角川文庫から10代向け書き下ろしアンソロジーが出版されました。ミステリーとホラーの『君に綴る物語』シリーズ。児童書を卒業した青少年に向けた作品でありながら、大人の読者をも深く魅了する小説が収録されています。ホラー篇から、日常の中に潜む驚きや切ない真実を描いた伴名練氏の「押し入れの宇宙飛行士」を紹介します。(2025,8,11)
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児童書から一般文芸への架け橋となるYA小説
『君に綴る物語』シリーズは「児童書を卒業したら、読むべき本がわからない!」という中高生をターゲットにしているそうです。
ミステリー篇のタイトルが『ブラックボックス、誰が解く? 君に綴る4つの謎 』、ホラー篇のタイトルが『学校の怪談じゃ、ものたりない? 君に綴る5つの恐怖』で、いずれも書下ろしアンソロジーです。
児童書を卒業したら、読むべき本がわからない!
そんな中高生のために、角川文庫がぜったいにまちがいないアンソロジー小説を作りました。本作のテーマは「ミステリ」。「フーダニット」「ハウダニット」「ホワイダニット」「叙述トリック」とそれぞれのお題で人気作家4名に書き下ろしていただいた極上の短編に、どう読んだら楽しめるか?のヒントを添えてお届けします。
アンソロジーだから短い時間で読める、満足度100%の謎解き小説。はじめてのミステリ小説は、ここからはじめよう!『ブラックボックス、誰が解く? 君に綴る4つの謎』 (角川文庫)
怖くて、恐くて、おもしろい! 豪華作家陣が、君に綴るアンソロジー。
ホラー小説界の最前線で活躍する作家陣が集結!
物語の主人公は、全員高校生。
お化け、恐怖物件、青春、デスゲーム、モキュメンタリー……
たくさんの「こわい」が凝縮された、恐怖小説アンソロジー。『学校の怪談じゃ、ものたりない? 君に綴る5つの恐怖』 (角川文庫)
児童書からいきなり中高生というのは???と思いましたが、イメージとしては「こわい話の時間です」のような小学校高学年向けの本から、ヤングアダルト(YA)本に差し掛かるあたり、10代の前半がターゲットなんだろうな…と想像しました。
収録されているのは9人の作家の書き下ろし短編です。
ブラックボックス、誰が解く? 君に綴る4つの謎
- 青柳碧人「ヤンキー、ミステリと出会う」
- 秋木真「将棋部、無実を証明せよ」
- 相沢沙呼「屋上の雪融け」
- 似鳥鶏「学生時代の母の原稿」
学校の怪談じゃ、ものたりない? 君に綴る5つの恐怖
- 梨「イオ」
- 内藤了「CHURCH ――恐界――」
- 藤ダリオ「サイコロあそび」
- 伴名練「押し入れの宇宙飛行士」
- 澤村伊智「しゃぐらどりの娘」
Amazonのお気に入り登録で発売を知る
『君に綴る物語』シリーズを読んだきっかけは、Amazonのお気に入り登録でした。
わたしはシリーズものを読んでいる作家の場合、シリーズ最新刊の発売を逃さないようにAmazonの登録機能を使っているのです。内藤了氏なら「ミカヅチ」シリーズ、マーク・グリーニーなら「グレイマン」シリーズ、いくえみ綾氏なら「1日2回」…といった具合です。
内藤了氏のお気に入り登録から『学校の怪談じゃ、ものたりない?』の案内がメールで届いて、おもしろそう…と思って電子書籍で2冊まとめて購入しましたが、どの短編もとても面白い! しかも、それまで読んだことのなかった作家の作品にも触れることができて、

