250年の歳月に隔てられた少年と少女の恋…「チャリティのことづて」 

250年の歳月に隔てられた少年と少女の恋…「チャリティのことづて」 

ロマンティックSFの佳篇として2度アンソロジーに収められたSF短編小説を紹介します。ウィリアム・M・メリーの「チャリティのことづて」です。ひょんなことから20世紀の少年が17世紀の少女と意志疎通できてしまったら…。日本人好みのロマンティックSFですね~ (2025.4.30)

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2冊のSFアンソロジー

「ロマンティックSF」という表現は、わたしの手元にある2冊のアンソロジーに共通する表現です。しかも、その2冊にそろって収められている唯一の小説が「チャリティのことづて」(原題:A Message from Charity)です。どれだけロマンティックなのか!?と思うでしょうね… 

その2冊のアンソロジーとは、1冊は稀覯本としても有名な風見潤氏編「たんぽぽ娘」(集英社コバルト文庫)。もう1冊は中村融氏編「時の娘」(創元SF文庫)です。 

本書は『魔女も恋する』に続く、海外のロマンチックなSF・ファンタジィを集めた傑作集の第二巻です。
ぼくはこのアンソロジィを、これからSFを読もうという人、SFを読みはじめたばかりの人を念頭において編んでいます。
特に、この集英社文庫コバルト・シリーズをお読みの女性がターゲットです。吉田としさん、富島健夫さん、三木澄子さんなど諸先生の作品を読む延長で、このアンソロジィを手にとってもらい”おや、SFもなかなかおもしろいじゃないか”と思っていただけたら幸いです。

「たんぽぽ娘」あとがき 

どうやら、わが国のSFファンは、ロマンティックな時間SFに弱いらしい。
端的にいってしまえば、”時を越えた愛”という見果てぬ夢が成就する物語。その実現のためにSF的な仕掛けがあるわけで、これはこれでSFならではの魅力だといえる。

「時の娘」編者あとがき 

それだけ値打ちのある作品

「たんぽぽ娘」の刊行は1980年、「時の娘」の刊行は約30年後の2009年ですから、中村融氏は「たんぽぽ娘」所収であることを承知しつつ、あえて選んだことになります。 

「チャリティのことづて」の巻頭紹介では、ウィリアム・M・メリーについて「いまでは完全に忘れられた作家」と記したうえで、こんなことを書いています。 

しかし、〈F&SF〉一九六七年十一月号に発表された本篇は忘却をまぬがれた。アンソロジー・ピースとして読みつがれているほか、TVドラマ・シリーズ「新トワイライト・ゾーン」の一話として一九八五年に映像化もされたのだ(邦題は「時を超えたメッセージ」)。たしかに、それだけの値打ちのある作品といえる。わが国でも二度にわたって世に出たが、今回は新訳でお目にかける。 

邦訳初出は「SFマガジン」1975年5月号で、次いで絶版の「たんぽぽ娘」ですから、このまま埋もれさせるのは惜しいと思ったのでしょう。わたしも「それだけの値打ちのある作品」だと思います。 

高熱で奇妙な夢を見る

「チャリティのことづて」はこんな書き出しで始まります。 

一七〇〇年の夏は、古くからの住民でも記憶にないほど暑かった。 

その夏は流行病が蔓延して、11歳になったばかりのチャリティ・ペインも高熱に苦しんだひとりだった。 

熱を出している間、チャリティは奇妙な夢を見た。 

「どこかの人がなにかいろいろ話しているの。男の人よーーううん、まだ子供かもしれない。話しかけている相手はわたしではないけれど、でも、ちゃんと声が聞こえるし、話の内容もみんなわかるの。それが、ほんとうに不思議な話しかたでね。わけのわからないことばと英語とをまぜあわせたみたい。その声といっしょに、そりゃあ恐ろしいものがたくさん見えて……」 

チャリティが奇妙な夢を見た時から250年以上の歳月をへた1965年。腸チフスにかかって臥せっていたピーター・ウッドという16歳の少年もまた、熱にうなされている間に奇妙な夢ーー自分自身が女の子のなかに入って、女の子の目で森や川を見ているーーを見た。 

「きみは誰?」

ピーターはSF好きの少年だったため「誰かと心がつながっているのかもしれない」と考えたが、チャリティのほうは予備知識もなく、乗用車やトラックが猛スピードで行き交う場面や空を横切るジェット機に恐れおののいた。 

ピーターは平熱になって体調が戻ると、心がつながった少女に何度も念じた。 

「こんにちは、きみは誰?」「ぼくはピーター・ウッド」 

長い間を置いて、返事が返ってきた。 

「チャリティ・ペインといいます。どこにいらっしゃるの? これはどういうこと?」 

こうしてふたりの心の会話が始まった。 

鏡に映るピーターを見て「それにしても、人は変わってしまったのね」とチャリティがつぶやくと、川面に映るチャリティを見て「きれいだよ」とつぶやくピーター。20世紀の科学や技術、生活に関する知識も徐々に増やしていくチャリティ……。 

魔女裁判にかけられる

そんなのんきなふたりに危険な兆候があらわれた。チャリティがうっかり20世紀の様子を女友達に漏らして「悪魔憑き」とののしられる事件が起きたのだ。 

「だから気をつけろといったじゃないか。話したってどうせ誰も信じやしないし、笑いものになるだけだって」そう口にした途端、ピーターは不意に気づいた。「まずいぞ神さまーーセーレムの魔女裁判だ」
(略)
「チャリティ、怖がらずに聞いて。みんな、きみのことを魔女だと思いはじめるかもしれない」
「そんなはずないわ」
「どうして?」
「わたしは魔女ではないからよ。魔女というのはーーそんな、まさか……」

しかしピーターの懸念は当たってしまった。男二人が突然やってきて、魔女の疑いでハッカー治安判事のもとへとチャリティを引き連れていった。 

ピーターはチャリティが魔女裁判にかけられるのを阻止できるでしょうか。できるとしたらどんな方法で? 

読んでのお楽しみ

タイトルである「チャリティのことづて」は、この短編のラストに描かれています。250年以上の歳月に隔てられたピーターに届くようにチャリティが遺したものは……。 

「時の娘」編者の中村融氏はこう書いています。 

恋愛には障害がつきものだ。たとえば距離。長距離恋愛が往々にして破局を迎えるのは、思った以上に障害が大きいからだろう。
しかし、愛が深ければ、距離という障害は克服できる。ならば、障害が時間だったら? ふつうに考えれば、それは絶対に乗り越えられない壁である。だが、本篇に登場する恋人たちは、二百五十年の時をへだてて愛をたしかめ合う。いったいどうやって? それは読んでのお楽しみ。

中村氏の言うとおりです。それは読んでのお楽しみーー「時の娘」をぜひ手に取ってみてください。 

(しみずのぼる) 

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