証券口座乗っ取り事件で多要素認証が義務化されてスマホに認証コードが飛ぶ場面が増えました。スマホは以前にも増して社会インフラになっていると実感します。そんなスマホを巡って今、不可思議な議論がひそかに行われています(2025.5.25)
【追記】NHKが公に説明しましたので末尾に加筆しました(2025.6.14)
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目次
NHKのネット受信料 10月から
その「不可思議な議論」とは、NHKが今年10月から実施するネット受信料に付随したものです。
テレビを利用している人はNHKに受信料を支払う必要があります。現在の受信料は、地上契約が月額1100円、衛星契約を含めると月額1950円です。
NHKは昨年の放送法改正で、放送だけでなくインターネット事業も本格的に行えるようになり、今年10月から、インターネットでの視聴ーー「NHKプラス」アプリでの視聴にも、受信料(月額1100円)を求める予定です。
NHKプラスのApp Store画面から
受信料を払っている人は「NHKプラス」を利用しても追加負担を求められることはないので、あまり議論が盛んではないのですが、テレビを持っていなくて「NHKプラス」を利用するケースについて、とても不可思議な議論が展開されているのです。
解約は「受信機廃止」同様
例えば、Asagei Bizの「「いっそサブスクにしろ」NHKが発表した「ネット受信料」規約改正に大ブーイング!」という記事を見てみましょう。
NHKが、今年10月から改正するネット受信の規約素案を発表した。
素案では、ネットのみの視聴者も受信契約の対象となり、地上契約と同様の月額1100円(沖縄県は月額965円)の受信料がかかる。ただ、すでに受信契約を結んでいる場合は、ネット受信料の追加負担は不要だ。
一方で、ネット受信契約の解約を行なう場合については、「本人とその家族が継続的に配信を受信していないことや、受信機の設置がないことを届ける必要があり、受信機廃止の場合と同様に規定」とあった。
Asagei Biz – 「いっそサブスクにしろ」NHKが発表した「ネット受信料」規約改正に大ブーイング!
ポイントは、解約する際の規定を「受信機廃止の場合と同様に規定」するーーという部分です。
テレビは廃棄証明が必要
実は知らない人も多いのですが、NHKの受信料を解約するには、テレビの廃棄証明を求められるのです。
以下の記事がわかりやすいです。
自宅にあるテレビを処分したあと、実際にどのような流れでNHK放送受信契約を解約するのでしょうか。解約の流れについて見ていきましょう。
- 解約証明書の入手
- 解約申し込み
- 解約書類に記入
- 返送
- 過払い金の返金
NHKふれあいセンター(0120-222-000)に電話をし、解約手続きがしたい旨を伝えましょう。電話では今後テレビを購入するかどうか、電話番号や住所などの個人情報が聞かれます。申し込み後1~2週間で解約届が郵送されるので、必要事項に記入し、返送しましょう。
ここで1つ気をつけなくてはいけないのが、テレビを廃棄したという証明(売却証明)が必要なことです。売却証明がない場合は手続きが進まないため、家電リサイクル券や廃棄・譲渡証明書などの証明書は捨てずにとっておきましょう。
ファイナンシャルフィールド – テレビを処分したのでNHKの受信料を解約しようと思いましたが、「売却証明」が必要と言われました。本当に手続きが進まないのでしょうか?
スマホも「廃棄証明」?
Netflixなどの動画配信サービスを解約する時も、アプリをアンインストールするだけでは解約できませんが、マイページにアクセスすれば解約手続きは完了します。銀行も証券会社も、あらゆるネットサービスがそうです。
ところが、「NHKプラス」を試しに使用してみて、それほど利用しないな…と思った時、アプリをアンインストールするだけでは足りないところまでは理解しますが、NHKの窓口に電話して解約を申し込んだ際に「受信機廃止の場合と同様な規定」になる…ということは、スマホを廃棄して、かつ、スマホの廃棄証明を求められるーーということを意味します。

