学ぶとは何か、教えるとは何か:大塚あみ「#100日チャレンジ」

学ぶとは何か、教えるとは何か:大塚あみ「#100日チャレンジ」

きょうから新年度。学生なら新しい学びの環境を迎える季節です。学ぶとは何か、教えるとは何かーー。そんなことを深く考えさせられる良書を読みましたのでご紹介します。大塚あみさんの「#100日チャレンジ」(日経BP社)です(2025.4.1)

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人生が変わった

#100日チャレンジ」は、副題が「毎日連続100本アプリを作ったら人生が変わった」というものです。 

ん?何の本だ?「人生が変わった」って一種の啓発本か?? 

と思うかもしれませんね。帯から引用すると、もう少しわかりやすいでしょう。 

怠け者の大学4年生がChatGPTに出会い、プログラミングに取り組んだら、教授に褒められ、海外論文が認められ、ソフトウェアエンジニアとして就職できた。 

大塚あみ「#100日チャレンジ」(日経BP社)

ChatGPT…Python…

筆者の大塚あみさんは24年4月に大学を卒業して、この4月から社会人2年目です。大塚さんが、この帯にあるとおり、ChatGPTでゲームを作り、自分の励みにと毎日1本ずつゲームを100日間作ってSNSで発信。その取り組みを面白いと評価した大学の先生から学会での発表までもちかけられ…というプロセスを丁寧に振り返ったノンフィクションです。 

えっと、ChatGPTって生成AIの入門書?それともプログラミングの本?どっちにしても自分には合わないかも… 

もちろんChatGPTは出てきます。でも最初のプロンプトは、 

大学のレポート課題をサボる方法を教えて。 

ですし、2番目のプロンプトは、 

学生がレポート課題をサボる主な手口を教えて。 

です。今どきの学生は大学の課題も生成AI頼みだと聞いたことがありますが、まさに!というプロンプトですね。プログラミングもPythonが出てきますが、プログラミングの専門用語を知らなくてもスイスイ読めます。 

オセロをPythonで作って

これは論より証拠。わたしの好きな場面を抜き出して紹介しましょう。授業中にゲーム作りをする場面です。 

佐々木先生が指示を出す。
「まずは簡単なPythonのコードを書いてみましょう」
佐々木先生がスクリーンに投影したサンプルコードは、変数の代入や四則計算を行う基本的なものだった。

すぐに退屈した大塚さんは、「もしかしてChatGPTを使ったらゲームでも作れるのかな?」と思って、授業を流し聴きしながらChatGPTにプロンプトを打ち込みます。 

オセロ風ゲームをPythonで作って。環境はColaboratory。 

ChatGPTが出力した関数をColabで実行するが動かない。 

動かないんだけど……。 

ChatGPTが関数を出力した。 

大塚さんが関数を実行すると、8×8の盤面に●と○が現れた。 

私は「おお、動いた!」と小さな声で呟き、しばらく盤面を見つめていた。思ったより簡単に動かせたことに驚きと感動があった。 

「何が動いたんだ?」

好きな場面はこのあとです。 

次の瞬間、背後から声が聞こえた。
「何が動いたんだ?」

振り返ると佐々木先生が後ろに立っていた。まずい!

「いや、その、if文の練習をしていて……」
私はごまかすように答えたが、先生はニヤリと笑った。
「オセロを作ったのか?ちょっと動かしてよ」
私は数字を2つ入力すると、白のターンに移った。
「これはすごい。ChatGPTに作らせたのか?」

