悪魔みたいに頭が切れる〈山内練〉デビュー!:柴田よしき「聖母の深き淵」 

悪魔みたいに頭が切れる〈山内練〉デビュー!:柴田よしき「聖母の深き淵」 

きょう紹介するのは柴田よしきさんの警察ミステリー小説「聖母の深き淵」です。柴田さんが創り出した独創的キャラクター〈山内練〉が登場する記念すべき第1作で、主役を食ってしまうほど魅力を放つ山内練について複数回にわたって書いてみたいと思います(2024.5.9)

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デビュー作「RIKO

最初に柴田よしきさんの紹介をします(ウィキペディアから要約) 

日本の小説家・推理作家。1995年、『RIKO – 女神の永遠』で第15回横溝正史賞(現在の横溝正史ミステリ大賞)を受賞してデビューする。2001年、第54回日本推理作家協会賞長編および連作短編集部門で『フォー・ユア・プレジャー』が候補作に選ばれる。作風は多彩で、警察小説のRIKOシリーズなど、いわゆる女探偵ハードボイルド系統に近いものからSF、ホラーまで幅広い 

デビュー作『RIKO – 女神の永遠』のあらすじも紹介します。 

男性優位主義が色濃く残る巨大な警察組織。その中で放埒に、そしてひたむきに生きる女性刑事・村上緑子。彼女のチームは新宿のビデオ店から1本の裏ビデオを押収した。そこに映されていたのは男が男を犯すという残虐な輪姦シーン。やがてビデオの被害者が殺されていく。驚愕の真相に迫る緑子に突きつけられた悲劇とは? 性愛小説や恋愛小説としても絶賛を浴びた衝撃の新警察小説。 

この『RIKO – 女神の永遠』の主人公・村上緑子が、出産を機に新宿署から下町の辰巳署に移動して遭遇する事件を解決するのが「聖母の深き淵」で、村上緑子が再び難事件を解決する「月神の浅き夢」と合わせてRIKOシリーズ3部作と呼ばれます。 

山内練と麻生龍太郎

ところが、村上緑子が登場するのはこの3作だけなのに対して、RIKOシリーズ第2作にあたる「聖母の深き淵」は、その後の柴田さんの警察ミステリーに何度も登場する人物がたくさん出てくるのです。 

  • 山内練 春日組若頭 
  • 麻生龍太郎 私立探偵(元刑事) 
  • 高安晴臣 春日組顧問弁護士 
  • 田村 売春管理専門の暴力団員

といったところは全部そろって出てきますし、名前だけなら

  • 韮崎誠一 春日組幹部 

も登場します。 

その後の柴田よしきさんの作品をみれば、山内練と麻生龍太郎が登場する作品ばかりです。ウィキペディアから紹介します(わたしが未読のものも含まれます) 

花咲慎一郎シリーズ
RIKOシリーズの登場人物・山内練が絡むスピンオフ作品
フォー・ディア・ライフ(1998年4月 講談社 / 2001年10月 講談社文庫)
フォー・ユア・プレジャー(2000年8月 講談社 / 2003年8月 講談社文庫)
シーセッド・ヒーセッド(2005年4月 実業之日本社 / 2008年7月 講談社文庫)
ア・ソング・フォー・ユー(2007年9月 実業之日本社 / 2014年12月 講談社文庫)
ドント・ストップ・ザ・ダンス(2009年7月 実業之日本社 / 2016年8月 講談社文庫)

 

麻生龍太郎シリーズ
RIKOシリーズの登場人物・麻生が主人公のスピンオフ作品
聖なる黒夜(2002年10月 角川書店 / 2006年10月 角川書店【上・下】)
文庫版上巻には「歩道」、下巻には「ガラスの蝶々」という単行本未収録の短編を追加収録
所轄刑事・麻生龍太郎(2007年1月 新潮社 / 2009年8月 新潮文庫 / 2022年7月 角川文庫)
角川文庫版には「小綬鶏」を追加収録
私立探偵・麻生龍太郎(2009年2月 角川書店 / 2011年9月 角川文庫)

