きょう紹介するのは小林義崇さんの「元国税専門官がこっそり教える あなたの隣の億万長者」です。ムックで本のエッセンスを読んでおもしろそうと思って購入しましたが、なかなかどうしてためになる良書でした。若い人を含めて万人にお勧めできる内容です(2024.3.26)
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読み手で異なる最適解
ビジネス書が難しいなと思うのは、読み手の関心が千差万別であるだけでなく、その人の置かれている状況で「最適解」も変わってしまう点です。
例えば、新NISAひとつとっても、まだ20代で社会人なりたての人と、もう会社勤めを終えてセカンドライフを満喫したいと思っている人とでは、「こうしたら?」とアドバイスする内容が変わってきます。
前者なら、ひたすら「長期・積立・分散」の原則で米国株か全世界株に連動するインデックス型投資信託を積み立てて複利効果を狙うのがいいに決まっています。つみたて投資枠だけでなく成長投資枠でも、積立投資をすればいいでしょう。
でも、後者なら、少なくとも成長投資枠は高配当株や累進配当株を中心に国内株を購入して、年間配当金を増やして資産所得を増やすアプローチのほうが理にかなっています。
小林義崇さんの「元国税専門官がこっそり教える あなたの隣の億万長者」(ダイヤモンド社、2023年刊)は、本の帯にあるとおり「投資」「節税」「不動産」「保険」「相続」に関する話題が出てきます。

20代で社会人なりたての人だと、相続なんて「親が考えること」でしょうし、不動産も「今はまだ時期じゃない」と思うでしょう。 逆に、一定の資産をためてセカンドライフの入口にたっている人だと「相続対策はもう考えているよ」という人もいるでしょう(わたしもそうです)
特に不動産や相続の知識はムック本で補えるので、あえて本で買おうとまでは思わない…という人もいるはずです(本はどうしても情報が古くなってしまい、発行年が古い本だと制度が変わっていたりするので、わたしはムックで代用してしまうのです)
ですから、楽天マガジンで「ESSEが教える いちばんわかりやすいお金の本」(別冊エッセ)を読まなければ、小林氏の本はおそらく読むことはなかった一冊です(小林さん、ごめんなさい)
相続税調査で見知った事例
別冊エッセで書かれていた内容は以前の記事(「幸せなお金持ちの習慣」いくつあてはまりますか)をお読みいただくとして、同書がなぜ「良書」と思ったかと言えば、国税専門官として富裕層の相続税調査で見知った事例をふんだんに盛り込んでいる点と、そこから若い人を含めて万人に役立つ情報が導き出されていると思ったからです。
たとえば、行動経済学の「プロスペクト理論」(人は儲かったときの喜びに比べ、損をしたときの苦痛のほうが約2倍大きい)に触れたあと、こんなくだりが出てきます。
私が相続税の申告漏れや脱税を指摘したとき、とくに激しい抵抗を見せたのが、専業主婦などの”収入のない相続人”でした。
収入がないということは、自分の生活を遺産に頼らざるを得ません。その遺産がわずかでも減るのをおそれ、脱税などの脱法行為に出てしまうことがあるのです。
(略)
一生食べていけるだけの資産をもつ人でも、実は仕事や投資などで、継続的にお金を増やそうとしています。それは、子や孫に財産を残したいという理由だけでなく、お金が減り続ける状態は精神的に辛いからです。
そのことに気づいた私は、多額の遺産をもらう人に対してうらやむ気持ちがなくなりました。
次のくだりも「なるほど」と思いました。
株式にせよ、不動産にせよ、富裕層は長期的な視点で投資をしています。数十年単位で資産を持ち続け、土地の値上がりや複利の効果によって資産を増やしているのです。
(略)
相続税調査では、長期投資で大きな利益を得ているケースに遭遇することが少なくありません。そこで、相続人に話を聞くと、「別に投資に詳しいわけではなかった」「昔に買った株が、いつの間にか高くなっていた」という答えがよくありました。
「資産運用の成績がもっともよかった人は、亡くなった人と忘れている人」という都市伝説を耳にすることがありますが、これもあながち間違っていないのかもしれません。
都市伝説のくだりは、読んでいて吹き出してしまいました。
このように引用するだけでも、「相続なんて関係ない」と言うであろう若い世代こそ、読んだほうがよいのではないかと思います。

やっぱりコツコツ働くことが大事なんだな。
若いうちから積立投資信託をやってれば、億万長者も無理じゃないな。
そんなふうに思えてくる内容です。
「自分の頭で考える」が大事
もちろん、相続税調査で見知った失敗事例も紹介しています。
あるとき、生前の収入などに照らして相続税の申告財産が少ない事案を調査したことがあります。そのときは財産隠しの可能性も視野に入れていたのですが、調査の結果、投資による損失で資産の大半を失っていたことがわかりました。
相続人に話を聞くと、「証券会社の人にいわれるままに売買をしていた」と、とても残念そうでした。その後、証券口座の動きを見ると、たしかに頻繁に売買を繰り返して損をしていることがわかりました。
短期投資はリスクが高いというのは、投資の常識です。でも、証券会社の担当者によっては頻繁に売買をもちかけてくることがあります。なぜなら、顧客が頻繁に取引をしてくれたほうが、証券会社は「手数料」を稼げるからです。
(略)
彼らは金融商品を売って手数料を稼ぐプロであっても、金融商品で儲けるプロではないからです。
こんな記述を読むと、やはりネット証券一択ですね。
もうひとつ、仕組債のことも出てきました。
私がよく覚えているのは、「仕組債」と呼ばれる金融商品に投資をして、数百万円単位、ときには1000万円を超える損をしている人が多くいたことです。
(略)
金融庁の「第1回 金融審議会 顧客本位タスクフォース」の資料では、2019年に販売された仕組債において、3か月で元本の8割を失った投資家がいたことが明らかになっています。
小林さんは、証券マンに言われるまま短期売買を繰り返した事例と仕組債のことを紹介した章を、次の文章で結んでいます。
基本的に自分の頭で考え、しくみを理解できる金融商品に投資をすることが大切です。
まったく同感です。若い人を含めて、多くの人に読んでほしい本です。
(いしばしわたる)
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