本屋さんに行けばマネー系の本はたくさんあります。初心者だと迷って仕方ないはず…。そんな方にお勧めの新刊が、東山一悟氏の「投資で2億稼いだ社畜のぼくが15歳の娘に伝えたい29の真実」(JTBパブリッシング)です(2025.3.2)
表紙に騙されてはいけない
それにしても「…15歳の娘に伝えたい」というタイトルだからでしょうが、セーラー服の美少女が映る表紙は、万人が手に取りたくなる絵柄ではありません。

まず女性は惹かれないでしょうし、60歳代前半のわたしも「そういう趣味はないな~」と思ってしまいます。
でも、中身はいたってまともです(…失礼)
「投資に興味があるけど、ちょっと怖くてどうも…」と思っているような方なら、老若男女問わず、それこそ年代を問わずに最初に手に取るべき本だと思いました。
50歳でリストラに遭う著者
まず、書き出しがすごいです。
30年近く続けた社畜人生が、たった一言で終わるとは思ってもみなかった。
「東山さん、会社はあなたを必要とは思っていません」
当時50歳の著者が会社の上司からリストラを通告する場面から始まるのです。
そのころ、ぼくは84歳の老母を一人で介護するため、妻と小学5年生の娘を置いて実家に戻りつつも、娘の面倒を一緒に見ていた。3000万円30年ローンでマンションを2年前に買ったばかり。介護、教育、住宅ローンの三重苦。
その中で、リストラで放逐されてしまう。
まさに「路頭に迷う」とはこのことでしょう。40代後半ぐらいの男性なら、「これは他人事ではないな…」と思うのではないでしょうか。
男性限定で書くのは失礼でしたね。女性だってそうです。いまの時代、リストラは男女関係なく襲ってきますから。
では、著者はどうしたか。
「ぼくを評価しない会社のために、気持ちを押し殺して働き続けるなんてありえない」と退職勧奨をあっさり受け入れます。それが可能となったのは、資産運用を行っていたおかげで、その時点で7000万円の金融資産を持っていたからです。
経済的自由ーー。FIRE(Financial Independence, Retire Early)の最初の2文字「FI」こそが、「気持ちを押し殺して働き続ける」選択をしないで済む最重要の基盤となったということです。
思い出す橘氏の方程式
もちろん、リストラの脅威が近づく中年層だけが読んで参考になるわけではありません。著者がタイトルに込めたように、若年層にこそ読んでほしい本です。
著者が巻末に載せている「推薦図書」の1作目は、橘玲氏の「臆病者のための億万長者入門」(文春新書)ですが、橘玲氏と言えば、わたしがまっさきに思い出すのが「1行でまとめられる「お金持ちになる方程式」 です。 その方程式は、
(収入-支出)+(資産×運用利回り)
です。若いうちは収入も少ないでしょうが、住宅や教育といった大きな支出もない分、(収入-支出)で(資産)の元種を増やすことは十分可能です。
以前に紹介した原田ひ香さんの「三千円の使いかた」(中公文庫)にも出てくる数式、
8×12
で年間100万円を無理なく貯めることも、若いうちなら十分可能でしょう。
ということは、あとは(運用利回り)ーーつまり資産運用がきわめて大事になるわけです。


失敗談含む経験交えた記述
書名で「…15歳の娘に伝えたい」とうたう通り、著者の東山氏も、若いうちからの資産運用の必要性を強調しています。
一つ目は「使うお金を減らす」、二つ目は「入ってくるお金を増やす」、三つ目は「お金に働いてもらう」。この本では、それぞれぼく自身の体験を交えながら、補足していく(第1の真実 おカネに良いも悪いもない)
実はこれまでのデフレ時代は投資しなくても良かった。(略)デフレからインフレに経済構造が転換した以上、預貯金はノーリスクではない。むしろ、資産を増やすためには投資が不可欠になったことは間違いない(第4の真実 インフレに転換)
最低限の知識を自分で身につけなければならない。(略)オカネに対して正しい知識があれば資産は増えていく(第5の真実 「ミスターマーケット」を見破る)
といった具合です。
ここで大切なのは「最低限の知識」「正しい知識」ですが、本書は参考になる文献を折に触れて引用していますし、何より著者の失敗談を含めた具体的な経験談を交えて書いてあります。FXで大きく資産を失った話も、インフルエンサーを信じて「レバナス」で痛い目にあった話も出てきます。