いかがですか。主人公だったはずの村上緑子が後衛に退いて、山内練と麻生龍太郎ばかりが柴田作品に登場するようになったことがよくわかるでしょう。 

この中で、わたしが〈山内練〉シリーズ3部作と呼びたいのが、 

  • 聖母の深き淵(1996年5月 角川書店 / 1998年3月 角川文庫) 
  • 月神の浅き夢(1998年1月 角川書店 / 2000年5月 角川文庫) 
  • 聖なる黒夜(2002年10月 角川書店 / 2006年10月 角川書店【上・下】) 

の3作です。 

レイプ場面でお叱り

山内練は、指定広域暴力団春日組の若頭ーーヤクザです。柴田作品を未読の人なら、「なに言ってるの? ヤクザが魅力的?」と思うでしょう。当然です。 

25年近く前のことになりますが、掲示板サイト(もうありませんが「ガーラフレンド」と言います)でお勧め本を紹介するページを作成していたことがあって、そこで「聖母の深き淵」と山内練の魅力を紹介したところ、同書にレイプ場面が出てくるため、「こんなレイプするような男を魅力的と書くなんて信じられない」とお叱りの書き込みをされたことがあります。正確な文面は忘れましたが、 わたしは、

「聖母の深き淵」だけ読めば確かにそういう感想を抱くのは当然です。でも、次の「月神の浅き夢」まで読んでみてください。そうすれば山内練の魅力がわかって頂けると思います 

と返事を書いたように思います(その後、書き込んだ方から「『月神の浅き夢』を読みました。山内練に惹かれる気持ちがよくわかりました」と丁重な返信書き込みがありました) 

当時はまだ「聖なる黒夜」は発売される前でしたが、作者の柴田さんご自身にとっても、山内練は(村上緑子よりも)心惹かれる存在だったのではないでしょうか。 

はじまりは保母失踪事件

「聖母の深き淵」のあらすじを紹介します。 

一児の母となった村上緑子は下町の所轄署に異動になり、穏やかに刑事生活を続けていた。その緑子の前に現れた男の体と女の心を持つ美女。彼女は緑子に失踪した親友の捜索を依頼する。そんな時に緑子が聞いた未解決の乳児誘拐事件。そして、所轄の廃工場からは主婦の惨殺死体が…。保母失踪、乳児誘拐、主婦惨殺。この無関係に思える事件には恐るべき1つの真実が。ジェンダーと母性の神話に鋭く切り込む新警察小説、第2弾!

覚醒剤事件摘発の現場に居合わせたため辰巳署に連行された磯島豊は、トランス・ジェンダーだった。緑子は同僚の刑事に説明した。 

「あのね、要するに肉体の性別と精神の性別が食い違っている人がいるらしいのね。その精神の性別をジェンダーとか言うらしいんだけど、それが肉体とずれちゃってるのをTGって言って、あの磯島豊の場合はそのジェンダーに合わせて肉体の性別も変換させてしまっているから、さらにTSつまりトランス・セクシャルってことになって……」

磯島が覚醒剤事件の現場に居合わせたのは、高校時代の親友で保育園で保母をしていた牧村由香を探すためだった。由香が密売人から覚醒剤を買っている場面が写真週刊誌に載っていたのがきっかけで豊は独自に探し始めたが、由香は暴力団の管理下で売春婦となっている可能性が濃厚だった。 

「石橋の龍」登場

豊から由香の捜索を頼まれた緑子は、新宿署の元同僚から私立探偵を紹介される。それが麻生龍太郎だった。事務所に入るなり、緑子は思い出した。 

「やっぱり、麻生さんだったんですね」緑子は、男が口を開く前に言った。「松岡さんから名前を聞いた時は、まさかと思ったんですけど……でもまだ信じられないわ。麻生さんが退職されていたなんて」 

麻生は「捜査一課でもっとも優秀な刑事」「ノンキャリアの星」と呼ばれていた。 

麻生は『刑事の勘』というものをほとんど信用していなかった。彼にとって大切なものは、証拠だけだった。麻生は、山と積まれた資料を前にして自らページをめくり、聞き込み対象者のリストにも自分からあたって丹念に赤線を引っ張った。そして周囲がほぼ容疑者を断定し、早く逮捕を、と浮き足立っている時でもたったひとり、黙々と証拠固めを行っていた。 

