きょう紹介するのは須藤祐実さんの短編漫画集「ミッドナイトブルー」です。ほのかな恋心を描く短編が多く収められていて、とても綺麗な絵にも惹かれます(2025.5.7)
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叙情派ストーリーテラー
「ミッドナイトブルー」(祥伝社)は須藤祐実さんの最初の短編集で、須藤さんは「短編の名手」「叙情派ストーリーテラー」と評されることが多いようです。
本書には「叙情派ストーリーテラー」と称される須藤が描く、ノスタルジー溢れる全7編を収録。 表題作「ミッドナイトブルー」に登場する暁人は、「卒業しても2年ごとに4人で集まろうよ」と言って2日後に亡くなった女友達・みのるとの約束を、天文部の仲間とともに守っていた。しかしその集まりには、自分だけにしか見えないみのるの霊も参加しており……。
収録作品はいずれもフィール・ヤング(祥伝社)にて発表されたもの。
コミックナタリー – 須藤佑実のノスタルジック短編集、死んだ彼女との同窓会描いた表題作など7編
収められているのは以下の7篇です(あらすじはAmazonより)
- 「箱の中の想い出」:高校教師×元教え子女子。秘密を抱える者同士の再会。
- 「夢にも見たい」:女子高生は、画面越しの彼に寝ても覚めても夢を見る。
- 「今夜会う人」:入院中の祖母に会いに帰った父の田舎。そこで出逢い惹かれあったフシギな彼女の話。
- 「花が咲く日」:植物バカの兄が失踪して8年。兄を忘れない彼女に横恋慕して。
- 「白い糸」:先輩への恋心をはぐらかされたまま卒業して5年。大雪の日に偶然再会し…。
- 「ある夫婦の記録」:3年会っていない夫婦。けれど夫は、カメラ越しに妻の全部を見ている。
- 「ミッドナイトブルー」:「卒業しても2年ごとに4人で集まろうよ」そう約束した2日後、彼女は事故で死んでしまった。

死んだ少女との同窓会
表題作の「ミッドナイトブルー」は、高校の天文部の男女4人が登場します。
火星は687日 約2年かけて太陽のまわりを一周するんだ
熱っぽく語る蓮見暁人の言葉を聞いて、みのるが提案した。
2年ごとにみんなで集まるっていうのはどう?
火星観測の会!
まあ ようは同窓会だよ!
だってみんな進路ちがうから卒業したらバラバラになっちゃうし
しかし、みのるはその2日後、交通事故で死んでしまった。残された暁人ら3人は2年後、天体観測した場所に集まった。
沙月が「ごめん みのるのこと思い出すとまた…」と涙ぐむのを見て、「でもみのるだったらきっと…」と切り出す暁人の言葉にかぶせるように、
しめっぽいのは苦手なんだよ~
の声が。「えっ?」と暁人が横を向くと、みのるが「もーー 泣かないでよ沙月 悪かったから もっと楽しい感じでいこうよ!」とぼやいている。そして、驚く暁人の表情をみて、「あれ?蓮見、見えてる?」
他の2人(沙月、冬馬)には見えないのに、なぜか暁人にだけは死んだみのるが見えているーー。
2年ぶりに見たみのるの幽霊は
生きてた頃と変わらず楽しそうだった
こうして2年ごとに3人+みのるの幽霊の同窓会が繰り返される。しかし…
俺達はどんどん大人になっていくのに
みのるの時間だけ止まったままだ
高校生の時に言えなかった「好き」という気持ち。突然の別れで言う機会を失い、それがひょんな形で2年に1度会話ができるように。でも、死者と生者では永遠に恋が成就することはない……。
そんなせつなく淡い恋心が描かれています。
不思議な少女との逢瀬
もうひとつ紹介しましょう。「今夜会う人」ーー主人公がバーで会ったキツネ目の女性店員に、10年前に体験した不思議な少女との逢瀬を打ち明けるストーリーです。
祖母が危篤になって田舎で過ごした数日間。大学生の満彦は丘の上でキツネの姿を見かけた。キツネを追って丘にのぼると、木の根元に腰掛ける「シマ」と名乗る少女と出逢った。
それから僕は昼間の空いた時間をシマさんと過ごすようになった
シマさんは物知りで無邪気な人だった
年は16か17くらいに見えた
見ず知らずの自分によくなついてくれてよく笑う人だった
シマさんは夕方になると山へ帰っていく。進む先に民家があるとは思えない。
正直 得体が知れないとも思った
でも確実に惹かれていた
お互い惹かれあっていた
満彦はシマさんを「もしかしたら人間じゃないかもしれない」と思った。「それでもいい 今は…」 ーーそんなふうに思っていると、シマさんがいきなり訊ねた。
満彦さん?
なに?
あなた結婚はしてるの?
え?いやしてないよ 相手もいないし だいたい僕の年で結婚してるやつなんてめずらしいよ
そうなの? 私はしてるけど
驚く満彦にシマさんは続けた。
私くらいの年になると親同士がみつくろってくるの
いなかだからしょうがないけどさ
まあ いい人だったな…
あの人 今 外国にいるの…
シマさんの正体は……。そこは明かさずにおきましょう。
昔 祖母が話してくれた昔話があって
あの地方では人間の魂が動物の体を借りることがあるそうです
そうすると少しの間 見た目は人間なんです
多分 若いキツネの体を借りたんじゃないでしょうか
きっと…
懐かしく、せつない。そんな気持ちにさせてくれる、とても心に沁みる佳篇です。おすすめです。
(しみずのぼる)
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