きょうは、タイトルのとおり、しろばんばのカレーを作ってみての感想です。「なにそれ?」と思うでしょう。当然です。わたしも原田ひ香さんの「図書館のお夜食」を読むまで知りませんでした(2023.11.21)
図書館のお夜食
原田ひ香さんの「図書館のお夜食」(ポプラ社)は最初に妻が読み、「おもしろかったよ」と渡された本でした。

東北の書店に勤めるもののうまく行かず、書店の仕事を辞めようかと思っていた樋口乙葉は、SNSで知った、東京の郊外にある「夜の図書館」で働くことになる。そこは普通の図書館と異なり、開館時間が夕方7時~12時までで、亡くなった作家の蔵書が集められた、いわば本の博物館のような図書館だった――。 「三千円の使いかた」「ランチ酒」の原田ひ香が描く、本×ご飯×仕事を味わう、心に染みる長編小説。
この「本×ご飯×仕事を味わう」というのが、この本の持ち味。厳密に言えば「本×ご飯」と「本×仕事」の2つの要素から各話が成り立っている構成です。
この図書館で働く人たちは、いずれも何らかの秘密を抱えています。元書店員もいれば、元司書や元古書店員もいて、本の仕事にかかわる人たちを通じて「本×仕事」を知ることができます。
でも、この本のもうひとつの魅力が「本×ご飯」の部分。各話にかならず本にちなんだ食事が出てくるのです。
図書館のオーナーに声をかけられて働くようになった元喫茶店主が従業員たちに作る食事ですが、どれも本に関係してきます。
その第1話に出てくるのが「しろばんばのカレー」です。
おぬい婆さんが作るカレー
この本の魅力を知ってほしいので、該当部分を少し長めに引用します。
「今日は『しろばんば』ね。月曜日はしろばんば」
「カレーって、元気が出ます」
みなみがうなずく。
「さっきから『しろばんば』って言ってるのはなんですか」
「知らない? 読んだことない? 井上靖の『しろばんば』だよ。その中に載ってる、おぬい婆さんが作るライスカレーを再現したの」

洪作少年は、五歳の時から父や母のもとを離れ、曾祖父の妾であったおぬい婆さんとふたり、土蔵で暮していた。村人たちの白眼視に耐えるおぬい婆さんは、洪作だけには異常なまでの愛情を注いだ。
――野の草の匂いと陽光のみなぎる伊豆湯ヶ島の自然のなかで、幼い魂はいかに成長していったか。著者自身の幼少年時代を描き、なつかしい郷愁とおおらかなユーモアの横溢する名作。

主人公の乙葉と同じで「しろばんば」はわたしも未読ですが、そこは気にせず「しろばんばのカレー」にいきましょう。
第1の隠し味
乙葉はスプーンを取って一口食べた。普通においしいカレーだ。でも、最初に口に入れた感じはマイルドなのに、だんだんスパイシーになっていく、独特の風味がある。
(略)
人参やジャガイモがきれいにサイコロ状に切って入っているのはわかったけど、同じように半透明に煮込まれている野菜がわからなかった。口に入れると、くしゃっとつぶれるような歯触りだ。
「これ、なんだろう。柔らかくてみずみずしい野菜だけど……」
カレーに入っているのを見たことがない野菜だった。
「大根よ」
「え。大根?」
そう、大根なのです。今回挑戦した「しろばんばのカレー」で、我が家のカレー歴でもはじめて大根を使いましたが、これが何ともおいしい! 本当に柔らかくてみずみずしい……。
もうひとつ、「しろばんばのカレー」には隠し味の食材があります。
第2の隠し味
「お肉は何が入っているんだろう? お肉のうまみはあるんだけど、姿が見えない」
さいの目の野菜がすべてを主張していて、肉が隠れている。避けたような肉の切れ端だけ見えた。それがまた、このカレーの味に大きな影響を与えている気がした。スプーンにとって、じっと見た。
「あーー」
「わかった?」
「コンビーフですね」
「ご名答。『しろばんば』を読めばもっと詳しいことがわかるよ」
まさかコンビーフとは……。でも、これが実にあうのです。味がマイルドになるのはコンビーフを使ったからでしょう。
実は、我が家では、コンビーフはめったに食卓にのぼりません。
わたしはじゃがいもと一緒に炒めたりするとおいしいと思うのですが、妻が好みではないため、徐々に食卓にのぼる機会が遠のいた食材でした(我が家では長らくわたしが料理担当です)
妻も舌鼓を打つ
そこで先週、スーパーに買い物に行くとき、妻とこんな会話をしました。
「えっと、反対しないでほしいんだけど…」
「え、なに? そんな言い方されたら反対します!」
「いや、コンビーフを買いたいんだよ。きみ、きらいでしょ?」
「コンビーフ?」
「うん、しろばんばのカレーを作ってみたくて」
「ああ、しろばんばのカレーね! 食べたい! コンビーフ買うの賛成!」
こうして昨晩の夕食で「しろばんばのカレー」をつくり、妻と一緒に食べました。
「おいしい」「意外な味だね」「大根もコンビーフもカレーにあうね!」
と言いながら、妻も舌鼓を打っていたので、大成功でした。
みなさんも「しろばんばのカレー」に挑戦してみてはいかがですか(もちろん「図書館のお夜食」もおすすめです)
(しみずのぼる)
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