徹底して慎重な捜査手法から「石橋の龍」の綽名をつけられた麻生が、刑事をやめて場末の雑居ビルで私立探偵になっていた。 

麻生に促されて豊が本題の由香の捜索を依頼すると、麻生は「見つけ出すだけでよければそんなに難しいことじゃないと思う」と言った後、こう続けた。 

「だがここからが問題なんだが……日本人の売春婦の場合はね、後のことを心配しなければ当人が本気で逃げ出そうと思えば大抵は逃げられる」 

「わたしの想像ではね、由香さんはおそらく強度の覚醒剤中毒患者になっていて、売春をしなければ覚醒剤を手に入れる金が工面出来ないから自分の意志で肉体を金に換えているんだろう」 

辰巳署に逮捕された密売人のつながりから、売春婦を管理し、覚醒剤を売りつけているのは春日組傘下の武藤組だとあたりをつけた麻生は、豊が由香と会うことができるよう取り計らうところまでは約束した。 

悪魔みたいに頭が切れる

緑子は麻生の事務所訪問の後、春日組顧問弁護士の高安晴臣が麻生の事務所に入り、麻生と言い合う場面を見かけたことが気になり、新宿署のかつての同僚に訊ねた。 

「そいつはちょっときな臭いな。春日組は少し前に熾烈な権力闘争があったんだ。ほら、先代の組長が死んで若頭だった娘婿が組長に就任したんだが、次期組長候補の若頭の人選で大モメにモメた。結局、若頭に就任したのは誰も予想してなかったダークホースの、春日組の企業舎弟会社の社長してた男だった。その新しい若頭にぴったりくっついて入れ知恵してたのが高安なんだ」 

高安は確か、「若」という言葉を使った。その「若」が麻生を雇いたがっていると。そうだとすれば、麻生と何かの因縁を持っているのは春日組の新しい若頭なのか? 

「どんな男なの、その新しい若頭って」 

「よくわからん。マル暴に訊けば詳しく教えて貰えるとは思うけど、俺の知識では確か、少し前に死んだ春日組の幹部がどっかから連れて来た男らしいが……真偽のほどはさだかじゃないけどな、なんでも、男娼あがりだとか」 

「男娼って、あの、ウリセンのこと?」 

「うん。だがまあ、本当かどうかわからんぜ。そいつは悪魔みたいに頭の切れる奴だって話だ。今度の予想外の若頭就任も、幹部会が開かれるまではそいつの名前なんかどこにも出てなかったらしい。それが病死した組長の遺言にあったとかでいきなり名前が出て、出たと思ったらその男を推す幹部が続々と現れて決まっちまたんだとさ」 

男娼あがりで「悪魔みたいに頭の切れる奴」ーー春日組の新しい若頭で、企業舎弟会社「イースト興業」社長でもある山内練に最初に言及される場面です。 

なお、ここで登場する春日組顧問弁護士の高安晴臣が、山内練を評する部分も紹介しておきます(「聖母の深き淵」の後半部分で、緑子に語るせりふです)

「それは総て山内君の実力を知らない人間の戯言ですよ。僕は今になって泰三氏がなぜ彼を指名したのかとてもよくわかる。泰三氏の目は確かでした。山内君は逸材です。彼は帝王になる男だ」

「暴力団の頂点に立てる男であれば他の世界でもきっと頂点に立てるんです。帝王の資質というのは、どんな場合、どんなジャンルにおいても同じものなんですよ。もし今が戦国の世なら、山内君はきっと天下人になれた」

もうひとり、山内練の運転手兼ボディガード斎藤の言葉も紹介しましょう。

捜査二課の刑事でイースト興業に潜入捜査を行い、逆に「気が付いた時には若にナニをしゃぶられてた」斎藤は、RIKOシリーズ3作目「月神の浅き夢」に出てきます。

「若はいずれこの国の影のドンになる。俺はそれをこの目で眺めていたいんだ……出来ればこのまま、若のそばで」

メソメソと泣き出す田村

緑子が豊の付き添いで麻生の事務所を訪ねた日、別の場所で主婦の死体が見つかった。廃工場で輪姦されたうえ、頭部を殴られて死体は放置されていた。殺害された主婦には覚醒剤中毒の兆候があった。 

