東京・上野の東京国立博物館平成館で開催中の特別展「蔦屋重三郎 コンテンツビジネスの風雲児」を観てきました。NHK大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」に平仄を合わせた展示構成で、「べらぼう」ファンなら必見です(2025.5.20)
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続々登場する文人・絵師
江戸中期の版元(出版業)として活躍した蔦屋重三郎(1750~1790)は、恋川春町、朋誠堂喜三二、山東京伝らの戯作、大田南畝らの狂歌集、喜多川歌麿、東洲斎写楽らの浮世絵などの作品を手掛けた人物です。
戦国時代や幕末を扱うことが多いNHK大河ドラマとしてはかなり異色の題材ですが、漫画などのポップカルチャーに通じる世界を切りひらいた…という点に着目しているのでしょう。
その「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」は、第19回「鱗の置き土産」まで放送が進んでいます。
(19)「鱗(うろこ)の置き土産」
鱗形屋(片岡愛之助)のお抱え作家・恋川春町(岡山天音)は、鶴屋(風間俊介)で書くことが決まった。同じ頃、蔦重(横浜流星)も春町の獲得に狙いを定め、作戦を練る…
いよいよ恋川春町が蔦屋重三郎の耕書堂の執筆陣に加わることになります。
その前の第18回「歌麿よ、見徳は一炊夢」では喜多川歌麿が登場。蔦重の文人・絵師ネットワークがいよいよ整ってきました。
(18)歌麿よ、見徳(みるがとく)は一炊夢(いっすいのゆめ)
蔦重(横浜流星)は北川豊章(加藤虎ノ介)の長屋を訪ねると、捨吉(染谷将太)と名乗る男に出会う。その頃、朋誠堂喜三二(尾美としのり)の筆が止まる事態が起こり…

次の第20回で太田南畝が登場するから、あとは写楽がいつ出てくるのかだなあ…
などと期待を膨らませているところです。

「吉原細見」「一目千本」…
ですので、その先の展開を絶対に知りたくない!という人にはお勧めしにくいのですが、それでも、もし「べらぼう」を毎回楽しみにしているようなファンなら、やはり東京国立博物館平成館(東京・上野)で開催中の特別展「蔦屋重三郎 コンテンツビジネスの風雲児」は必見ではないでしょうか。
中に入るとすぐに登場するのが『吉原細見』で、同じ列には『一目千本』も陳列されています。
(2)吉原細見『嗚呼(ああ)御江戸』
蔦屋重三郎(横浜流星)は、吉原の案内本“吉原細見”で客を呼び寄せる案を思いつく。その序文の執筆を依頼するため、江戸の有名人・平賀源内(安田顕)探しに奔走する!
(3)千客万来『一目千本』
蔦重(横浜流星)は資金を集め北尾重政(橋本淳)と共に女郎を花に見立てた本『一目千本』に着手。本作りに夢中な蔦重を許せない駿河屋(高橋克実)。親子関係の行方は…。
「青楼美人合姿鏡」の五代目瀬川
五代目瀬川が本を読む姿が描かれている『青楼美人合姿鏡』も、瀬川のページを開いた状態で陳列しています。
(10)『青楼美人』の見る夢は
瀬川(小芝風花)の身請けが決まり、落ち込む蔦重(横浜流星)。そんな中、親父たちから瀬川最後の花魁道中に合わせて出す、錦絵の制作を依頼され、市中へ調査に出るが…。
『青楼美人合姿鏡』は安永5年(1776)の刊行物ですが、彩色もとてもきれいな状態です。250年近く前の出版物を目にすることができるなんて、それだけで驚きです。
喜三二・春町の問題作も
少し進むと黄表紙の実物も陳列されています。国立博物館所蔵のものもあれば早稲田大学図書館や東京大学駒場図書館の所蔵品も一堂に会しています。
「べらぼう」ではまだ放送していない黄表紙ですが、朋誠堂喜三二の『文武二道万石通』(ぶんぶにどうまんごくとおし)、恋川春町の『鸚鵡返文武二道』(おうむがえしぶんぶのふたみち)も実物が陳列されていて、この2冊が惹き起こした反響の大きさ(とその後の顛末)を思い起こし、しばらく足をとめてしまいました。
谷津矢車氏の小説「蔦屋」(文春文庫)を紹介した記事で書いた部分を再掲します。
最初に引き受けたのは朋誠堂喜三二で、喜三二が書いた『文武二道万石通』(ぶんぶにどうまんごくとおし)は大いに売れた。
しかし、喜三二の周辺はにわかにきな臭くなった。喜三二は主君から「もし斯様なものを書き続けるのならば、留守居役のお前といえど守りようがなくなる」と釘を刺された。そして、重三郎が依頼した続編の執筆を断った。 「もう、書けない。書けば、殿にまで火の粉が降りかかりかねない」
これを聞いていた酒上不埒(=恋川春町)が「これだから、お武家暮らしは面倒なんだよな」「うちは跡取りがいるから、いつでも跡目を譲って隠居できる」と言って、続編を引き受けた。
恋川春町が執筆したのが『鸚鵡返文武二道』(おうむがえしぶんぶのふたみち)だった。来年のNHK大河ドラマ「べらぼう」が楽しみ…谷津矢車「蔦屋」文武の奨励を受け、町に出て辻斬りならぬ木刀での辻打ちを始めたり、女郎を馬に見立てて馬術の稽古に勤しみ、女郎で馬の稽古ができないと知るや「これがお上の命令ぞ」と言い放ち、市中の男女を引き倒して馬の稽古に精を出す武士の狂瀾が描かれている。定信の文武奨励策の行き着く先を穿ち、あげつらい続けている。そして、この軽佻浮薄の世に右往左往する武士を辛辣に難じていた。
江戸中の人間が、文武奨励策に怒っていた。春町は、その怒りを戯作で代弁してみせたのだ。
この本は一万五千部を売り切る、空前の流行を見た。
このあたりを見ていたら、後ろを通りかかった学生さんが「これってネタバレだよな」「そうだよね」と話していましたが、それでも、実物を見る機会が少ないことを思えば、やはり足を運ぶ価値はあると思います。
歌麿や写楽の世界へ
そこからいよいよ浮世絵の世界へ。特に歌麿と写楽の作品は豊富に陳列されています。写楽は第1期から第4期となっていて、圧倒的に第1期の作品が優れていることがわかります。
谷津矢車氏の極上ミステリー「憧れ写楽」(文芸春秋)に出てくる『市川鰕蔵の竹村定之進』『三代目大谷鬼次の江戸兵衛』は当然陳列されていますし、写真撮影可能なエリアにもこの2枚が飾られていて、その前で写真を撮れる趣向です。


