『僕らはみんな生きている』が描くサラリーマンの哀切と誇り

『僕らはみんな生きている』が描くサラリーマンの哀切と誇り

きょうは「メイドインジャパン」の兵士たちーー日本のサラリーマンの哀切と誇りを描いた漫画&映画を紹介します。一色伸幸氏原作の『僕らはみんな生きている』。東南アジアの架空の国でクーデターに巻き込まれた日本のサラリーマンたちの姿をユーモアとせつなさを交えて描いています。自虐的なコメディなのに、なぜか泣けてくる名作です(2025.3.30) 

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映画と山本直樹氏の漫画によるメディアミックス

最初に『僕らはみんな生きている』の成り立ちを紹介します。 

原作者の一色伸幸が、構想中の映画シナリオから、山本直樹氏に作画を依頼、1992年より漫画雑誌『ビッグコミックスピリッツ』(小学館)に連載された 

ウィキペディアより 

もので、映画は1993年に監督は滝田洋二郎氏、脚本は一色氏自身の担当で製作されました。 

漫画が先行したとは言え、「構想中の映画シナリオ」から派生しているので、漫画&映画のメディアミックス作品というのが正しい言い方なのでしょう。 

ですので、漫画と映画を織り交ぜながら紹介したいと思います。 

クーデター発生による過酷なジャングル脱出行

大手建設会社のサラリーマン・高橋は、社命により西南アジアの小国・タルキスタンに出張することになった。飛行機で約16時間かけて辿り着いた現地で彼を出迎えたのは、どこか怪しげな支店長の中井戸と、その運転手をしているセーナという現地の女性だった…。次第に現地での生活に慣れ、セーナに心惹かれてゆく高橋。やがてパスポートを紛失し、日本に帰れなくなってしまう(漫画1巻あらすじ) 

『僕らはみんな生きている』1巻

映画で高橋を演じるのは真田広之さん。支店長の中井戸は山崎努さん。中井戸が橋建設の受注を取ろうと軍幹部にリベートも渡しながら画策しますが、軍幹部にはすでにライバル会社が強烈に食い込んでいます。 

そのライバル会社の支店長・富田(映画では岸辺一徳さん)と技術担当・升本(映画では嶋田久作さん)と一緒に軍幹部のパーティーに出席しているところで反乱軍の襲撃に遭遇。高橋・中井戸・富田・升本の4人はまさに”呉越同舟”状態で政府軍と反乱軍の市街戦に巻き込まれ、ジャングルから飛行場に向かって脱出を図る…というストーリーです。 

映画『僕らはみんな生きている』

漫画版の作画を担当した山本直樹氏の魅力

漫画を担当するのは山本直樹氏。田中圭一さんの『ペンと箸』で紹介した、エロい青年漫画を描かせたら右に出る者はいないという方です。 

ですから、あらすじに出てくるセーナという現地の女性がとてもステキです(漫画全4巻の表紙はすべてセーナ中心に描かれています) 

『僕らはみんな生きている』2巻
『僕らはみんな生きている』3巻
『僕らはみんな生きている4巻

ところが、映画では、セーナはなんと男性なのです。 したがって漫画で繰り広げられる高橋とセーナの濃密なシーンは一切ありません( 残念…) 

その点だけに着目すれば「漫画のほうが絶対いい!」と言いたくなります。 

でも、日本のサラリーマンを自虐的に描くところにフォーカスするなら、やはり濃密なシーンは映画でカットするのは正解なのでしょう。そのぶんスッキリとしたコメディに映画は仕上がっています。

以下、日本のサラリーマンの哀切と誇りに触れる関係上、かなりのネタバレとなります。お許しください。

極限状態で叫ぶ「日本のサラリーマン」の誇り 

高橋ら4人が市街戦に巻き込まれる場面で何度も口にするセリフがあります。

それが「私たちは日本のサラリーマンです」。どんなときでも背広にネクタイ、手にはアタッシュケース。市街戦のさなかなのに。真田さん演じる高橋に至っては、名刺を何枚も掲げています。 

手榴弾を使ったブービートラップだらけのジャングルの脱出行では、アジアの小国に単身赴任するサラリーマンの悲哀が語られます。 

死と隣り合わせの脱出行のため、富田と中井戸は手帳に家族にあてた遺書を書きます。 

その後、中井戸はひとり反乱軍に囚われ、助かった高橋ら3人は空港で救援機を待つあいだ、中井戸の遺書ーー娘の写真と一緒に挟んであった手帳を見つけます。 

桜小路幸恵殿、私の赴任中に君が由香を連れて我が家を去り、桜小路君と暮らしてはや一年。由香のビデオをいつもありがとう。せめて由香は、私の戸籍に残せと主張してきたが、今となっては一度でも帰国し、桜小路君ときちんと話し合うべきだったと、後悔がこみ上げるばかりだ。君がなじる通り、私は種はまいたが父親ではなかった。しかし、あの家と証券類と預貯金と一時払い養老保険の半分は早急に返してもらいたい。これは法律だ、半分は私の財産だ、そこのところははっきりしておきたい。私に万一のことがあった場合、島根の母に譲渡してほしい。由香によろしく

