俳優トム・ハンクスが初の監督・脚本を務め、1960年代のポップ・ミュージックシーンを背景に描いた青春映画の傑作『すべてをあなたに』。田舎町のコンテストから始まった無名のバンド「ザ・ワンダーズ」が、1曲のヒット曲を武器にスターダムを駆け上がっていく爽快なサクセスストーリーです。本記事では、ラジオから流れる興奮と感動の瞬間や、劇中を彩る名曲の誕生秘話、コンピレーションアルバムにまつわる話題など、作品の魅力をあらすじを交えて詳しく解説します。(2004.4.26)
〈PR〉
田舎町のコンテストから始まったバンドの軌跡
1996年製作のアメリカ映画『すべてをあなたに』(原題:That Thing You Do!)のあらすじを紹介しましょう。

1964年、ペンシルバニア州エリー。父親が経営する電気店で働きながらジャズドラマーに憧れる青年ガイは、ある日、音楽仲間のジミーから、骨折したドラマーの代役を頼まれ、“1度きり”を条件に引き受けることに。ところが、ジミーが作ったメロウな曲“ザット・シング・ユー・ドゥ”をほんの遊び心から速いビートで演奏すると、これが大受け! 彼らは一気にスター街道を突っ走っていくーー

地元のコンテストの演奏で、代役を引き受けたガイがアップテンポに変えた“ザット・シング・ユー・ドゥ”に会場のみんなが踊り出し、そこに居合わせたレストランの経営者に店で演奏を頼まれる。
その店で自分たちで作ったシングルレコードを販売したところ、それを買ったプロデューサーから契約を持ち掛けられる。
「10日、いや、1週間以内にラジオで流すから」
初めてラジオから曲が流れた瞬間の興奮と感動
その約束どおり、ラジオで流れたときの彼らの喜びようったら……。ジムの恋人でバンドと常に行動を共にするフェイが、イヤホンでラジオを聴いていると、“ザット・シング・ユー・ドゥ”が流れたとたん、その場で激しく体を震わせ、叫び出す。
イヤホンをしたまま町の通りを走り出し、途中でベース・プレイヤー(なんと役名がありません)と合流してガイの働く電気店に駆け込む。
接客中のガイは慌てて店の売り物のラジオのスイッチを入れて“ザット・シング・ユー・ドゥ”が流れると、父親は苦虫をかみつぶした表情なのに、母親はからだでリズムをとっている…。そこにジムとギターのレニーも合流して、全員で輪になって踊り出すーー。
自分たちの曲がはじめてラジオで流れたときの瞬間……。そのときの昂奮と感動は、どんなスターでも、きっと大切にしている想い出の一コマだろうと想像します。
この映画でいちばん好きなシーンはどこかと聞かれたら、間違いなく、このラジオのシーンを挙げます(YouTubeの公式チャンネル「Movieclips」にビデオクリップがありました)
ここから、彼らのバンド「ザ・ワンダーズ」は、トム・ハンクス演じる大手レコード会社の敏腕プロデューサーに”指導”されながらスター街道を走り出すが、作曲の才能に自信を持つジムは、レコードの制作を先延ばしにされて徐々に不満を募らせていく……。
映画に花を添えるのがリブ・タイラー演じるジムの恋人フェイです。ジムとの恋に破れ、エリーにひとり帰ろうとするフェイに声をかけるガイ……。恋愛の要素を絡めてあるあたりも青春映画の定法です。
トム・ハンクスは、観客が映画を見終えて、こう思ってくれたらうれしいと言っています。
”最高にさわやかな気分だ”
「さわやか」という形容詞がピッタリな青春映画です。
映画を彩る主題歌を生み出した2人の音楽性
演奏しているのは出演した俳優たち。音楽経験のない俳優ばかりのため、5週間1日5時間の練習時間を確保したそうで、映画では本物のバンド並みの一体感をかもしだしています。
ただ、主題曲“ザット・シング・ユー・ドゥ”を実際に歌っているのは、マイク・ヴァイオラ。恥ずかしながら知らない歌手でしたが、
90年代初頭、Candy Buchersのヴォーカリストとしてデビュー。その後ブライアン・アダムズらのコラボレーターとしても活躍しつつ、ソロとしてポップ・チューンの名品を奏で続ける職人
どこか70年代のポップスを想起させるノスタルジックなメロディと甘い歌声、そして時代のハイプを知り尽くした緻密なプロダクション、独特のオルタナティブフレイバーなど、いたるところに仕掛けが張り巡らされたそのサウンドは、ポップマニアを満足させる。
アップル・ミュージック「はじめてのマイク・ヴァイオラ」より
という方です(最近のお気に入りプレイリストのひとつです)
主題曲“ザット・シング・ユー・ドゥ”の作者は、アダム・シュレジンジャー。わたしが最近特にお気に入りにしているバンド「ファウンテインズ・オブ・ウェイン」の創設者のひとりです。
クリス・コリングウッドとアダム・シュレジンジャーを中心に、1996年に結成。同年リリースされたデビュー・アルバム『Fountains of Wayne』によって、1990年代パワーポップの代表的バンドの一つになった。内向的な思春期に寄り添うようなナイーブな情感とタイムレスなメロディセンスには定評があり、2003年の『Welcome Interstate Maneger』はとりわけ高い評価を得てヒットを記録。「Stacy’s Mam」や「Mexican Wine」といったポップアンセムも生み出した。
アップルミュージック「はじめてのファウンテインズ・オブ・ウェイン」より
名コンピ盤にも収録された劇中歌の不朽の魅力
主題曲“ザット・シング・ユー・ドゥ”は、以前に紹介した2枚組コンピレーションCD『Power to The Pop 2』にも収録されています。
シュレジンジャーとヴァイオラという、どちらもビートルズのDNAを受け継ぐアーティスト二人が揃ったナンバーがポップにならないわけがない。この曲は実際にも、架空のバンド、ザ・ワンダーズ名義でシングル発売され、映画程の大成功とはならなかったものの、ビルボード・チャートの41位にランクインするスマッシュ・ヒットとなった。また、翌97年の第69回アカデミー賞で主題歌賞にもノミネートされた。アダム・シュレジンジャーらしいポップでキャッチーなメロディを持ったこの曲のファンは多く、ザ・ナックやイン・シンクなど、同曲をカバーしているアーティストは少なくない。
「Power to The Pop 2」ライナーノーツより

音楽サブスクで探してみて、ぜひお気に入りプレイリストに入れてみてください。
なお、上記で紹介したアップル・ミュージックの「はじめてのマイク・ヴァイオラ」「はじめてのファウンテインズ・オブ・ウェイン」にも、“ザット・シング・ユー・ドゥ”は収められています。
(しみずのぼる)
〈PR〉


