辻村深月氏の小説には、一度読んだら忘れられない独特の世界観があります。きょう紹介する『光待つ場所へ』(講談社文庫)は、 過去の名作に登場する人物のその後や舞台裏を描いた、ファン垂涎の魔法のような短編集です。辻村作品は『スロウハイツの神様』や『冷たい校舎の時は止まる』など他作品とのリンク(繋がり)が豊富で、どの順番で読むべきか迷う方も多いはず…。本記事は『光待つ場所へ』所収短編の魅力を深掘りしつつ、辻村作品のおすすめの「読む順番」や各エピソードの繋がりを詳しく解説します。(2023.98.28)
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目次
辻村作品のリンクを解説!短編から長編まで安心して楽しむコツ
きょう紹介する辻村深月氏の傑作短編集『光待つ場所へ』(講談社文庫)のうち、「樹氷の街」の魅力はすでに記事にまとめています(できたら、そちらの記事を最初に目を通して下さい。講談社文庫の”帯すごろく”を含めて、辻村作品の「読む順番」問題について理解が進みます)
📖辻村深月を初めて読むなら『樹氷の街』がおすすめ!挫折しないための入門ガイド
辻村深月氏の小説は、繊細な心理描写と驚きの伏線回収が魅力ですが、作品数が多いうえ「読む順番」がある、というのが定説です。何から読むか迷っている方へーー結論から言…hintnomori.com
「樹氷の街」が入っている『光待つ場所へ』には、「冷たい光の通学路」という短い文章にはさみこむ形で、ほかに3つの短編が収められています。
- しあわせのこみち
- アスファルト
- チハラトーコの物語
これを先に読んでも、ほかの辻村作品のおもしろさが減殺される心配はありません。
「あれ? この人たちの関係性はなにかあるの?」程度の違和感だけですみますし、何より作者の辻村さん自身が、ネタバレを絶対にしないように書いています。独立した短編として安心して読んでください。
『光待つ場所へ』紹介
大学二年の春。清水あやめには自信があった。世界を見るには感性という武器がいる。自分にはそれがある。最初の課題で描いた燃えるような桜並木も自分以上に表現できる学生はいないと思っていた。彼の作品を見るまでは(「しあわせのこみち」)。書下ろし一編を含む扉の開く瞬間を描いた、五編の短編集(『光待つ場所へ』講談社文庫背表紙より)『光待つ場所へ』(講談社文庫)
リンク先は『スロウハイツの神様』!共通の登場人物や繋がりを解説
「チハラトーコの物語」の主人公ーー「嘘つき」を自認する千原冬子は、『スロウハイツの神様』(上下巻、講談社文庫)の登場人物です(「チハラトーコの物語」の後半に登場する赤羽環も)
『スロウハイツの神様』あらすじ
人気作家チヨダ・コーキの小説で人が死んだ――あの事件から10年。アパート「スロウハイツ」ではオーナーである脚本家の赤羽環とコーキ、そして友人たちが共同生活を送っていた。夢を語り、物語を作る。好きなことに没頭し、刺激し合っていた6人。空室だった201号室に、新たな住人がやってくるまでは(『スロウハイツの神様』講談社文庫・上巻の背表紙より)『スロウハイツの神様』(上下巻、講談社文庫)
「チハラトーコの物語」の後半でトーコが叫ぶせりふ、
「あんたたちさぁ こんなヤバイことしてどうすんの? ーーこの子の父親が誰か、あんたたち知らないでしょ」
は、伊坂幸太郎氏の小説で漫画化・映画化もされた『アイネクライネナハトムジーク』(幻冬舎文庫)を読まれた方なら、この作品に出てくる「この子がどなたの娘さんかご存じですか」作戦を思い出すのではないでしょうか。
でも『アイネクライネ…』みたいにオドオドして言うのもアリですが、トーコのように啖呵を切るのもかっこいいです! とても胸がスカッとする場面で大好きです。
それにしても、千原冬子の書き方ひとつみても、辻村深月という作家はほんとうに登場人物たちにやさしい人だなあ、とうれしくなります。
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『冷たい校舎の時は止まる』登場人物の大学進学後が描かれる
「しあわせのこみち」の清水あやめと「アスファルト」の藤本昭彦は、辻村さんの処女作であり、講談社文庫の”帯すごろく”3番目の作品にあたる『冷たい校舎の時は止まる』(上下巻、講談社文庫)の登場人物です。
『冷たい校舎の時は止まる』あらすじ
雪降るある日、いつも通りに登校したはずの学校に閉じ込められた8人の高校生。開かない扉、無人の教室、5時53分で止まった時計。凍りつく校舎の中、2ヵ月前の学園祭の最中に死んだ同級生のことを思い出す。でもその顔と名前がわからない。どうして忘れてしまったんだろう――(『冷たい校舎の時は止まる』講談社文庫・上巻の背表紙より)『冷たい校舎の時は止まる』(上下巻、講談社文庫)
