3か月に1度くらいは無性に映画館に足を運びたくなります。テレビと違って、時間と空間が切り取られ、途中で家人に話しかけられたり、雑事にわずらわされたりしません。どっぷりとその世界に浸れます。話題の映画「PERFECT DAYS」を休みの日に観に行きました(2024.3.4)
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ヴィム・ヴェンダースが監督を務め、役所広司が主演を務める「PERFECT DAYS」は、第76回仏カンヌ映画祭で役所広司が最優秀男優賞に輝き、第96回米アカデミー賞国際長編映画賞でもノミネートされています。
でも、休みだからと娘を誘うと、「映画の紹介ページ見たけど、この内容で2時間以上はちょっと合わないかなぁ。パスで」と言われてしまいました。
確かに、公式ホームページをみると、役所さん演じるトイレ清掃員、平山が暮らす安アパートが映し出され、彼の「映画にならなかった365日」というのだから、タイパが気になる今の若い人にはアピールしないのかも……。わが家の最寄りのシネコンでも、すでに1日1回上映になっていました。
いや~。でも、この映画、そして役所広司はタダものではありませんでした。
平山は、毎朝、近所のお寺を掃き清めるホウキの音で目覚めます。そして、布団を畳み、身支度を済ませ、アパートの近くに停めてある軽自動車を運転して、仕事に向かいます。首都高を通って、東京・渋谷の公共トイレに通い、黙々と仕事をこなします。
仕事の合間に立ち寄る神社。鳥居のところで拝礼し、サンドイッチを食べながらフィルムカメラで木漏れ日を撮影する平山。仕事終わりには銭湯、地下鉄の駅にほど近い居酒屋へ。何も言わなくても、ちょっとした仕草で、彼が常連客とわかって、まるで彼のルーチンの中に迷い込んだよう…。
休みの日も、コインランドリーと写真屋、古本屋に立ち寄り、歌の上手な女将のいる小料理屋でひとときを過ごす。
日常に起きる小さな事件
淡々と流れる映画と言ってしまえばそれまでですが、そんな平山の日常にも小さな事件は起きます。
泣いている男の子を見つけて、その子の母親を一緒に探していたら、母親のほうは男の子の手を消毒したかと思うと礼も言わずにそそくさと立ち去ってしまう。でも、男の子は平山に向かって手を振り、平山も笑顔で応える。
家出して平山の安アパートに転がり込んでくる姪っ子。誰とも分からないトイレの利用者と、紙に書いたマルバツゲームを交換する平山。「平山さん、道具もめっちゃ手作りしているし、この仕事好きなんすか?」と訊ねる同僚……。
そんな日常の小さな出来事が、車で移動する際に流れるカセットテープの音楽(ほとんどが60~70年代の洋モノ)とともに、じんわりと自分の心の中の深いところに届いてくるのです。
映画館で観てほしい
この映画だけは映画館で観てほしい。
大きな事件が起きなくても、何の変哲もない人生でも、とらえようによってはこんなにドラマチックだし、寡黙をつらぬく生き方もあるのだなあ…と改めて思いました。
人生の終わりに差し掛かったときに、自分は何の爪痕も残すことができなかったかも…と思ってしまったとき、平山みたいに、見ず知らずの人にも優しい言葉を言える人でありたい。
私にも「PERFECT DAYS」はあるに違いないーー。この映画は、とても哲学的なことを問いかけているように思います。
最後に蛇足ですが、カセットテープの音楽は、寡黙な平山の気持ちを代弁するかのように使われています。
パンフレットをみると、ヴィム・ヴェンダース監督は、平山の日常がニーナ・シモンの「Feeling Good」の歌詞にあまりに共通していることに驚いたそうです。
映画のタイトルにも関係するルー・リードの「Perfect Day」と、映画の最後のシーンで流れる(私は涙してしまいました)「Feeling Good」のサンプル音源をスポティファイでつけておきます(平山さん、これがスポティファイですよ)
(ruru)
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