NHK大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」は毎週楽しみに観ています。これから恋川春町の出番となるので、「べらぼう」の予習をするなら、谷津矢車さんの「蔦屋」と「憧れ写楽」をお勧めします(2025.3.10)
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いよいよ恋川春町が登場
谷津矢車さんの「蔦屋」(文春文庫)と「憧れ写楽」(文芸春秋)のことは以前に記事にしていますが、「べらぼう」がいよいよ吉原から戯作の世界に移りそうなタイミングなので、それならもう一度紹介しようと思った次第です。


これまでの「べらぼう」は、蔦重こと蔦屋重三郎が創意を凝らして改訂した「吉原細見」が大ヒットするものの、地本問屋のネットワークに入れてもらえず、吉原の親方衆の支援を得て女郎たちのオフショットを人気絵師に書かせた「青楼美人合姿鏡」を出版するーーというところまでストーリーが進んでいます。
次回3月16日放送(第11回)のあらすじは、
蔦重(横浜流星)は人気の富本豊志太夫/午之助(寛一郎)から俄祭りへの参加を拒まれる。そこで浄瑠璃の元締め・鳥山検校(市原隼人)を訪ね瀬川(小芝風花)と再会する…
というもの。下記のNHK公式サイトから予告動画も視聴できます。

そこで、ほんのちらりと映っていたのが岡山天音さん演じる恋川春町です。NHK公式サイトに、恋川春町のことはこう出てきます。
駿河小島藩に仕える武士。挿絵も文章も書ける戯作者。鱗形屋孫兵衛(片岡愛之助)から出した、『金々先生栄花夢』は大ヒット、その後に続く黄表紙の先駆けとなる。本屋の新参者の蔦重(横浜流星)とは、親交のあった朋誠堂喜三二(尾美としのり)の仲介で知り合う。蔦重とは次々と作品を出すものの、時代の変わり目で発表した『鸚鵡返文武二道』が、幕府の目に留まり、思わぬ事態となっていく…。

「思わぬ事態」の顛末
この「時代の変わり目で発表した『鸚鵡返文武二道』が、幕府の目に留まり、思わぬ事態となっていく」というくだりは、わたしが以前に谷津矢車さんの「蔦屋」を紹介した記事から(一部要約しつつ)再掲しましょう。
「白河の 清きに魚も すみかねて 元の濁りの 田沼恋しき」
重三郎が「今、吉原で流行している狂歌です」と説明した。
ある小藩の江戸留守居役を務める朋誠堂喜三二が「うちの連中も、”ぶんぶといって夜も眠れず”と苦笑いしているところだ」と言うと、重三郎はこう提案した。
「そこで、思いっきり定信公の政を馬鹿にしてやればいいんじゃないかと思ったんです」
最初に引き受けたのは朋誠堂喜三二で、喜三二が書いた『文武二道万石通』(ぶんぶにどうまんごくとおし)は大いに売れた。
しかし、喜三二の周辺はにわかにきな臭くなった。喜三二は主君から「もし斯様なものを書き続けるのならば、留守居役のお前といえど守りようがなくなる」と釘を刺された。そして、重三郎が依頼した続編の執筆を断った。 「もう、書けない。書けば、殿にまで火の粉が降りかかりかねない」
これを聞いていた酒上不埒(=恋川春町)が「これだから、お武家暮らしは面倒なんだよな」「うちは跡取りがいるから、いつでも跡目を譲って隠居できる」と言って、続編を引き受けた。
恋川春町が執筆したのが『鸚鵡返文武二道』(おうむがえしぶんぶのふたみち)だった。文武の奨励を受け、町に出て辻斬りならぬ木刀での辻打ちを始めたり、女郎を馬に見立てて馬術の稽古に勤しみ、女郎で馬の稽古ができないと知るや「これがお上の命令ぞ」と言い放ち、市中の男女を引き倒して馬の稽古に精を出す武士の狂瀾が描かれている。定信の文武奨励策の行き着く先を穿ち、あげつらい続けている。そして、この軽佻浮薄の世に右往左往する武士を辛辣に難じていた。
江戸中の人間が、文武奨励策に怒っていた。春町は、その怒りを戯作で代弁してみせたのだ。
この本は一万五千部を売り切る、空前の流行を見た。その後に彼らを襲う凄烈な言論弾圧はウィキペディアで補います。
黄表紙『鸚鵡返文武二道』が松平定信の文武奨励策を風刺した内容であることから、寛政元年(1789年)幕府から呼び出しを受ける。春町は病気として出頭せず、同年4月24日には隠居し、まもなく同年7月7日(1789年8月27日)に死去したという。自殺と推測する説もある。享年46。
恋川春町の最期は、谷津矢車氏の「蔦屋」でも圧巻のくだりですが、これは「蔦屋」でお確かめください。