この人のほかの小説も読んでみよう…
と思えた作家にも出会えました。これがアンソロジーのいいところですね!
伴名練「押し入れの宇宙飛行士」:宇宙人を名乗る隣家の女の子
全作品紹介することはできないので、2回にわけてホラーから1つ、ミステリーから1つ紹介します。
まずホラーから。内藤氏の「CHURCH」ーーミッション系女子高を舞台にした幽霊譚ーーもせつなくて自分好みでしたが、せつなさでさらに上を行き、恥ずかしながら初めて読んだ伴名練氏の「押し入れの宇宙飛行士」を紹介します。
神様に選ばれた宇宙飛行士ならば、段ボール箱と扇風機の羽根、壊れたラジオと百円ショップ製のヘッドホンで星の海を渡ることができる。神様に選ばれた、特別な宇宙飛行士ならば。
「押し入れの宇宙飛行士」はこんな書き出しで始まり、いきなり18歳の主人公の「僕」が小学1年生だった時にジャンプします。
当時、築数十年の安アパートに暮らしていた僕は、母に「おとなりどうしなんだから遊んであげて」と言われ、隣の部屋に住むシエルちゃんの相手をさせられた。
ある日、ふたりで子供向けの特撮番組を見ていたら、シエルちゃんに「うちゅうじん、こわいの?」と訊かれた。
「ぜんっぜん、こわくない」と虚勢を張ると、
「じゃあ、ゆうまくんにだけ、おしえてあげる」
「わたしね、うちゅうじんなんだ」
僕が「うそだ」と言うと、シエルちゃんは「しょうこを見せるから、うちに来て」と言い、僕は隣の部屋に上がり込むことになった。
案内されたのは、何の変哲もない押し入れだった。押し入れに一緒に入って、いったん瞑った眼をひらくと、押し入れは宇宙船の船内、窓に広がるのは星々の輝きだった。
「このうちゅうせんって、どこへいくの?」
「わたしの家がある星」
シエルちゃんが一緒に暮らす母親は実際の母ではないとも言う。「寂しそうだったから、わたしが家族になってあげた。本当のお母さんは、わたしが帰ってくるのを、あっちの星で待ってる」
シエルちゃんは言った。「わたしは神様に選ばれた、宇宙飛行士だから」
その日から、僕は毎日シエルちゃんの家の押し入れでシエルちゃんと一緒に宇宙旅行を楽しんだ……。
母親から明かされるせつない真相
シエルちゃんとの別れは突然訪れた。
前日、「悠真も、わたしの星で一緒に暮らしてくれる?」と訊かれたが、逡巡した末に「お母さんのオムライスが、たべられなくなるのは、やだ」と返事をした。
「じゃあ、君とはここでお別れだね」
「うちゅうせんがあっちについたら、あいずしておしえてあげる」
「ずっといっしょにいてくれて、ありがとう」
翌日、放課後に訪ねると、シエルちゃんの部屋は人気がなかった。押し入れを開けてもふつうの押し入れだった。母親から「お隣さん、お引っ越ししたんだって」と聞かされた。
僕がシエルちゃんについて次に母から聞かされたのは、十一年後の今日、僕が十八歳の誕生日を迎えたその翌日だった。
「シエルちゃんって覚えてる? 詩人の詩に天使と書いて、詩天使ちゃん。あんたが小さかった頃、アパートの隣に住んでた有末さん家(ち)の女の子」
「あの子のこと、引っ越ししたって伝えたけど……本当は亡くなったんよ」
父親は別の女の家に転がり込み、母親はホストに嵌って育児放棄。シエルちゃんがゴミ捨て場を漁っている現場に遭遇したこともあったという。不憫に思ってお風呂に入れたらからだに虐待の跡があり、施設に通報したものの間に合わず、娘と心中すると書かれた母親の遺書が見つかった……。
自転車を漕いで、かつて暮らした安アパートを訪ねる僕は思う。
誰かに僕の経験したことを打ち明ければ、きっとこう納得されるだろうーー父に見捨てられ、母に虐げられた小学生の少女は、過酷な現実から自身の心を守るために物語を創り上げた。自分はこの星にやってきた宇宙人で、寂しそうな女の人のかりそめの子供になってあげているに過ぎなくて、本物の優しい家族は別にいるのだ、そしてもうすぐ地球を離れてふるさとの星に帰るのだと。
11年後に母親から聞かされる「真実」は重く悲しい現実です。
怪異よりも怖いのは人間ーーと思えば、この重く悲しい現実で終わればホラー…かもしれません。
しかし、著者の紹介欄をみると、こう書いてあります。
大学在学中に応募した「遠呪」で第17回日本ホラー小説大賞短編賞を受賞……近年は中短編SFを中心に発表……

これも「中短編SF」のひとつなら? 書き出しのとおり、もしもシエルちゃんがほんとうに「神様に選ばれた宇宙飛行士」だったら?
母親が僕に「真実」を語って以降の数ページは明かさないでおきましょう。最後の一文に心洗われます。

ホラーというよりSFだけど、こんなせつなくやさしいSFの書き手なら、ほかの小説も読んでみよう!
次回は『ブラックボックス、誰が解く?』から紹介します。
(しみずのぼる)
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