”謎解き快感度No1”に偽りなし:澤村伊智「ずうのめ人形」 

”謎解き快感度No1”に偽りなし:澤村伊智「ずうのめ人形」 

きょう紹介するのは澤村伊智氏のホラー・ミステリー小説「ずうのめ人形」(角川ホラー文庫)です。比嘉姉妹シリーズの第2作目ですが、私的にはホラー度、ミステリー度どちらも群を抜く面白さでした。コミカライズも始まり、楽しみです(2025.6.18) 

〈PR〉

楽天ブックスは品揃え200万点以上!

「ぼぎわん…」でデビュー

澤村伊智氏のデビュー作「ぼぎわんが、来る」(2015年、角川ホラー文庫)が日本ホラー小説大賞を受賞してすぐ読み、以来、新刊が出るたびに読んでいましたが、途中で追いつかなくなりました。 

今回、澤村氏の小説をベースにした漫画「比嘉姉妹」(KADOKAWA刊)を読んで、もう一度「ぼぎわん…」から再読をしようかな…と思い立って、長編4作を読み終え、全部で3冊ある短編集は2作目の途中です。 

澤村ホラーの大ファンの娘のイチオシは「ばくうどの悪夢」(2022年、KADOKAWA刊)だそうです。 

「ばくうどの悪夢」(KADOKAWA刊)

「ばくうど…」刊行時にアンソロジストの朝宮運河氏が「待望の最新長編『ばくうどの悪夢』刊行記念!ホラー小説の旗手・澤村伊智の代表作「比嘉姉妹」シリーズを徹底解説。」という記事を書いています。「ばくうど…」の部分はこうです。 

主人公の「僕」は両親とともに東京から兵庫県の地方都市に引っ越してきたばかりの中学1年生。田舎特有のノリになじむことができず、疎外感を感じている彼には、もうひとつ深刻な悩みがあった。それは夜ごとに見る悪夢。恐ろしいものに襲われ、傷つけられる夢をくり返し見ていたのだ。しかも夢の中でできた傷は、現実の世界にもそのまま反映される。
同じく悪夢に苦しめられている同級生の由愛とともに、死から逃れようとする「僕」。事情を知った真琴と野崎は、子どもたちを救おうと奮闘するが……。

シリーズ最大のボリュームを誇るこの長編で澤村伊智が挑んだのは、眠りの世界に現れる夢の怪だ。「ばくうど」と呼ばれる怪異の正体は何か。眠ったら死ぬという極限状態から、子どもたちは逃れることができるのか。そして「僕」の夢の中に現れる謎めいた女性の正体とは? 

https://kadobun.jp/feature/readings/entry-47050.html

きわめてトリッキーな構成(登場人物欄が前半部と後半部に2つある)で、澤村氏の小説の特徴である「一人称で書かれた人物が善人とは限らない」という点でも秀逸な小説です。 

一人称が善人と限らない

「一人称で書かれた人物が善人とは限らない」というのは、読者は一人称で書かれた人物に合わせてストーリーを読み進めるのが常です。 

そのため、いつしか一人称の人物の思考や感情を追認しつつ読み進めますが、次の章で別の人物の視点で描かれ、しかも前の章の一人称の人物が実は善人ではないことが明かされる…という展開が、澤村氏の小説には多いのです。 

「ぼぎわん…」もそうですし、「ばくうど…」もそうです。「ぼぎわん…」以来、澤村氏の小説は構造上にトリックがあるとわかっていながら、必ずひっかかってしまうのですが、それが澤村ホラーのもたらす衝撃と快感なのでしょう。 

わたしがいちばん好きな「ずうのめ…」にも一人称トリックが出てきますが、さらにもうひとひねりしてあって、怪異の結末には心打たれます(人が大量に死ぬのに、ですが…)

「ずうのめ人形」(角川ホラー文庫)

朝宮氏の「ずうのめ…」の紹介文を引用します。 

オカルト雑誌の編集部でアルバイトをしている藤間洋介は、音信不通となっていたライターの自宅で原稿用紙の束を見つける。中学生の少女の一人称で書かれたその原稿には、「ずうのめ人形」という都市伝説にまつわる記述があった。原稿を読んだ者が次々に命を落としていき、藤間は呪いから逃れるため先輩ライターの野崎に相談。野崎は真琴とともに、不気味な都市伝説の出所を探ることになる。 

この長編で澤村伊智が扱っているのは、「この話を聞いたら呪われる」「ある行為をしなければ命を落とす」といったパターンの都市伝説だ。ウイルスのように無差別に呪いが広がるこうした“感染系”ホラーがわが国でよく知られるようになったのは、間違いなく、鈴木光司の『リング』がきっかけだろう。『ずうのめ人形』は作中で『リング』にしっかり言及しつつ、この王道のモチーフに挑んでみせた。 

迫りくる死を回避するために謎を解かなければいけない、という設定だけでも十二分に恐ろしいが、そこに黒い着物の日本人形が迫ってくる、というビジュアルを絡めることで、和のホラーテイストを加えている。人間のダークサイドをえぐるようなキャラクター造型と、本格ミステリとしての充実度もある意味デビュー作以上。この長編は各種ミステリランキングで多くの票を集め、第30回山本周五郎賞にノミネートされた。 

https://kadobun.jp/feature/readings/entry-47050.html

交流ノートのやりとり

「ずうのめ…」は、藤間が原稿を読んで徐々に人形が近づいてくる怪異に遭遇し、先輩ライターの野崎や比嘉真琴の助けを得ながら怪異を引き起こす都市伝説の謎を探る部分と、その怪異を引き起こす大本の「中学生の少女の一人称で書かれた原稿」が交互に描写されます。 