廃工場はかつてイースト興業がバブル経済期に高値で売り抜け、高値掴みした別の暴力団系の不動産会社が塩漬けにしていたものだった。ここにも春日組の痕跡があった。 

麻生は約束どおり、豊と由香の面会の段取りをつけた。麻生が話をつけたのは武藤組に属する田村だった。 

豊の説得は失敗したが、緑子が日を改めて由香と面会。由香も「家に帰りたい」と口にするところまでいったが、田村と由香が歩いているところに車から発砲する事件が起き、由香は死亡、田村も重傷を負った。 

緑子は田村の入院先を訪ねた。発砲事件の際、田村が由香を弾除けにしたのなら許せないと思ったからだった。ところが、田村は激しく怯えていた。緑子が田村を追及しているさなか、田村に面会を求める男がやってきた(察しがいい人ならわかるでしょうが、いよいよ山内練の登場です) 

「田村、おまえに会わせろって客が来てる」 
「客って……誰だ?」 
「イースト興業社長とかいう奴だ。人相の悪いのを数人連れて来てる。どうする? 追い返すか?」 
田村の様子が激変した。顔からすっかり血の気がひき、唇が細かく震え出す。 
(略) 
男が一人、入って来た。緑子は初め、その男は下っ端のチンピラだと思った。歳は三十そこそこか、いやもう少し上なのかも知れない。整った顔はしているが、どこといって特徴もない、どちらかと言えばおとなしそうな顔だった。 
(略) 
黒い革ジャンに片膝に穴の開いたジーンズ、白いスニーカー。ジーンズを穿いたヤクザというのはいないこともないが、ウェストサイド・ストーリーの登場人物のように隙なく着こなしたチンピラというのは珍しい。 
(略) 
男は、緑子を見た。何も言わなかったが、その目は「出ていけ」と緑子に命じていた。だが田村は首を横に振って、絞り出すような声で言った。 
「この女は、デカだ。ここにいて貰う。てめぇが帰るまで、ここにいて貰う」 
(略) 
革ジャンの男が不意に、クスッと笑った。 
「やっぱり、な」 
男は、両手をポケットに突っ込んだまま、肩を一度上げ下げした。 
「おまえが誤解してんじゃないかと思ってさ、武藤の叔父きに連絡して、おまえに会いに行ってもいいかって言ったんだ。叔父き、なんて言ったと思う? 田村には手出しすんじゃねえぞ、おまえを殺る時に鉄砲玉にするつもりの大事な身体だからな、だとさ。叔父きも、冗談きついぜ」 
「それでおまえ……俺を……俺を」 
田村はほとんど泣き声をあげた。 
「畜生、畜生! こんな目に遭わされるとわかってたらよぉ、てめぇなんかの面倒なんかみてやんじゃなかったよ……くそぉ! てめぇなんか、てめぇなんか、ムショんなかで公衆便所にされて首でも括ってりゃよかったんだ……なんで俺がてめぇに殺られねぇとなんないんだよぉ」 
田村は枕に頭を伏せて、メソメソと泣き出した。極度の恐怖と緊張が、田村の神経を完全に参らせているらしい。 
(略) 
「俺じゃないよ。俺じゃない。俺がなんでおまえを殺らないとなんないんだよ。なぁ、信じろよ、俺じゃないって。俺が命令したんじゃない」

山内はそう言いながら、田村の局部をさわりだした。 これから始まることを察して吐き気を催し病室を飛び出した緑子は、新宿署の暴力団担当の刑事に、田村を訪ねて来た男のことを訊ねた。 

「あいつの名前は、山内練。あんな風に見えるけどあれでももう三十六、七はいってる。真正のゲイだ」

「田村とは長いみたいだな。奴等は同じ時期に府中で服役してるから、ムショん時からの文字どおりの腐れ縁なんだろ」

「ともかくあの山内ってのは、見ての通りの女顔で、歳喰って演技派俳優に転向した元アイドルみたいだけどな、俺に言わせたらここ数年来にデビューしたヤクザの中じゃ、あの男の極悪さはピカ一だな。おまけに始末が悪いことに、俺なんかより遙かに頭がいい。悪魔に魂を売った人間ってのがいるとしたら、まずはあいつが筆頭だな」

