辻村深月ワールドに誘う魔法の短編集「光待つ場所へ」

辻村深月ワールドに誘う魔法の短編集「光待つ場所へ」

きょうは辻村深月ワールドの入口にぴったりの短編集「光待つ場所へ」のうち、前回記事(辻村深井 最初に読むといい「樹氷の街」)で紹介した「樹氷の街」以外の短編を紹介します。「光待つ場所へ」は、さまざまな辻村作品に心地よくいざなってくれる魔法のような本です。 また、わたしが考える辻村本のおすすめの読む順番についても触れたいと思います(2023.98.28)

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ほかの短編も安心して

「樹氷の街」が入っている「光待つ場所へ」には、「冷たい光の通学路」という短い文章にはさみこむ形で、ほかに3つの短編が収められています。

  • しあわせのこみち
  • アスファルト 
  • チハラトーコの物語

これを先に読んでも、ほかの辻村作品のおもしろさが減殺される心配はありません。 

「あれ? この人たちの関係性はなにかあるの?」程度の違和感だけですみますし、何より作者の辻村さん自身が、ネタバレを絶対にしないように書いています。独立した短編として安心して読んでください。 

大学二年の春。清水あやめには自信があった。世界を見るには感性という武器がいる。自分にはそれがある。最初の課題で描いた燃えるような桜並木も自分以上に表現できる学生はいないと思っていた。彼の作品を見るまでは(「しあわせのこみち」)。書下ろし一編を含む扉の開く瞬間を描いた、五編の短編集(「光待つ場所へ」講談社文庫背表紙より)

「スロウハイツの神様」へ

「チハラトーコの物語」の主人公ーー「嘘つき」を自認する千原冬子は、「スロウハイツの神様」の登場人物です(物語の後半に登場する赤羽環も)

人気作家チヨダ・コーキの小説で人が死んだ――あの事件から10年。アパート「スロウハイツ」ではオーナーである脚本家の赤羽環とコーキ、そして友人たちが共同生活を送っていた。夢を語り、物語を作る。好きなことに没頭し、刺激し合っていた6人。空室だった201号室に、新たな住人がやってくるまでは(「スロウハイツの神様」講談社文庫・上巻の背表紙より) 

「チハラトーコの物語」の後半でトーコが叫ぶせりふ、 

「あんたたちさぁ こんなヤバイことしてどうすんの? ーーこの子の父親が誰か、あんたたち知らないでしょ」 

は、伊坂幸太郎氏の「アイネクライネナハトムジーク」に出てくる「この子がどなたの娘さんかご存じですか」作戦を思い出させます。「アイネクライネ…」みたいにオドオドして言うのもアリですが、トーコのように啖呵を切るのもかっこいいです。胸がスカッとする場面です。 

それにしても、千原冬子の書き方ひとつみても、辻村深月という作家はほんとうに登場人物たちにやさしい人だなあ、とうれしくなります。

「冷たい校舎……」へ

「しあわせのこみち」の清水あやめと「アスファルト」の藤本昭彦は、辻村さんの処女作であり、”帯すごろく”の3番目の作品である「冷たい校舎の時は止まる」の登場人物です。 

雪降るある日、いつも通りに登校したはずの学校に閉じ込められた8人の高校生。開かない扉、無人の教室、5時53分で止まった時計。凍りつく校舎の中、2ヵ月前の学園祭の最中に死んだ同級生のことを思い出す。でもその顔と名前がわからない。どうして忘れてしまったんだろう――(「冷たい校舎の時は止まる」講談社文庫・上巻の背表紙より) 

校舎に一緒に閉じ込められた高校生たちが大学に進学してからの物語が「しあわせのこみち」と「アスファルト」です。ちなみに短編集「ロードムービー」にも、閉じ込められた高校生たちが大人になってからのエピソードや、逆に幼少期のエピソードが出てきます。 

「冷たい校舎……」を読了したら、「ロードムービー」を読まれるとよいでしょう。主人公たちとの”再会”にうれしくなること請け合いです。

運動神経抜群で学校の人気者のトシと気弱で友達の少ないワタル。小学五年生の彼らはある日、家出を決意する。きっかけは新学期。組替えで親しくなった二人がクラスから孤立し始めたことだった。「大丈夫、きっとうまくいく」(「ロードムービー」)。いつか見たあの校舎へ、懐かしさを刺激する表題作他、4編(「街灯」/「道の先」/「トーキョー語り」/「雪の降る道」 )収録(「ロードムービー」講談社文庫の背表紙より) 

山の登り方はいくつも

このように「光待つ場所へ」は、さまざまな辻村作品に心地よくいざなってくれる魔法のような本です。 

「光待つ場所へ」所収の短編で、いちばん気に入った物語から次に手に取る本を探すのもよいでしょう。 

わたしが推す「樹氷の街」から「名前探しの放課後」「凍りのくじら」に進むのもよし。「チハラトーコの物語」が気に入ったら、「スロウハイツの神様」に進むのもよし。「しあわせのこみち」や「アスファルト」から「冷たい校舎の時は止まる」と「ロードムービー」に進むのもよし。 

山への登り方はいくつだってあるのです。 

おすすめの読む順番

最後に、わたしがおすすめする辻村作品の読む順番は次の通りです。

  1. 光待つ場所へ
  2. 名前探しの放課後 
  3. 凍りのくじら 
  4. スロウハイツの神様(スピンオフで「V.T.R.」) 
  5. 冷たい校舎の時は止まる(スピンオフで「ロードムービー」) 
  6. 子どもたちは夜と遊ぶ 
  7. ぼくのメジャースプーン 

一点だけ老婆心から付言するなら、「子どもたちは夜と遊ぶ」「ぼくのメジャースプーン」は、この順番どおりに読んだほうがいいです。 

始まりは、海外留学をかけた論文コンクール。幻の学生、『i』の登場だった。大学受験間近の高校3年生が行方不明になった。家出か事件か。世間が騒ぐ中、木村浅葱だけはその真相を知っていた。「『i』はとてもうまくやった。さあ、次は、俺の番――」。姿の見えない『i』に会うために、ゲームを始める浅葱。孤独の闇に支配された子どもたちが招く事件は、さらなる悲劇を呼んでいく(「子どもたちは夜と遊ぶ」講談社文庫・上巻の背表紙より)

今回この記事を書くため逆の順番で再読してみましたが、はじめて読む方だと、すこし混乱してしまうと思います。ここは「子どもたちは夜と遊ぶ」⇒「ぼくのメジャースプーン」の順番で読まれることをおすすめします。 

ぼくらを襲った事件はテレビのニュースよりもっとずっとどうしようもなくひどかった――。ある日、学校で起きた陰惨な事件。ぼくの幼なじみ、ふみちゃんはショックのあまり心を閉ざし、言葉を失った。彼女のため、犯人に対してぼくだけにできることがある。チャンスは本当に1度だけ。これはぼくの闘いだ(「ぼくのメジャースプーン」講談社文庫の背表紙より) 

再び「樹氷の街」へ

「ぼくのメジャースプーン」を読み終えたら、きっとあなたは、

「あれ? もしかしてこれって?」 

と思って、きっと「樹氷の街」と「名前探しの放課後」をもう一度本棚から取り出して、ページをめくるに違いありません。 

そして、あなたはこう思うでしょう。 

わたしはもうすっかり辻村ワールドの住人だ……。 

(しみずのぼる)

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