高橋 ……でも、前に奥さんから電話きたって…娘とも話したってにこにこ……
富田 見栄だ。
升本 見栄だよ。寝取られ男の。

妻に理解できない企業戦士たちの孤独と絆

家族を呼び寄せた際に妻がマラリアにかかって「二度と来ない」と通告された富田が話を継ぎます。 

わからないんだ、あいつらには死ぬまで……
女房の奴、マラリアぐらいなんだ
私は3回かかった。赤痢も2回だ。

市街戦に巻き込まれて死んだ別の日本人サラリーマンは、生まれた子供をビデオでしか見ていなくて、帰国が決まってようやく会えると喜んでいたら、本社から任期を2年延長されて気がふれます。 

家族を置いて異国の地で、孤独に耐えて懸命に働く日本のサラリーマンたちが背負う悲哀ーー。 

生きているからこそ感じるせつなさと哀愁

そんな悲哀とジャングルの脱出行から生まれた奇妙な連帯感から、高橋ら3人は反乱軍に囚われた中井戸の救出を計画します。 

反乱軍が補給基地にしている村に向かう最中、高橋らが大声で唄うのが「手のひらを太陽に」(作詞:やなせたかし 作曲:いずみたく)です。 

〽ぼくらはみんな 生きている
 生きているから 歌うんだ

 ぼくらはみんな 生きている
 生きているから かなしいんだ

 手のひらを太陽に すかしてみれば
 まっかに流れる ぼくの血潮

 ミミズだって オケラだって
 アメンボだって

 みんな みんな生きているんだ
 友だちなんだ

命がけの状況でも忘れない「商売人」の矜持

高橋たちが中井戸の解放と引き換えに「僕たちは商売に来ました」と売り込むのが、市街戦で死んだサラリーマンの遺品ーーファミコンを改良して作った無線傍受機。富田が反乱軍を前にプレゼンを担当し、升本が現地語に通訳します。 

みなさんは中井戸さんの無線を傍受しました
しかし政府軍の軍用無線はどうです?

みなさんが使っているのはアナログ無線です
だから中井戸さんのトランシーバーは聞けても
政府軍のデジタル無線は傍受できないでしょう

これはあまりに無理です
しかたないとあきらめてはいませんか
いまこそデジタル無線傍受機をお買い求めになる時期です

どんな場面でも商売第一の日本のサラリーマン。機関銃を突き付けられる中、おどつきながらも自然とプレゼンする富田、岸部一徳さんの姿に思わず笑ってしまいます。 

世界の戦場で響く「メイドインジャパン」の誇り

それでも、そんなチャチな無線傍受機など「3日もつかわからない」と言われて追い返されそうになると、真田広之さん演じる高橋が突然キレます。 

3日もつかわからない?
メイドインジャパンだぞ、これ
お前らが全員殺されるまでもつよ

そこから始まる高橋の”演説”が泣かせます。演じる真田さん自身も泣きながらの熱演です。 

天皇の顔は知らなくてもソニーは知ってるよな
日本人と酒を飲んだことなくても三菱とは親友だろ

お前らがコレラ菌だらけの川で水浴びしている間
俺たちは半導体に埋もれてたんだよ

お前らが暇な夜にやりまくって8人も9人もガキ作ってる時に
俺たちは電卓たたいてたんだよ

ここで富田に選手交代です。ついついプレゼン風になってしまう岸部さんを思い浮かべてください。 

それが日本製品です 

キッコーマンは真夏のアメリカの海水浴場でバーベキューをやってる味オンチのアメリカ人にひとりひとりしょうゆの味を教えていきました 

松下はアメリカの現地製品を絵に描いて同じデザイン同じ性能のものを半値で売ってのし上がった。写生したんです。サンプルを買う金さえなかった 

人生の多くの時間を会社に捧げた男たちの軌跡

ふたたび高橋です。真田さんは泣きながら喧嘩口調で語り出します。 

俺のおやじはなあ、日立だよ
毎年年賀状は300通来てた

それが定年退職したとたんに7通になったんだよ

7通だよ、おい
元旦に30分、郵便受けの前に立ってたよ

笑っちゃうよな
人生の293通分を捧げたんだよ

バカみたいだろ、なあ

バカなんだよ

でも働くんだよ
からだがひとりでに

いかがですか。文字起こししたものを読んでも、泣けてきませんか。 

ミミズのように、オケラのように、アメンボのように。 這いつくばっても「からだがひとりでに」働く日本のサラリーマン……。 

滑稽なのに、誇らしくも思うーー。 そんな不思議な気持ちになるのは、わたしもこころが「日本のサラリーマン」だからでしょうか。 

笑って泣ける漫画&映画の原作者、一色伸幸氏については下記の記事でも取り上げています。「うつは『心の風邪』じゃない」のセリフは一色氏です。併せてお読みください。

名曲『手のひらを太陽に』が象徴する生への賛歌

最後に、劇中で高橋らが唄う「手のひらは太陽に」について。

映画『僕らはみんな生きている』では、エンドロールにヘレン・メリルのカバー・バージョン「We Are Not Alone」が流れます。

ヘレン・メリルは「ウィズ・クリフォードブラウン」(1955年)で有名なジャズ・ボーカリスト。同アルバム所収の「ユード・ビー・ソー・ナイス・トゥ・カム・ホーム・トゥ(You’d Be So Nice to Come Home To )」や「ホワッツ・ニュー」(What’s New?)は、テレビCMでも使われました。

誰の趣味だったのでしょうか、映画製作にあたって大御所ヘレン・メリルにカバーを依頼したのでしょうね。ヘレン・メリルのすこしハスキーな唄声が、映画の余韻を心地よく引き立ててくれます。

ヘレン・メリル・トピック – We Are Not Alone

(しみずのぼる) 

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