「武勇伝というか醜聞には事欠かない。幹部会の席で馬鹿にされたのに腹立てて、その幹部のスケをさらって頭が変になるまで犯しまくったとか、スパイの真似事してた銀座のホステスの顔をガスバーナーで焼いたとか、金の取立てに絡んでトラブった相手の社長の生爪を手足全部はぎ取ったとか」

「単に狂暴なんじゃなくて残忍なんだな。その点では、奴を拾って来て飼ってた韮崎って男にそっくりだ。まあその韮崎ってのは、痴情のもつれだかなんだかで喉を掻き切られてくたばったがな……だが山内が特異な点は、単に血を好むってだけじゃないんだ。奴は金儲けが異様に上手なんだ」

「聖なる黒夜」の基本プロット

山内練を「拾って来て飼ってた」韮崎が「喉を掻き切られて」殺害された事件ーーこれが〈山内練〉シリーズの3作目で2002年に出版された「聖なる黒夜」で描かれるので、作者の柴田よしきさんは「聖母の深き淵」が出版された1996年の時点で、すでに「聖なる黒夜」の基本プロットは創り上げていたことがうかがえます。 

広域暴力団の大幹部が殺された。容疑者の一人は美しき男妾あがりの男……それが十年ぶりに麻生の前に現れた山内の姿だった。事件を追う麻生は次第に暗い闇へと堕ちていく。圧倒的支持を受ける究極の魂の物語(『聖なる黒夜(上)』) 
  
刑事・麻生龍太郎と男妾あがりのインテリ山内練。ひとつの殺人事件を通して暴かれていく二人の過去に秘められた壮絶な哀しみとは? ミステリとして恋愛物語として文学として、すべてを網羅した最高の文芸作品!!(『聖なる黒夜(下)』) 

”遊び心”も併せ持つ山内

さて、山内練が「狂暴」「残忍」と言われる部分ばかり紹介しましたが、緑子はふたたび山内と遭遇します。場所は新宿。70年代から80年代のロックばかり流れる地下のバー。 

コカインの常習者を装って、でも白い粉は粉砂糖。女を抱く時は「シラフじゃやってらんないから、そん時はこれ一本だな」と腕に注射をうつ真似。緑子が「それだけでも自白になるわよ」と言うと、「あんた何の話してんの? ビタミン注射のこと言ってんだぜ、俺は」 

緑子が田村との関係を訊ねると、山内は刑務所で男娼として扱われた時のことを語った。 

「どん底で這い回ってる時に親切にして貰ったことを忘れられはしない。そうだろ? いちばん苦しい時に慰めてくれた奴のことは、一生恩に着るもんさ」 

このあとも山内と緑子の場面は何度か続くのですが(そのひとつに、以前に掲示板サイトで批判されたレイプシーンも含まれます)引用はこのあたりにしておきましょう。 

「悪魔みたいに頭の切れる男」と形容され、粉砂糖やビタミン注射のような”遊び心”を併せ持つ山内練のデビュー作、それが「聖母の深き淵」です。 

もちろん警察ミステリーとしても優れています。先に紹介したあらすじに「保母失踪、乳児誘拐、主婦惨殺。この無関係に思える事件には恐るべき1つの真実」がある……とあります。 

保母だった由香はなぜ発砲事件に巻き込まれたのか。同時期に起きた主婦殺害事件とはどう関係するのか。すべての事件の鍵となる乳児誘拐事件の哀しき真相とは……。 

ぜひ「聖母の深き淵」を手にとり、極上の警察ミステリーを堪能するとともに、山内練の世界に誘われてください。 

次回は「月神の浅き夢」ーー山内練という「悪魔みたいに頭の切れる男」が生まれた秘密を緑子が探り当てるRIKOシリーズ最終作を紹介します。 

(しみずのぼる) 

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