校舎に一緒に閉じ込められた高校生たちが大学に進学してからの物語が「しあわせのこみち」と「アスファルト」です。ちなみに短編集「ロードムービー」(講談社文庫)にも、閉じ込められた高校生たちが大人になってからのエピソードや、逆に幼少期のエピソードが出てきます。
「冷たい校舎……」を読了したら、『ロードムービー』を読まれるとよいでしょう。主人公たちとの”再会”にうれしくなること請け合いです。
『ロードムービー』紹介
運動神経抜群で学校の人気者のトシと気弱で友達の少ないワタル。小学五年生の彼らはある日、家出を決意する。きっかけは新学期。組替えで親しくなった二人がクラスから孤立し始めたことだった。「大丈夫、きっとうまくいく」(「ロードムービー」)。いつか見たあの校舎へ、懐かしさを刺激する表題作他、4編(「街灯」/「道の先」/「トーキョー語り」/「雪の降る道」 )収録( 『ロードムービー』講談社文庫の背表紙より)『ロードムービー』(講談社文庫)
読後感で選ぶ辻村ワールド!自分に合った作品の選び方と楽しみ方
このように『光待つ場所へ』は、さまざまな辻村作品に心地よくいざなってくれる魔法のような本です。
『光待つ場所へ』所収の短編で、いちばん気に入った物語から次に手に取る本を探すのもよいでしょう。
わたしが最初に読むとよいと推す「樹氷の街」から、『名前探しの放課後』(上下巻、講談社文庫)と『凍りのくじら』(講談社文庫)に進むのもよしです。
「チハラトーコの物語」が気に入ったら、『スロウハイツの神様』に進むのもよしです。
「しあわせのこみち」や「アスファルト」から、『冷たい校舎の時は止まる』と『ロードムービー』に進むのもよしです。
辻村作品という山への登り方は、いくつだってあるのです。
最初に躓かないで絶対楽しんでもらえる!おすすめの「読む順番」
最後に、わたしがおススメする「最初の一冊で躓くことなく、最後まで絶対楽しんでもらえる!」と思う辻村作品の「読む順番」は次の通りです。
- 光待つ場所へ
- 名前探しの放課後
- 凍りのくじら
- スロウハイツの神様(スピンオフで「V.T.R.」)
- 冷たい校舎の時は止まる(スピンオフで「ロードムービー」)
- 子どもたちは夜と遊ぶ
- ぼくのメジャースプーン
一点だけ老婆心から付言するなら、「子どもたちは夜と遊ぶ」(上下巻、講談社文庫)と「ぼくのメジャースプーン」(講談社文庫)は、この順番どおりに読んだほうがいいです。
『子どもたちは夜と遊ぶ』あらすじ
始まりは、海外留学をかけた論文コンクール。幻の学生、『i』の登場だった。大学受験間近の高校3年生が行方不明になった。家出か事件か。世間が騒ぐ中、木村浅葱だけはその真相を知っていた。「『i』はとてもうまくやった。さあ、次は、俺の番――」。姿の見えない『i』に会うために、ゲームを始める浅葱。孤独の闇に支配された子どもたちが招く事件は、さらなる悲劇を呼んでいく(『子どもたちは夜と遊ぶ』講談社文庫・上巻の背表紙より)『子どもたちは夜と遊ぶ』(上下巻、講談社文庫)
今回この記事を書くため逆の順番で再読してみましたが、はじめて読む方だと、すこし混乱してしまうと思います。ここは『子どもたちは夜と遊ぶ』⇒『ぼくのメジャースプーン』の順番で読まれることをおすすめします。
『ぼくのメジャースプーン』あらすじ
ぼくらを襲った事件はテレビのニュースよりもっとずっとどうしようもなくひどかった――。ある日、学校で起きた陰惨な事件。ぼくの幼なじみ、ふみちゃんはショックのあまり心を閉ざし、言葉を失った。彼女のため、犯人に対してぼくだけにできることがある。チャンスは本当に1度だけ。これはぼくの闘いだ(『ぼくのメジャースプーン』講談社文庫の背表紙より)『ぼくのメジャースプーン』(講談社文庫)
舞台は再び「樹氷の街」へ!物語の背景を知ることで深まる作品の面白さ
そして『ぼくのメジャースプーン』を読み終えたら、きっとあなたは、

あれ? もしかしてこれって…?
と思って、「樹氷の街」が入る『光待つ場所へ』と『名前探しの放課後』上下巻2冊をもう一度本棚から取り出して、ページをめくるに違いありません。
そして、あなたはこう思うでしょう。

わたしはもうすっかり辻村ワールドの住人だ……。
(しみずのぼる)
📖辻村深月の「読む順番」徹底解説
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