きょうは宮脇明子さんの少女ホラー漫画を紹介します。恨みをもった幽霊が怖いか、それとも心の闇をもつ人間のほうが怖いかーー。宮脇さんの作品はどれも後者に重きがあるようです(2025.2.19)
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怪異が怖いか、人間が怖いか
ホラーな小説や漫画を読んだり、ホラー映画を観たりしていると、「怪異が怖いか、人間が怖いか」と考えさせられる作品に触れる機会があります。
ホラーの帝王スティーヴン・キングの作品だったら、「キャリー」は人間の方が怖いな…と思いますし、「シャイニング」や「IT」あたりは怪異の方が怖いな、と思います(もっとも「シャイニング」は怪異にのまれた人間が怖いのですが…)
最近紹介した少女ホラー漫画でも、ささやななえこさんの「生霊(いきすだま)」や「鉄輪」は明らかに人間の方が怖いです。他方、山岸凉子さんの「わたしの人形は良い人形」は、人形がもたらす怪異が怖いです。


では、宮脇明子さんの少女ホラー漫画は?と言えば、圧倒的に「人間の方が怖い」という視点の作品が目につきます。
わたしの手元にある宮脇ホラー漫画は「ナービー 死霊の館」(角川ホラー文庫)、「呪い THE BEST」(集英社)、「悪夢 THE BEST II」(集英社)です。

人形で呪う気持ちが怖い「呪い」
最初に紹介するのは「呪い」(1999年)です(「呪い THE BEST」所収)
主人公の瑞希は、幼いころに同い年の愛理と兄の友樹が越してきて以来、3人でよく遊んだ幼なじみ。しかし、高校生になって、瑞希は愛理に黙って友樹と付き合っている。
ふたりが路地でキスをしていると、その横をタクシーが通り過ぎた。タクシーは家の前に停まったが、瑞希は父以外にガラス越しに女性の姿を見た気がした。
あの女の人は父の愛人かもしれない
瑞希が父の愛人に会ったのは小学5年生の時だった。
突然声をかけてきた見知らぬ女性
「わたしがあなたのお父さんと結婚できないのはね」
「あなたのせいなんですって」彼女が先日の両親のケンカの原因なのだろうということは
子供心にも直感的にわかったその頃からだ
母が人形作りに熱中し始めたのは
瑞希は翌日、愛理と登校途中、電柱の影でタクシーの女性を見かけた気がした。その時、愛理は唐突に言い出した。
わたし瑞希ママにお人形の作り方を習いにいくんだ
家に帰ると、母がいつものように人形を作っていた。瑞希はその時、腹部に痛みを感じた。
翌日、家庭科の時間にクラスメートたちと「呪い」のことが話題になった。クラスの一人が「呪いなんて本当にあると思う?」と言うと、愛理が引き取った。
わたし 呪いってあると思う
「呪い」っていうか
真夜中に神社の森でわら人形に五寸クギで打つ
それだけの気もちがあればその念はきっと届く
放課後、家庭科の教師から愛理の忘れた鞄を渡された。誤って床に落とすと、そこからひとつの人形がこぼれた。瑞希がなくしたハンカチで作られた人形。ほつれた腕の部分には髪の毛、そしてお腹のあたりに大量の待ち針……。
教室に入ってきた愛理は瑞希の手から人形を奪うと、こう言った。
薄々気付いてるんでしょ
そうよ
これは「呪い」の人形
これで瑞希ちゃんを呪ったの今お腹が痛いのも
みんなわたしが呪ったからよ
瑞希ちゃんがお兄ちゃんを取ろうとしているから許さない
わたしからお兄ちゃんをうばおうとする者は
死ねばいい
死ぬのよ わたしの呪いで
人形を使って呪いを果たそうとする心の闇が怖いですね。
でも、宮脇さんの「呪い」はここまでで中盤なのです。タクシーや電柱の影で見かけた父の愛人も絡んで、ドンデンドンデン返しのラストが待っています(ドンデン返しではありません。ドンデン+ドンデン返しです)
どれだけの人が人を呪う妄執にとらわれているかーー。最後の3ページ(2度目のドンデン返し)は慄然とします。
笑顔の下に隠された「秘密」
もうひとつ紹介しましょう。「秘密」(2002年)です(「悪夢 THE BEST II」所収)
主人公の真棹は中学3年生。高校入学が決まったとたん父の海外赴任が決まり、おじ夫婦の家から高校に通うことになった。
小学校の校長のおじはいつも苦虫をかみつぶした表情で、「隣のドラ息子はとんでもない不良だからな。口をきくんじゃないぞ」と口うるさい。いつも笑顔で気のいいおばとは対照的だ。
おじ夫婦の家でうたたねしていると、真棹はこたつの脇に女の子が立っているのをみかけた。
おねえちゃん
あゆみの秘密見せてあげる
女の子はそう言うと、着ている服をめくった。
これね タイヤの跡なんだよ
轢かれた時は 痛かったよ
女の子の幽霊は、テレビをにぎわす連続幼女殺害事件で、ひとり行方不明になっている女の子だった。
おじが「近づくな」と言った隣のドラ息子ーー高校1年の保に手伝ってもらって図書館で調べるうちに、真棹はおじが轢き逃げしたのではないか…という疑いを抱いていく。
真棹は意を決して、おばに相談した……。
歩ちゃんはおじさんの運転する車にはねられて死んだのよ
そして遺体をわたしが今いる部屋の床下に埋めた
運よく彼女の行方不明は一連の幼女連続殺人のひとつとしてとらえられたおばさんが信じたくない気持ちはわかるけど…
ここまで書くと次の展開はわかってしまうかもしれませんが、実は「秘密」もとびきりのドンデン返しが待っています。
笑顔のラスト。笑顔の下にひそむ心の闇の深さはいかばかりだろう……という終わり方です。
「呪い」と「悪夢」はどちらも絶版・品切れ扱いですから、なかなか読む機会に恵まれないかもしれませんが、ホラー漫画好きなら期待を裏切らないので、ぜひ探してみてください。
(しみずのぼる)
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