きょう紹介するのは1980年製作のアメリカ映画「ある日どこかで」(原題:Somewhere in Time)です。20世紀初めの女優の写真を見て、女優に恋い焦がれて過去にタイムリープする……。狂おしいほど甘くせつない恋愛ファンタジーの傑作です(2025.2.13)
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写真の女優に恋焦がれて
「ある日どこかで」のことは、ジャック・フィニィの名短編「愛の手紙」で一度触れていますが、きちんと映画そのものを紹介したくなりました。

主人公のリチャード・コリアは脚本家。次作に行き詰まってあてのない旅に出たところ、8年前、大学生当時の処女作でパーティーを催したグランドホテルの前を通りかかり、思いつきで宿泊することにした。19世紀末から開業し、湖畔に劇場もある由緒あるホテルで、ロビーフロアには資料室があった。そこでリチャードは1枚の写真に釘付けとなった。写真の女優にひと目で恋に落ちたのだったーー。
この場面、ユーチューブ動画がありましたのでごらんください。
その女優ーーエリーズ・マッケナのことを強く知りたくなり、町の図書館で片っ端に本を借りて調べると、生涯独身だったエリーズの晩年の写真が載っていた。その容貌は、8年前、処女作のパーティーの際に「帰ってきてね」(Come back to me)という謎の言葉を残して立ち去った老婦人その人だった。
エリーズへの想いが日増しに強まるリチャードは、かつて大学で教わったフィニィ教授の著書「時の流れを越えて」を参考に、時空を超えて1912年のエリーズに会いに行くことを決意し、タイムリープに成功するーー。
あなたなの?
1912年で出会ったエリーズは、リチャードを見て謎の言葉をつぶやく。
あなたなの?(Is it you?)
この場面もユーチューブ動画があるのでごらんください。
ふたりは出逢い、エリーズのマネジャーの妨害に遭うものの、一日で恋に落ちます。
「あなたなの?」という謎の言葉は、マネジャーにかつて「ある男が現れ、私の人生を変える」と警告されていたから…という経緯が明かされますが、まだ見ぬ恋の相手と出逢った場面にふさわしい言葉でもあります。まさに運命の恋です。
わたしの人生を変えてしまった
その夜、ホテルの劇場で上演した喜劇で、エリーズは観客席に座るリチャードを見つめながら、即興で愛を告白する場面が出てきます(この場面は原作にはなく映画脚本のオリジナルです)
あの方はただの幻かしら
(メイド役)どの方ですって?
心の中の理想の人よ
女なら誰しもそういう人を胸に秘めている
面影が浮かぶわ
あの方を前にしたら私は何を言おう”許して この気持ちは生まれて初めて
だから思いをうまく伝えられないの
あなたとの出逢いがすっかり私の人生を変えてしまった
私の内の熱いものがこみ上げ言葉は胸にあふれる
でも口について出るのはただひと言
愛しているわ”
ここで視線をメイド役に戻して「ざっとこんな風に言うわ。彼が目の前にいたら」と言って即興を終え、劇の関係者をほっとさせます。
あなたとの出逢いがすっかり私の人生を変えてしまった……。そんなリチャードとエリーズの運命の出逢いですが、映画の冒頭で老婦人ーー晩年のエリーズーーが「帰ってきてね」という謎の言葉を残していますから、最後は悲恋であることは予告されているようなものです。
そして、(未見の方もいるでしょうから何がきっかけか伏せますが)タイムリープものである以上、ふたりを引き裂くのが時間であることも予想できるでしょう。
リチャード演じるクリストファー・リーヴと、エリーズ演じるジェーン・シーモアの好演も光ります。未見のかたはぜひ「狂おしいほどに切ない恋」(DVDパッケージより)に浸ってみてください。
原作に惚れ込む製作陣
「ある日どこかで」は、SFやホラー小説の傑作を多数残したリチャード・マシスン(1926ー2013)の原作小説にプロデューサー(スティーヴン・サイモン)が惚れ込み、映画化されることになりました。
監督(ヤノット・シュワルツ)も、主役をオファーされたクリストファー・リーヴも、オーディションでエリーズ役を勝ち取ったジェーン・シーモアも、みな脚本に惚れ込んで映画製作にあたったそうです。
しかし、映画会社の幹部は「非商業的だ」「ヒットしそうにない」と難色。プロデューサーの熱意で映画化自体は認められたものの、予算は半分に削られてしまいました。
にもかかわらず、音楽を高名なジョン・バリーに依頼できたのは、ひとえにジェーン・シーモアが彼の友人だったからだそうです。
ラフマニノフ・ラプソディ
「ある日どこかで」で音楽が重要な役割を果たしているのは間違いありません。

原作ではマーラーの交響曲が何度も出てきますが、これを「ラフマニノフ・ラプソディ」(「パガニーニの主題による狂詩曲」第18変奏)に変更したのは、ジョン・バリーの進言があったからです。そして、ジョン・バリーのオリジナルスコアも甘く切ない旋律で、ラフマニノフ・ラプソディと見事にマッチしています(オリジナル・サウンドトラック盤は捨て曲なしです)
批評家は酷評…2週間で打ち切り
このような製作スタッフたちの熱い想いで作られた映画でしたが、興行的には大失敗。メイキングによれば、批評家から酷評を浴び、封切からわずか2週間で上映は打ち切られたそうです。
その後、恋愛ファンタジー映画の傑作として世評が定着している映画だけに、封切当時の酷評ぶりには驚きます。ある批評家は「この作品は恋愛映画をだめにした」とこき下ろしたそうですから……。
いまの評価は、以前の記事で引用したAmazonの紹介文を再掲しましょう。
メロドラマにタイムトラベルの要素を組み合わせて描いたラブ・ファンタジー映画の秀作。とにもかくにも美しく哀しい究極の愛の映画として徹底しているのが潔くも素晴らしい。ジョン・バリーの甘い旋律が、観客の涙をさらに一層絞らせ、もはや理屈では割り切れない摩訶不思議な世界にさらなる説得力を持たせてくれている。
「ある日どこかで」は一度の記事では書ききれません。次回はリチャード・マシスンの原作を中心に書きます。
(しみずのぼる)
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