矢野隆氏の小説「とんちき 蔦重青春譜」(新潮文庫)に出てくる端役の中村此蔵(なかむらこのぞう)を描いた『中島和田右衛門のぼうだら長左衛門と中村此蔵の船宿かな川やの権』もありました。
誰を描いたのかわからない。特徴的な意匠はまったくなかった。単衣姿の町人である。四角い顎で細い目の上に黒々とした眉が描かれていた。
「こりゃいってえ、誰だ」
「中村此蔵」
言われても、まだぴんとこない。蔦重の後ろから覗いた鉄蔵が「なんだこりゃ、重箱の化け物みてぇなおっさんじゃねぇか」と叫んだ。
写楽誕生のくだりが出色…矢野隆「とんちき 蔦重青春譜」「端役ばかりでまだあまり知られてませんが、なかなかしっかりとした仕事をする」
ぼそりと十郎兵衛が言った。
蔦重は芝居が好きだ。たびたびにも足を運んでいる。だが中村此蔵と言われても、正直顔が思い浮かばない。ただ、こういう風貌をした役者が、たしかに幾度か目に付いてはいた。もしかしたらその役者が、十郎兵衛の言う中村此蔵なのかも知れない。そんな役者だから、似ているかどうかは解らなかった。
だが……。
十郎兵衛の絵には奇があった。

当時の日本橋や耕書堂を再現
ちなみに特別展「蔦屋重三郎 コンテンツビジネスの風雲児」では、展示物は写真撮影不可ですが、当時の日本橋を再現したCGや耕書堂の店先を復元したところは撮影OKです。



しかもしかも!歌麿の代表作『ポッピンを吹く娘』は、従来の陳列作品以外に、今回新たに発見されたものも20日から特別公開されるそうです。
喜多川歌麿の最初期、幻のシリーズ作品
https://tsutaju2025.jp/highlights#trg7
「婦人相学十躰 ポッピンを吹く娘」が5月20日(火)から特別公開、決定!
このたび、本展覧会に関連する調査の中で、蔦屋重三郎がプロデュースした喜多川歌麿作品の中でも特に重要と思われる作品「婦人相学十躰 ポッピンを吹く娘」が約43年ぶりに確認され、5月20日(火)から同展で特別公開することが決まりました。

うーん、早く行き過ぎたか! 見たかった!
おみやげコーナーも充実
おみやげコーナーももちろんあります。わたしは「べらぼう」のノベライズ2冊と本の栞を購入しました。


特別展「蔦屋重三郎 コンテンツビジネスの風雲児」は6月15日まで。お見逃しなく!!
(しみずのぼる)

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