書店に行くとNHK大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」の関連本・雑誌が平積みにされています。その中の一冊ーー「サライ」2025年2月号が非常に面白かったです。蔦屋重三郎が出版した山東京伝作の黄表紙「江戸生艶樺焼」(えどうまれうわきのかばやき)の超訳版という出色の付録がついているのです(2025.1.15)
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書店に並ぶ蔦重関連本
「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」が始まりましたね。放映を終えた第2回は、横浜流星さん演じる主人公の蔦重こと、蔦屋重三郎が最初のヒット作「吉原細見」の出版にこぎつけるストーリーでしたから、蔦重が歌麿や写楽を見出していくところや、松平定信の奢侈倹約令に反骨精神で抗うあたりはまだまだ先のことです。
それでも、蔦重関連本は今が売り時とばかり書店に並んでいますし、ページを開けば歌麿や写楽や奢侈倹約令の絡みが出てきます。わたしも何冊か買って読みましたが、個人的に一番刺さったのが「サライ」2025年2月号でした。

「黄表紙」はコミック誌だ
「サライ」2025年2月号の特集は「蔦屋重三郎が生んだ『出版文化』」というもので、各見出しから一部抜粋してみましょう。
「細見」はタウン情報誌だ
貸本屋を営んでいた蔦屋重三郎が、最初期に出版したのが「吉原細見」である。(略)「今でいう町歩きガイドで、定期的に刊行され、情報を刷新。細見を開くと、客を案内する引手茶屋から、遊女屋や遊女の名と料金がランク付けされ、出入りの芸者までも記載されていました」「美人画」はグラビアピンナップだ
美人画は江戸の流行の情報を伝える、最先端のメディアだった。「流行りのグラビアページのような役割を果たしたと思います…」「役者絵」はブロマイドだ
「浮世絵の中でも役者絵は歌舞伎役者など、美人画は遊女や評判の茶屋の娘などを描いたもので、今でいうところのブロマイドのようなものですね」「春画」は嫁入り道具だった
「…大名の娘などが嫁入りする際には、立派な春本(春画をまとめたもの)を贈答するという大名同士の習わしがあったのです」「黄表紙」はコミック誌だ
内容は大きく絵があしらわれ、画文一体となってストーリーが展開。現代のコミックのような体裁である。(略)「内容もそれまでの若年向けを主としたものから、大人向けに転換します。大人向けといっても、マンガのような作りで楽しく読めたので、ヒット作は万単位で売れました」
山東京伝作「江戸生艶樺焼」
江戸時代のコミック誌ーー「黄表紙」の中で最高傑作と言われるのが山東京伝作の「江戸生艶樺焼」(えどうまれうわきのかばやき)だそうで、
天明5年(1785)、蔦屋重三郎の手によって初版が刊行されましたが、そのあと3度も出し直されています。人気の証左でしょう。京伝自身も、本作で戯作者としての名声を得ました。
と書いてあります。
その「江戸生艶樺焼」を、原寸大で、原文を読みやすく意訳して解説もつけた別冊付録が、「サライ」25年2月号には付いているのです。


おもしろそう!何が書いてあるんだろう…これは読んでみたい!
そう思って本屋さんで買い求めたしだいです。
金にあかせて売名の愚行
あらすじがわかる部分も引用しましょう。
主人公の「艶二郎」は、いわゆる美男子ではありません。上を向いた獅子鼻が醜男の決定打。女性からもてたことは皆無。しかし艶二郎は、女性にもてた話や浮いた噂を流したいし、色男ぶりで世間の評判になりたい。金にあかせてとんでもない売名行為(愚行)を繰り返すのが、本作の読みどころです。(略)登場する女性たちの冷めた言動と、勘違いして突き進む自惚れ男・艶二郎の振る舞いが対照的に描かれていて、哀愁と笑いを生んでいます。

次々と愚行を繰り返す艶二郎のおかしさが際立つストーリーで、例えば、色男は親から勘当されるものと思い込むと、ひとり息子なのに父親に勘当してくれと頼み込み、なんとか期間限定の勘当を認められるページはこんなふうに超訳されています。
「お前が望むのだから仕方ない。早く出ていけ!」と父。
艶二郎「お願いの通り勘当が叶うとは! ありがたや、ありがたや。どんな病より金持ちほどつらいものはない。ああ、かわいい男はなぜ金持ちなんだろう?」
喜ぶ艶二郎を見ながら番頭がぽつり。「これが若旦那のお考えとは。まともとは思えませんな……」
番頭のつぶやきでくすりと笑ってしまいます。
そんな馬鹿らしい愚行のエピソードが続くのですが、
万事めでたし、で終わるのが、黄表紙のお約束
だそうで、最後のページは、艶二郎と彼の愚行につき合う遊女のハッピーエンドとなっています。

江戸時代の人たちはこういうストーリーを愉しんだのか…
と感慨もひとしおでした。
今も使われる当時の流行語
別冊付録はページの合間にコラムが挿入されていて、「黄表紙が生み出した”流行語”」は、山東京伝の別の黄表紙(「心学早染草」)から、「善玉」「悪玉」という現代でも使われている言葉が生まれたことを書いています。
京伝は、人間の心のありようをつかさどる魂を半裸姿のキャラクターに仕立てた。善玉(魂)に取り憑かれれば善行を積み、悪玉に支配されれば、ひょいひょいと悪所(吉原)通いをしてしまう。キャラクターのわかりやすさもあって、【善玉】【悪玉】は流行語となり、定着したというわけだ。

ほかにも、黄表紙から生まれた言葉として、
- 【類は友を呼ぶ】(恋川春町「金々先生栄花夢」)
- 【もっけの幸い】(唐来参和「莫切自根金生木」)
- 【十年一昔】(市場通笑「憎口返答返」)
- 【楽屋落ち】(山東京伝「世上洒落見絵図」)
などを挙げています。今につながる言葉を生んだのですから、「黄表紙」の作家たちはすごいですね。
恋川春町ら「四天王」
谷津矢車氏の小説「蔦屋」(文春文庫)の紹介でも触れた大田南畝、朋誠堂喜三二、恋川春町は、山東京伝とともに「蔦重時代のベストセラー四天王」として紹介されています。

特に、松平定信による奢侈倹約令の犠牲者、恋川春町については、
ペンネームの恋川春町は本人の住まいである”小石川春日町”をもじって名付けたもの。
酒上不埒の名で狂歌の世界でも活躍した。しかし、寛政元年(1789)の『鸚鵡返文武二道』(おうむがえしぶんぶのふたみち)で、松平定信政権を揶揄したため、幕府から呼び出しを受けるも、出頭を拒否。すぐに隠居したがじきに死去し、その原因はいまだ不明のままである。
と書かれています。
恋川春町役は岡山天音さん
谷津氏の「蔦屋」の紹介記事では、「べらぼう」との関係でこう書きました。
恋川春町の最期は、谷津矢車氏の「蔦屋」でも圧巻のくだりですが、これは「蔦屋」でお確かめください。
恋川春町は誰が演じるのだろうか…などなど、今からとても楽しみです。
来年のNHK大河ドラマ「べらぼう」が楽しみ…谷津矢車「蔦屋」
そう書いていたら、NHKが「べらぼう」の新キャストを発表しました。
山東京伝は古川雄大さん、恋川春町は岡山天音さんが演じるそうです。

岡山天音さんはこうコメントしています。
おもしろおかしく、不思議な形をした恋川春町という人間の魅力を自分なりに描ければと思います。
「べらぼう」に山東京伝や恋川春町が登場するのはまだだいぶ先でしょうが、楽しみにしています。
(しみずのぼる)


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