きょうは藤原カムイ氏が漫画化した「ウルトラQ」を紹介します。子供の頃に夢中になったウルトラシリーズ。でも大人になって観直すのはちょっと…。そんな大人も十分満足できるのが藤原カムイ版「ウルトラQ」です。懐かしい記憶の情景が「繊細な絵」で甦ります(2025.7.27)
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1966年放送の特撮ドラマ
ウルトラQは1966年にTBS系列で放送された特撮ドラマです。視聴率30%を超す好評ぶりから、ウルトラマン(1966~67年)、ウルトラセブン(1967~68年)…と、その後のウルトラシリーズが始まるので、すべての起点はウルトラQということになります。
「私が愛したウルトラセブン」の時にも書きましたが、放送当時は地方に住んでいたためTBS系列の番組はテレビに映らず、ウルトラQは小学生の時に再放送で観ました。
あけてくれ!…悪魔ッ子…
こう言うと若干語弊があるかもしれませんが、ウルトラマンやウルトラセブンのように正義の味方が登場して怪獣や宇宙人をやっつける…というストーリーは、小学校低学年までなら夢中になれても、小学校高学年になると物足りなくもなります(ウルトラシリーズの大ファンの方、すみません)
それに対してウルトラQは、何やら不思議めいたものや怖いストーリーが多くて、映像を見返すと「ああ、怖かったよなあ…」と懐かしい気持ちになります(個人的に一番強く印象に残っているのは「あけてくれ!」と「悪魔ッ子」です)

第28話「あけてくれ!」/異次元列車
脚本:小山内美江子 監督:円谷 一 特技監督:川上景司
誰でも一度は考えたことがあるだろう「現実からの逃避」 もし、この世の嫌なことから逃げ出して理想郷へ行くことができるのなら…。会社員の沢村は、気づくと空を走る電車に乗っていた。そこにはSF作家の友野という男が…。
第25話「悪魔ッ子」 /悪魔ッ子リリー
脚本:北沢杏子(原案:熊谷 健) 監督:梶田興治 特技監督:川上景司
深夜にかけて、自動車事故が頻発。被害者は一様に幽霊のような子どもの影を目撃し、更には懐中電灯や人形など必ず何かを紛失していた。現場近くにいた魔術団の少女・リリーのオルゴールには現場から無くなった小物が…。
https://m-78.jp/q/list.html
「懐かしいなあ…でもわざわざお皿を買ってまで観直すのはちょっと…」という中高年でも、「ウルトラQって、ストーリーは少し惹かれるけど、このCG全盛時代に観たいとは思わないな…」という若い人でも、手に取って後悔しないのが、2011年に出版された藤原カムイ版「ウルトラQ」(角川書店)です。

「繊細な絵」で6篇を収録
藤原カムイ氏(1959ー )の経歴をウィキペディアでみると、
1987年より『月刊コミックバーガー』(スコラ)で寺島優原作の『雷火』、1991年には『月刊少年ガンガン』(スクウェア・エニックス)で川又千秋原作の『ドラゴンクエスト列伝 ロトの紋章』を連載し、人気となる。
代表作に『雷火』『ドラゴンクエスト列伝 ロトの紋章』『西遊記』『精霊の守り人』など。
大友克洋同様、メビウスより多大な影響を受けており、繊細な絵が特徴。
とあります。まさに「繊細な絵」でウルトラQの世界がオリジナル以上に精緻に描かれているのが魅力です。
収められているウルトラQは、
- ペギラが来た!
- 地底超特急西へ
- バルンガ
- ガラダマ
- 2020年の挑戦
- 悪魔ッ子
の6篇。先に紹介した「悪魔ッ子」以外のストーリーはウルトラQの公式サイトから。