佐々木先生は「いくつか授業を持っているけど、授業中にゲームを作った学生は初めて見た。また改善したら見せてよ」と続けて、そのまま授業を再開した。 

いいですね~ 授業を聴いていない学生だと、つい怒り出す先生とかいるでしょうから… 

「ぜひ君も参加して」

この佐々木先生が大塚さんを別の先生に紹介する場面が出てきます。

「この学生がすごいんですよ。ChatGPTを使ってオセロを作ったんです。伊藤先生、見てください」
私は突然注目を浴びて少し戸惑ったが、佐々木先生と伊藤先生に促され、オセロのプログラムについて即興で説明を試みた。
「実は、前に作ったオセロのプログラムを改良し、Matplotlibを使ってグラフィカルに表示できないか試してみたんです」
私はプログラムを実行してみせた。盤面がカラフルに描画され、石を置くたびに更新されていく様子に、2人の先生は驚いた表情を浮かべた。
「これはすごいね。Matplotlibでここまでできるとは思わなかった」
(略)
「最初はテキストベースのオセロを作っていたのですが、見た目が味気ないなと思って。そこで、ChatGPTに相談してみたんです」
私はChatGPTとのやり取りの履歴を画面に表示した。それを見て伊藤先生が言った。
「なるほど。ChatGPTと相談しながらプログラムを書いて、さらにエラーが出たときも自分で解決できるのか」

このあと、伊藤先生がこう切り出した。 

「来月、学会があるんだ。ぜひ君も参加して、このオセロのプログラムを発表してみないか?」 

学びのキャッチボール

きっかけは授業中に講義も聴かずにオセロゲーム作りにかまけていたことです。

でも、先生は怒るどころか、それを面白がって評価し、別の先生に紹介する。そして別の先生も感心して学会発表を持ちかける……。 

学びとはきっとこういうものだと思います。授業で聞いたことを自分なりにアレンジして創造するーー。 

「教える」「教わる」の関係もそうです。

教師が一方的に生徒を「教える」のではなく、学びのキャッチボールがあって初めて成立するような気がします。 

佐々木先生も伊藤先生も、とってもいい先生/教師だな…と思いますが、誰に対しても「いい教師」というわけではありません。伊藤先生が愚痴をこぼす場面も出てきます。 

少し酔いが回ってきた頃、先生がため息をついてぼそっと愚痴をこぼした。
「ゼミの学生が2人とも論文を書いてこない」
学生が論文を書かなくて先生が代わりに書くのはいつものことだけど(しみず注:いつものことなのか!?)、愚痴をこぼす姿は初めて見た。先生は酔った勢いで話を続けた。
「締め切りは先週の金曜日だったのに、1人は中身のない文章を書いてくるし、もう1人はメッセージすら返してこない」

教わる側が、打てば響くようでなければ、教えることもできない。やはり学びはキャッチボールです。 

伊藤先生らが学会発表や本の執筆まで大塚さんに世話をするのは、大塚さん自身の学びの姿勢が引き出したものだーーと言えます。 

学びの姿勢ーー。それは決して学生中に限ったことではありません。

社会に出てからも、学ぶ姿勢がない者には、きっと上司も先輩も冷たいはずです。大学生にはぜひ一読を勧めたい本ですが、社会人が読んでも得ることが多いはずです。 

生成AIはパソコンみたいなもの

読売新聞の女性向けサイト「大手小町」に筆者の大塚あみさんのインタビューが載っていました。大塚さんは本書でも「作品作りの主体は私だ!」と言っていますが、このインタビューでもChatGPTは決して万能ではないと指摘しています。 

――でも、生成AIは万能選手ではないですよね。 

もちろん、そうではありません。むしろ「生成AIはパソコンみたいなもの」と思った方がいいです。使い手が変わっていく必要があるものです。まともな仕事をとろうとしたら、AIを駆使して、1%でも正解に近い答えを出すようにしないとなりません。「チャットGPTを使って、何か適当に作る」ことと「ちゃんと中身をしっかりわかって作る」ことは大きく違うはずです。 

大手小町 – 生成AI使い100日チャレンジ!怠け者・大学生の人生が変わった 
【読売新聞】最近は、大学で課題やリポートを提出する際、チャットGPTなど生成AI(人工知能)が出した回答を丸写しする“怠け者の学生”も珍しくないと言われています…
www.yomiuri.co.jp

興味を抱いたらぜひお読みください。得ることの多い良書です。 

(しみずのぼる) 

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