ビートルズのドキュメンタリー映画「ビートルズ’64」を観ました。アメリカ初上陸時の映像だけでなく、そこに映るファンの現在ー60年余り後の証言も織り交ぜながら、ビートルズが世代間の対立や男女観の相克、そして人種の壁を取り払う「革命」だったことを描いています(2025.4.21)
〈PR〉


目次
ケネディ暗殺3か月後の上陸
「ビートルズ’64」は、「タクシー・ドライバー」等の傑作で有名なマーティン・スコセッシ監督が2024年に製作したドキュメンタリーで、有料動画配信サービス「Disney+」(ディズニープラス)が独占配信中です。
ビートルズのアメリカ初上陸は1964年2月7日のこと。ですが「ビートルズ’64」は、ケネディ大統領の登場に熱狂するアメリカの様子から映し出します。
今から100年前
ジョン・F・ケネディ
リンカーン大統領が奴隷を解放した
しかし彼らの子孫は今も自由ではありません
全市民が自由を得るまで
我が国は自由ではありません
人種差別の解消に取り組もうとするケネディ、そして1963年11月22日の暗殺ーー。その深い喪失感に覆われるアメリカに、英リバプール出身のジョン、ポール、ジョージ、リンゴの4人は初めて降り立ちます。
激しい世代間対立も記録
4人を熱狂的に迎え入れたのは10代の少女たちです。4人の宿泊先のプラザホテルに群がる少女たちをカメラは追いかけます。同時に、当時の新聞紙面ーー「ビートルズ病の蔓延」と否定的な見出しが差し込まれます。当時の世代間の分断がいかに激しかったかが窺えます。
70代くらいの老婦人が当時をふりかえります。「異常なほどに夢中になっていたわね。叫んでいた理由は、今となってはわからない。でも当時は自然なことだったのよ」
何者?と思って観ていると、字幕で名前とともに「プラザホテル前のファン」。当時ホテルに群がった少女のひとりです。
当時の映像から、ホテルでビートルズをひと目見ようと集まる少女2人に「マネージャー」を名乗る中年男が声をかける場面も収められています。
「マネージャー」と聞いて顔を輝かせる少女たち。ところが、「マネージャー」の口から出るのは、少女たちへの侮蔑の言葉です。「知性のない若者が快楽を求めている」「とても奇妙で病的だ」……。
マネージャーを騙る中年男の醜悪さを前に、顔を強張らせて口をつぐむ少女たち。こんな場面も当時は記録していたのかと感心すると同時に、当時の世代間の断絶ぶりを見事に活写していることに驚きます。
長髪の若者たちは男性像を拒否した
男性・女性観に関する指摘も織り交ぜられます。
「女性は感情を表すのを恐れない。でも男性は泣くことも許されない。何事にも動じずにいつでも強くあれと」
「長髪の若者たちは男性像を拒否した。短髪でなくても無口でなくてもいい。支配的な必要もないし、何かを証明しようと誰かを殺さなくてもいい。優しく繊細で思いやりがあり、時には恐怖も認めるし泣くこともある。それでも男だと胸を張れる、優しくなれる強さがあるのが新しい男性よ」
人種隔離…ビートルズが変えた
もちろん人種の違いもーー。
ザ・ミラクルズのボーカリスト、スモーキー・ロビンソンがこう話します。
”黒人音楽を聴いて育った” ”モータウンが好きだ”
黒人ミュージシャンの話を白人ミュージシャンがした
あんなのはビートルズが初めてだ南部ではコンサートでも人種隔離政策が強行され
トイレに行こうとしても撃たれるような時代だ(ザ・ミラクルズが)最初にアリーナで演奏した時に
客席でロープが仕切られ白人と黒人が分けられた
でもビートルズの音楽を聴いてから1年後には
黒人と白人の男女が一緒に踊っていた
黒人音楽のカバーを多数挿入
だからでしょうか、「ビートルズ’64」は、レノン=マッカートニーのオリジナル(「シー・ラブズ・ユー」「抱きしめたい」等)だけでなく、黒人音楽のカバー曲も数多く流れます。
「ユー・リアリー・ゴッタ・ホールド・オン・ミー」は、スモーキー・ロビンソンが作曲したザ・ミラクルズの曲です。
デビュー・アルバム「プリーズ・プリーズ・ミー」の掉尾を飾る「ツイスト・アンド・シャウト」はアイズレー・ブラザーズのカバーです。「彼らの歌声を聴いて嬉しかったね。カバーしてもらえてよかった」(ロナルド・アイズレー)
エンド・ロールにジョージがボーカルを務めるライブ映像で流れる「ロール・オーバー・ベートヴェン」は、チャック・ベリーのオリジナルです。
社会の意識変革促した無二の存在
このような様々な壁をビートルズが取り払ったことを、証言者たちは口々に指摘しています。
これは、たんなる人気グループのアメリカ進出を描くドキュメンタリーではないな、と気づかされます。
ここまで社会の意識変革を促した音楽グループは、以前にもなければ、きっとこれからも現れないだろう……そんな確信を抱かせる唯一無二の存在であることを、当時の記録映像と60年後の証言で明るみにしたのが「ビートルズ’64」だと言えます。
当時のポールが記者に「西洋文化の歴史におけるビートルズの位置づけは?」と質問されるシーンも挿入されます。
ポールは一瞬「そんな大げさな…」とでも言いそうな表情を浮かべてこう答えます。
西洋文化? さあね
文化なんて冗談だろ
でも、いま振り返れば「文化」「歴史」というワードは決して大げさではありません。
Elaine Kimのカバーが沁みる
もうひとつ、「ビートルズ’64」の関連動画を紹介しましょう。
冒頭のケネディ大統領の葬儀の模様に流れるのが、ビートルズの「オール・マイ・ラヴィング」のカバーです。とても心に沁み入る歌声で、エンドロールで確認するとElaine Kimという方のカバーでした。
ビートルズ好きはDisney+お勧め
「ビートルズ’64」は現在、「Disney+」でしか視聴できません。
でも、Disney+は、1970年の映画「レット・イット・ビー」製作のために撮りためた膨大なフィルムをもとに作られた長編ドキュメンタリー「ザ・ビートルズ: Get Back」や、高精細な映像によって再復活した「ザ・ビートルズ: Let It Be」も視聴することができます。
「ザ・ビートルズ: Get Back」はすでにブルーレイになっていますが、「ザ・ビートルズ: Let It Be」は「ビートルズ’64」同様にDisney+の独占配信コンテンツです。
ビートルズ・ファンなら「Disney+」はお勧めです。
(しみずのぼる)

〈PR〉