え?スマホの廃棄証明って、どうやるの?
皆さんはスマホを買い替えた際、古くなったスマホをどうしてられるでしょうか。
わたしはガラケーを含めてすべて捨てずに保管しています。だって個人情報の塊ですから、廃棄業者に悪用されたらたまりません。
パソコンも廃棄する時はハードディスクを抜き取ります。物理的に抜き取れないパソコンの場合はスマホやガラケーと一緒に保管しています。
そもそもスマホが家電リサイクル法の対象かどうかも知りません…
あらゆるネットサービスで解約時にスマホの廃棄や廃棄証明を求められたりしないことを思えば、これは明らかに異常な議論です。
Xのタイムラインが大荒れ
先に引用した記事にもSNS上の反響が載っています。
この記述を巡っては、Xのタイムラインが一時大荒れとなる場面も…。
《どうやってネットを廃棄するんだよ》《スマホやPCを投げ捨てないと解約できないってことか》《NHKにスマホを着払いで送ればいいの》《最初からサブスクにしとけよ》
Asagei Biz – 「いっそサブスクにしろ」NHKが発表した「ネット受信料」規約改正に大ブーイング!
その制度は悪法ではないか
別の記事も紹介しましょう。「NHKのネット配信業務が10月に迫る中「解約にはスマホ廃棄が必要か」はどうなった?」という記事は、抑制した筆致ですが、この議論のおかしさを鋭く突いています。
受信契約義務が発生するのは、NHKを配信できるアプリをインストールした状態となりますが、一方で一度アプリをインストールし、視聴の意思を確認するメッセージに同意してしまった場合、簡単に解約はできないと考えられるでしょう。
つまり、誤タップであっても一度メッセージに同意してしまった場合、NHKの契約を破棄するにはスマホの破棄が必要になる可能性が高く、現代の利用実態にそぐわないのではないかという指摘もあります。
イチオシ – NHKのネット配信業務が10月に迫る中「解約にはスマホ廃棄が必要か」はどうなった?
記事はこう続けています。
加えて昨今、スマートフォンは単なる連絡用端末の域を超えて行政サービスなど受けるにも必要な端末になりつつあります。そうした端末の廃棄がなくては解約できないサービスとその制度は悪法ではないかという見方には一定の妥当性があると言えるでしょう。
イチオシ – NHKのネット配信業務が10月に迫る中「解約にはスマホ廃棄が必要か」はどうなった?
行政サービスだけではありません。銀行のインターネットバンキングに必要な「第2暗証番号」はスマホアプリでしか確認できない仕様になっていますし、証券会社の出金指示はスマホに認証コードが飛びます。
そのほか楽天ペイなどのキャッシュレス決済、モバイルSuica……あらゆるアプリを機種変更で入れ替える不便さを思い浮かべてください。
「そんな面倒な作業をするぐらいなら、NHKプラスは使わないけど、ネット受信料は我慢するか…」と思わせようという魂胆ではないか?とさえ疑ってしまいます。わたしも「悪法」という意見に賛成です。
チューナーレステレビ活況に
こんな仕組みを強行したら、ますます若者を中心にテレビ離れを加速させるのではないでしょうか。
以前「チューナレステレビって知ってますか?」という記事で、わたしの娘(30歳代)が受信料の支払い義務が発生しないチューナーレステレビをあえて使う選択をしていることを書きました。
我が家の場合、ダイニングにアンテナコードの配線口を用意してなかったために設置したチューナーレステレビですが、娘はリビングに堂々と設置しています。
理由はNHK受信料を払いたくないから…というものでした。
ひとり暮らしの時にNHKの受信料徴収で怖い思いをした(夜の8過ぎにチャイムを鳴らされた)そうで、あえてチューナーレステレビを選択したかたちです。
チューナーレステレビって知ってますか?
思わず娘に「使うつもりはないと思うけど、NHKプラスは絶対インストールしない方がいいよ」と注意喚起してしまいました…
事実、チューナーレステレビは活況です。家電量販店のエディオンも大々的に販売していますし、ビックカメラは売れ筋ランキングを載せています。
チューナーレステレビは、放送波を受信するチューナーが搭載されていないため、受信料を支払う必要はありませんし、チューナー未搭載のぶん安価で済みます。エディオンのチューナーレステレビは「50V型4K対応液晶」でも5万9800円(税込)という価格設定です。
地上波番組はTVerで十分
大画面でも安価なチューナーレステレビはAndroid TVであるのが通常です。Netflixなどの動画配信サービスが利用できて、ユーチューブも大画面で楽しめます。
しかもTVerアプリをインストールすれば、民放のテレビ番組は放送から1週間のあいだ好きな時に好きな番組を大画面で視聴できます。 地上波の番組はTVerがあれば十分…という人が増えそうです。
https://tver.jp/
NHKプラスは、NHK総合とEテレの2チャンネル分の番組で月額1100円かかります。Netflixなら月額890円(広告付きプラン)で利用できて、ユーチューブやTVerは無料で視聴できます。

これでは、ますますチューナーレステレビの需要が広がりそうだなぁ…
そんな予感がするNHKの対応です。
本当に「悪法」呼ばわりされる仕組みのまま今年10月を迎えるのか、今後も注目していようと思います。
「廃棄求めない」と公式説明
【追記】NHKが公式に説明会を行い、スマホの廃棄証明を求めることはないと言明しました。
NHKが行ったメディア説明会の内容を報じたAV Watchの「NHK、ネット受信の解約で「スマホ廃棄などは求めない」。受信料制度を改めて説明」(6月13日配信)という記事から該当部分を紹介します。
ネット配信の場合、受信機はスマホやパソコン、タブレットなど、NHKの配信視聴以外にも利用できる汎用機となるため、解約にあたってNHKがスマホ、PCの廃棄を求めることはなく、「アプリとブラウザいずれでも配信を受信しないこと」、「本人とその家族が、今後どの端末でも配信を受信しないこと」、「テレビ等の受信機の設置がないこと」などを書面で提出することで、解約が受け付けられる。
あわせてサービスアカウントを作成している場合は削除する必要もある。
同局担当者は「パブリックコメントでも意見をいただきましたが『解約手続きの流れはテレビと一緒です』とお伝えしたかったところを『配信の受信もテレビと同じなら、テレビと同様にスマホも捨てなくちゃいけないのか』と勘違いされる方もいたので、そういったことは決してないとうことを申し伝えさせていただければと思います」とした。
AV Watch – NHK、ネット受信の解約で「スマホ廃棄などは求めない」。受信料制度を改めて説明
なにやら誤解したほうが悪い…みたいな言いぶりは少しシャクに障りますが、書面の提出だけでよいならよしとしましょう。
でも、それならテレビも廃棄証明ではなく書面提出でよいのでは?という疑問ももたげてきます。ますますチューナーレステレビの需要が拡大するのは避けられないのではないでしょうか……。
(いしばしわたる)

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