中学生の少女は学校で浮いた存在で、映画「リング」が大ヒットしている時だったため、サダコの綽名をつけられ、心の平穏が保てるのは図書館だけ。そこで司書から紹介された交流ノートに、少女はこんなふうに書き込んだ。 

鈴木光司の『リング』を読んだ人、どうでしたか? 私はすごく面白かったです。
映画は見に行こうと思います。
おすすめの怖い話があったら教えてください。

署名は「りぃ」と書いた。これに返信があった。「すごく怖かったです。貞子の呪いは怖かったけど、貞子がかわいそうだと思いました」。署名は「ゆかり」とあった。こうして「りぃ」と「ゆかり」の交流ノートを通じた文章による交流が始まった。 

伏字だらけの文章

ある時「ゆかり」が「ずうのめ人形」という題名の文章を交流ノートに記していた。友達のおばあちゃんが子供だったころの話で、蔵に仕舞われた箱にその人形は入っていた…という書き出しだった。 

黒いふりそで■■■■■の■の人形でした。
顔だけが、赤い糸で何重にもぐ■■■■■■■■■■■■■■
(略)
「あれは、ずうのめ人形というんだよ」
「ずっと昔から■■■■■■■■■■だ」
「こわしても捨てても呪われる。だから顔をしば■■■■■■■■■■■■■■」

「ゆかり」の文章には、ずうのめ人形が現れた時の呪いを解く方法も触れていた。 

この話を聞いた人のところへ、■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■来たら、まずこの歌を歌ってください。

ずうのめ ずうのめ いずくより
うつけのくちか うまずめのはらか
むなしきこおらの はらわたか

ずうのめ ずうのめ いずくにか
おやまのうえか おおうみのはてか
あいなきみいめの ひとがたか

そ  し  て  最  後  に、
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
ゆかり

呪いを解く方法のくだりは伏字になっていて読めなかった。 

道路に立つ日本人形

この時点では、藤間より先に原稿を読んだ出版社のアルバイトに怪異が現れていたものの、藤間自身はまだ人形の姿を見ていません。しかし、そのアルバイトの岩田と両親が無惨な死に方をして、彼らの葬儀の日、いよいよ藤間にも見えるようになります。 

パトカーは角を曲がって見えなくなる。
その向こうに小さな小さな点が見えた。道路の真ん中に、ちょこんと乗った黒い点。
目を凝らした瞬間、僕は我に返った。自分が何故ここにいるのか今更のように思い出す。岩田くんとご両親のことが頭をよぎる。岩田くんの電話での言葉も。
足に力が入らなくなって、胸を締め付けられる。それでも僕は、自分が見ているものから目が離せなくなった。
黒い点だと思っていたのは、真っ黒な人形だった。
三十センチほどの小さな日本人形が、道路に突っ立っている。
顔だけが真っ赤だった。
違う。
遠くて見えないだけだ、あれはーー赤い糸だ。
僕は今、ずうのめ人形を見ているのだ。
それが意味するところを悟って、僕はその場にへたり込んだ。

藤間は、野崎、比嘉真琴とともに、人形の呪いを解くには「りぃ」と「ゆかり」を探す必要があると悟り、原稿を読み進めていくーー。 

怪異の結末に心打たれた部分はネタバレになってしまうので、この文章では伏せざるを得ません。紹介した部分で面白そうと思った方は、ぜひ「ずうのめ…」を手に取って、ご自身で怪異の結末をお確かめください。 

呪いは人が作りだす

澤村氏の比嘉姉妹シリーズは、無気味なひらがな4文字が何を指すのか、という部分も隠れた謎となっていますが、「ずうのめ」の意味にも驚きます。「ずうのめ…」の最初の方で 

呪いは人が作りだす 

という文章が出てきますが、まさに!と思えるような意味ですので、そこにも注目して読み進めて頂ければと思います。 

「ずうのめ…」のAmazonのページをみると下記の画像があって、「ずうのめ…」は「謎解き快感度No1」とあります。わたしもそう思います。 

コミックは第2巻から

わたしが比嘉姉妹シリーズを再読するきっかけとなったコミカライズ版も触れておきます。片岡人生氏と近藤一馬氏が漫画を担当し、澤村伊智氏は原案となっています。 

昨年11月刊行の第1巻は、短編集「などらきの首」所収の短編「ゴカイノカイ」「ファインダーの向こうに」、「すめせごの贄」所収の「火曜夕方の客」からなり、今年5月刊行の第2巻からが「ずうのめ…」です。 

「比嘉姉妹」第2巻(KADOKAWA刊)

まだ発売されていない第3巻も「ずうのめ…」が続きますから、最初にコミカライズ版から読み始めてもいいかもしれません。”謎解き快感度No1”のホラーミステリーの世界に惹き込まれること請け合いです。 

(しみずのぼる) 

〈PR〉

映画化・実写化・アニメ化で話題のマンガを読める 【Amebaマンガ】