いかがですか。渡辺謙さん演じる田沼意次が失脚して、寺田心さん演じる田安賢丸、のちの松平定信が老中職に就いてから時代が大きく変転します。その変転が蔦重や彼の周囲の文化人を翻弄していく様は、おそらく秋以降の回で出てくるのでしょうが、その重要キーパースンのひとり、恋川春町が次回3月16日放送から登場するのです。今から注目しておいてください!
あのヒール役が主人公?
谷津矢車氏の新刊「憧れ写楽」にも蔦屋重三郎は登場しますが、こちらは中年になってからの蔦重です。ところが「憧れ写楽」で写楽の謎を解き明かす主人公の名は
老舗版元「仙鶴堂」の鶴屋喜右衛門
です。

え? 風間俊介さん演じる、あのヒール役の???
と思う人もいるでしょう。NHK公式サイトではこう紹介されています。
◆鶴屋喜右衛門/風間俊介
つるや・きえもん/かざま・しゅんすけ
京ゆかりの大“地本問屋”
鱗形屋孫兵衛(片岡愛之助)や西村屋与八(西村まさ彦)らをまとめる江戸市中の“地本問屋”のリーダー的存在で、新参者の蔦屋重三郎(横浜流星)と対立。草双紙や錦絵で数多くのヒット作を出版するとともに、山東京伝など若い才能を見いだしプロデュースするなど、蔦重とともに一時代を築いた。

鶴屋喜右衛門は蔦重の地本問屋入りを阻む中心人物で、まさにヒール役。 風間さんがほんとに憎らしくて憎らしくて……(そういう役柄だから名演技なんでしょうが)
ただ「憧れ写楽」を読まれればわかりますが、こちらの鶴屋喜右衛門は2代目か3代目でしょう(つまり別人)
鶴屋 喜右衛門(つるや きえもん、生没年不詳)は、江戸時代から明治時代にかけての地本問屋。全期間を通じて多数の草双紙、錦絵の作品を版行した代表的な版元で、蔦重と並び称された。3代目まで続いた。
ウィキペディアより
以前に「憧れ写楽」を紹介した記事から、2代目もしくは3代目とわたしが思ったくだりを再掲します。
「憧れ写楽」は、たんなる「本物の写楽」の謎解きではありません。同時に、写楽を通じて喜右衛門や喜多川歌麿、斎藤十郎兵衛それぞれの屈託がタペストリーのように織り込まれています。
版元として好きな地本を出すことがかなわない喜右衛門の屈託ーー。
「あの乱痴気な時代を目の当たりにしながら、あたしは版元として関われなかった。あの時代の再来を夢見るのは、そんなに悪いことですか」
「あの乱痴気な時代」は田沼時代ーー浮世絵や滑稽本、歌舞伎、川柳などの町人文化が花開いた時代を指すのでしょう。「あたしは版元として関われなかった」と言う以上、これは風間俊介さん演じる鶴屋喜右衛門とは異なるでしょう(この時代の文化に詳しくないので、断定調でものを言えなくてすみません)

谷津矢車さんの「蔦屋」を読み「憧れ写楽」を読めば(読む順番は逆にしてはいけません)これからの「べらぼう」が一層面白く楽しめるようになるでしょう。
「青楼美人合姿鏡」は必見
なお、これまでの吉原篇とも言える「べらぼう」もとてもおもしろく、第10回(3月9日放映)に出てくる「青楼美人合姿鏡」は文化遺産オンラインで見ることができます。 ページをめくれば蔦屋重三郎の序文が出てきて、もう一枚めくると小芝風花さん演じる五代目瀬川が描かれているページを見ることができます。


おおお、瀬川が本を読んでる!「べらぼう」の小芝風花さんとまったく同じだぞ!(…って、当たり前か)
(しみずのぼる)
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