レバナス! わたしも息子がユーチューブ動画をラインで送ってきて、試しに10万円だけ買ったなあ…。含み損40%超なんて、レバナスでしか経験ないよ…
年金は破綻しない
特に若い人なら絶対に読んでほしいくだりも出てきます。「第26の真実 年金は破綻しない」です。
国民年金の財源の半分は国庫負担。つまり、消費税などの税金が充てられる。年金が払い損になるという意見は、そもそも年金は老後という事態に備えた保険だから適切なものではないのだけれど、その観点から見ても年金保険料を払わない方が損することになる。
厚生年金は会社の給料から天引きされるから問題ないけれど、国民年金だけの人は保険料の支払いを拒否する人もいる。その場合、自分に返ってくるはずの消費税が他人の保険料に回ってしまい、自分はもらえないということになるわけだ。
20代30代の時に「ぼくらの世代は払い損になる」などという言説に惑わされて、いざ60代になって慌てても、もう取り返しがつきません。
著者の言うとおり、公的年金の本質は保険です。何に対する保険かと言えば「長生きリスク」ーー予想外に長生きしてしまった時でも、最低限の生活を可能にするためのものです(そのことは下記記事に書きました)

豊富なエピソードに感心
そのほか、読んでいて「へえ~」と感心するようなエピソードも豊富に入っています(筆者はきっと元新聞記者ではないでしょうか。難しい話でも、具体的な経験やエピソードを交えて、とても読みやすく工夫しています)
例えば、インフレ時代の預貯金のリスクのくだりは、こんなエピソードがはさまれます(第4の真実 インフレに転換)
2015年、新潟県の第四銀行に家の中から100年前の預金通帳が見つかったという連絡があった。第四銀行の前身の新潟貯蓄銀行が1915年に100年定期預金というのを募集していたのだ。この定期は金利が6%。今、メガバンクの定期預金金利は0.1%程度だからその60倍もの高金利だ。
そして、100年預けた結果は当時1円預けたものが339円だった。
1円といっても今とは物価が全然違う。公務員の初任給が40円の時代だから、今だと5000円程度の価値。それが100年たって10分の1以下の339円にしかならなかったのだ。
これは過去100年間、第二次大戦中や戦後すぐ、そして1970年代のオイルショックなどインフレ時期が多かったため。
預貯金がいかにインフレに弱いかがわかるだろう。
資産運用の基本的な考え方として「長期・積立・分散」の原則は当然出てきますが、そのうち「長期」なら、こんなエピソードがはさまれます(第8の真実 長期の株式投資が生み出す力)
明治大学の研究によると、日本では株式市場が誕生した1878年から、2022年までに株価は実に584万倍まで値上がりしている。太平洋戦争があったのにだ。
『完結 昭和国政要覧』(東洋経済新報社編)によると、1921年(大正10年)を100とした戦前の株価指数で、太平洋戦争直前の1941年は145ポイントだった。(略)当時の日本証券取引所(現在の東京証券取引所)は、東京が空襲で機能しなくなっても開かれており、政府の命令で停止となったのは1945年8月9日。その1945年の株価は215ポイントにも上昇していた。

「長期・積立・分散」の原則は下記記事をごらんください
「ほったらかし投資」をご存じですか
表紙に惑わされてはいけません。
これから投資を始めたいと思っている人はもちろん、少し投資をかじっている人(わたしのこと)にも、とても参考になる記述が満載でおすすめの良書です。
(いしばしわたる)