第5話「ペギラが来た!」/ 冷凍怪獣ペギラ
脚本:山田正弘 監督:野長瀬三摩地 特技監督:川上景司
南極基地へ向かう船に同乗した万城目。彼らを待ち受けていたのは、異常な寒波と怪現象だった。 そして、3年前に失踪した隊員の手帳には「ペギラ」という文字が不気味な文字が記されていた。
第10話「地底超特急西へ」/ 人工生命M1号
脚本:山浦弘清/千束北男 監督:飯島敏宏 特技監督:的場 徹
新東京駅より初運転を始めた地底超特急いなづま号。順調な試運転と見えたが、一平が間違えて人工生命体を持ち込んでしまう。制御不能となった地底特急の運命や如何に!
第11話「バルンガ」/ 風船怪獣バルンガ
脚本:虎見邦夫 監督:野長瀬三摩地 特技監督:川上景司
「燃料が無い」「風船」という通信を最後に墜落した土星ロケット、サタン1号。その後、万城目たちを襲う、突然燃料が切れるという怪現象。 風船怪獣バルンガがあらゆる動力を吸収し無限に膨らんでいく…。
第13話「ガラダマ」/ 隕石怪獣ガラモン
脚本:金城哲夫 監督:円谷 一 特技監督:的場 徹
熊谷ダム付近で発見された異常に軽い隕石。落下地点に調査へと向かった一の谷博士、万城目たちの前でダムに隕石が落下。 湖水が一瞬にして蒸発し隕石怪獣ガラモンが現れた!
第19話「2020年の挑戦」 / 誘拐怪人ケムール人
脚本:金城哲夫/千束北男 監督:飯島敏宏 特技監督:有川貞昌
相次ぐ人間消失事件。ある者は飛び込み台からジャンプした瞬間に、またある者は飲み物の入ったコップだけを残して…。 偶然に事件を撮影した由利子は写真に不気味な液体が写っているのを発見する。
https://m-78.jp/q/list.html
ガラモンやケムール人はその特徴的なフォルムから「見たことある!」という人も多いと思いますが、「こんな話だったのか…」という人は少なくないのではないでしょうか。
小学生低学年の時に再放送で観たはずの自分も、ストーリーはまったく憶えていませんでした(手と足を揃えて走るケムール人の真似は友達とよくしたのですが…)
湖底の村を”再訪”する少女たち
ストーリーの細部も、藤原カムイ版のほうが情感豊かに描かれているのではないかと思います(オリジナルを再チェックしていないので違ったらお許しください)
例えば「ガラダマ」だと、ダムの湖底に沈む村を水面のボートから眺める少女ふたりの会話の場面が出てきます。
あっ あの辺よ! あたし達の家があったの!
本当だ!! 道路の跡が見える!!
思い出すわね あんたの家の横に大きな松の木が一本立ってて…
そうそう ヤエったらいつもあたしのこと 一本松一本松ってからかって
懐かしいわァ…
本当…
そこから湖底に沈む前の子供時代の回想が挿まれます。
一本松!あんたんとこどうすんの?
川下の方に引っ越すことになったんさ
そうなん
あんたは?
あたいんちは東京の親戚んち行くって
そしてオルゴールを手渡しながら「忘れないで」と言葉を添える……。
いかがですか。このあと湖底からガラモンが登場して、ふたりの少女の乗ったボートは危機に瀕するのですが、きっと怪獣や宇宙人に夢中だった子供の頃なら、ただひたすらガラモンの登場に心が躍って、こんな湖底に沈む故郷を思う少女の心象風景が記憶に残ることはなかったでしょう。
「ガラダマ」は、ダムの湖底に潜んでいた宇宙船がダムを破壊して地球を立ち去り、水が引いたかつての村を”再訪”する少女たちが、泥の中からオルゴールを見つける場面で終わります。
漫画だからこそ描ける情景ではないでしょうか。
1966年…戦後の面影が残る
ウルトラQが放送された1966年ーー昭和41年と言えば高度成長のまっただ中ですが、まだまだ戦後の面影が残る時期です。
靴磨きの少年(「地球超特急西へ」)、木造の校舎(「ガラダマ」)、蒸気機関車(「悪魔ッ子」)、後楽園遊園地(「2020年の挑戦」)……。そんな登場人物や場面が、藤原カムイ氏の「繊細な絵」で再現されています。
藤原カムイ版ウルトラQが出版されたのは2011年、そして今年は2025年。いまの目でみれば、はるか遠い過去の出来事や情景に違いありませんが、ウルトラQの世界が漫画によって再現されることで、忘れていた過去を呼び覚ましてくれる…そんな気持ちになります。
惜しむらくは藤原カムイ版が再現したウルトラQはわずか6話だけという点です。子供の頃に鮮烈な記憶を残した「あけてくれ!」を藤原カムイ版で読みたかった!
オリジナルに興味のある方は、高精細の映像で復元されていますので、公式サイトのサブスクや「4K UHD BOX」でお楽しみください。
(しみずのぼる)
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