを壊すというかつての約束を果たすため、村に集う。脈々と受け継がれた村の恐るべき慣習と、少女たちの運命が交錯する中、山で異様な死体が発見される。
あなたは、真実に気づくことができるか。衝撃のホラーミステリが幕を開ける!

6人の巫女たちの約束
わたしの十二年ぶりの帰郷は、やはり歓迎されなかった。
語り部の「わたし」が早蕨部(さわらべ)村に12年ぶりに帰郷するところから第一章は始まります。
十二年。
この村は、どうにもならなかったのか。
むなしい問いはわたし自身に返ってくる。
十二年ーー。
わたしも、どうにもならなかった。どこにも行けず、結局こうして早蕨部の地に戻って来た。二十四歳という宙ぶらりんの年齢のおとなになって。
約束したから。
十二年後、祭りが始まる前にまた全員で集まろうと誓ったから。
鶲沼(ひたきぬま)邸に近づくと、「どちらさん? ここは山ぜんたい私有地なんでね。勝手に入らんとーー」と声をかけてきた老人が目をみはった。
「……祥子さん、かァ……?」
すぐに邸内から若い女性が駆けてきた。
「ーー祥子ちゃん!」
抱きついてくるのではないかと一瞬思った。十二歳の彼女はよくそうしていた。でも権藤さんの目があるせいか、彼女はわたしの目の前で足を止めた。
「……伊知華」
名前を呼んだだけで、わたしの声は喉に詰まる。
祥子と伊知華、健瑠(たける)、美咲、梢恵、夏帆の6人は12年前、「おひつじ様」を迎える初穂祭りの巫女を務めたーー。
2つの時間軸と謎の提示
「羊殺しの巫女たち」は、12年前の祭りに至るプロセスと、12年後に全員で集まるという約束のもとに6人が再び「おひつじ様」と対峙するプロセスと、2つの時間軸を交錯させながら進み、その過程で読者の前にさまざまな謎が提示されていきます。
例えば、伊知華との再会後、小学校に小野住先生を訊ねる場面。小野住先生は6人が巫女を務めた12年前の元巫女で、再会するなりこう訊ねます。
「ねえ、あなたたち、前の祭りのときになにをしたの? ほんとに私の教えた通りにちゃんとできたの? なにか、ねえ、なにかーー」
わたしが後ずさると冬枯れの草が足下で軋み、先生の手が伸びてきて二の腕をつかむ。爪がブラウスの袖越しに肌に食い込む。
「なにかしたんじゃないの? なにか変なことしたんでしょう、そうでしょう? あれから村はほんとうにたいへんなことになって、もうどうしようもなくて、それで、それで」
6人の巫女たちは12年前に何をしたのか? そもそも「おひつじ様」とは何ものなのか?
おひつじ様が来たんだ
そんな謎が次々と読者を襲うと同時に、若い女性の惨殺体が発見されたことが、電話のやりとりのかたちで読者に提示されます。
「……そう、……半身をばっくりやられてるらしい。……いや、よそ者の若い女だと言っていた。……わからんらしい、なにせ素っ裸で、顔もわからないくらい……」
「とにかく漆原病院に確認しにいってくれ。……ああ。たぶん。……ようやく始まったんだ。くそったれが、もう十一月だぞ。……ああ。来たんだよ。……」
来たんだよ。
正克の声が頭の中で響く。
おひつじ様が来たんだ。
「おひつじ様」がもたらす怪異に着目すれば、因習が強く残る村で引き起こされるホラーという趣があるのは確かです。
でもそれ以上に、読者は著者が小出しに提示してくる謎を追いながら、「おひつじ様」とは何ものなのかーーという最大の謎に向かって(12歳の巫女たちと24歳になった女性たちを通して)徐々に導かれていきます。
その巧みな謎の提示の仕方は、まさに上質のミステリーを読んでいるような感覚に似ています(途中で綾辻行人氏の「Another」のことが頭に浮かんだのも、まさにそれが理由です)
私はどこから騙されていた?
出版社は次のようにうたっています。
- 一読目は「怖い」、二読目は「切ない」。二度楽しめる新感覚ミステリ
恐怖に満ちた初読の後、再読したくなる。二度読み必至の構成になっています。緻密で巧妙に仕掛けられたトリックは「ネタバレ厳禁」。読み返すほどに物語の切なさと感動が増す、新感覚の読書体験をお届けします。
真相に気づいた方も、気づかなかった方も、もう一度この本を読み直してください。
https://www.kadokawa.co.jp/topics/14478/
「私はどこから騙されていた?と、また最初のページに戻るしかなかった……」という書店員さんの感想のとおりです。わたしも著者がどういう叙述で騙したのかを確認したくて、出版社に言われるまでもなく最初の1ページ目から読み直してしまいました。
とにかくネタバレ厳禁なので、これ以上踏み込むのは控えます。
「羊殺しの巫女たち」は、ホラーであり、ミステリーであり、著者自身が「強く意識した」と言う青春小説であり、とても充実した読後感が味わえる小説であるのは間違いありません。おすすめです。
(しみずのぼる)
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