「音楽との出逢いかた」の3回目は、ホラー小説の巨匠スティーヴン・キングと、以前の記事で書いた「ぼくのエリ」です。特にキングは、ビートルズなのに知らない曲だったのでびっくりでした(2023.9.15)
〈PR〉


「シャイニング」の続編
キングがビートルズの曲に言及するのは「ドクター・スリープ」(上下巻、文春文庫。原題:Doctor Sleep)ーー幽霊ホテルを舞台にした名作「シャイニング」(上下巻、文春文庫)の続編です。
マイク・フラナガン監督(以前の記事で紹介した「ザ・ホーンティング・オブ・ヒルハウス」の監督)が映画化しているので、そのDVDの背表紙からあらすじを紹介します。
ダニー・トランスは、幼い頃オーバールックホテルで刻み付けられたトラウマに、未だに苛まれていた。そんな彼の前に過去の亡霊が現れる。きっかけは、ある勇敢な十代の少女との出会いだった。ダニーに協力を求めてきたアブラ―彼女が秘めていたものこそ、“シャイニング”と呼ばれる特別な力をもっていたのだ。
この“シャイニング”と呼ばれる特別な力を持つ少女アブラが赤ちゃんの頃のエピソードとして、ビートルズが出てくるのです。ちなみに、このエピソードは映画では出てきません。原作から引用します。
ナット・ア・セカンド・タイム
アブラがいちばん好きなのはマイナーな曲、いってみればシングルのB面に収録されるような曲のひとつ、〈ナット・ア・セカンド・タイム〉でした。
(略)
間奏はほぼピアノだけで、これも非常に単純な演奏です。左手で一音ずつ弾いているだけです。音符は二十九個ーー数えました。子供だって弾けます。げんにうちの子も弾けました。
アブラの両親はベッドに入っていた。アブラは子供部屋にいた。妻が寝たいと言い、夫がテレビを消したそのとき、一階からピアノの音ーー〈ナット・ア・セカンド・タイム〉の間奏の二十九音が聞こえてきた。
翌日も同じ時間に間奏の二十九音が鳴った。三日目の夜、夫は一階のピアノのすぐ前のソファで待機した。
体を横たえると同時に、音楽がはじまったんです。フォーゲルのピアノの鍵盤蓋は閉まっていたので、急いで近づいて蓋をあけました。鍵盤はひとつも動いていなかった。
(略)
音はピアノの上からきこえてきました。なにもない空間から。
夫婦は二階にあがりアブラの部屋に行った。
ルーシーはアブラに、もう一度弾いてくれといいました。すると、わずかの間ののち、アブラは演奏しました。すぐ近くに立っていたので、その気になれば空中で音符をつかむこともできそうでした。
「シャイニング」の続編ですから、ホラー・ストーリーとして申し分ない小説で、〈ナット・ア・セカンド・タイム〉のエピソードは何ともほほえましいものですが、正直、その29音はどんなメロディだったか、まったく憶えていませんでした。この時はさすがに本を読み続けるのを中断して音楽アプリで検索してしまいました。
ビートルズの2枚目のアルバム「ウィズ・ザ・ビートルズ」。そのB面6曲目に〈ナット・ア・セカンド・タイム〉(Not A Second Time)はありました。
なんとも渋い選曲ですが、「ドクター・スリープ」を読んで以来、この29音のピアノ間奏は耳に残るようになりました。おもしろいものです。
引用されるモリッシー
もうひとつ、「ぼくのエリ」の原作、ヨン・アイヴィデ・リンドグヴィストの「MORSE-モールス-」(上下巻、ハヤカワ文庫)からも音楽を紹介しましょう。
以前の記事で原題の「Let The Right One In」の意味や受け止めについて書きましたが、実は原作では、第5章の扉にモリッシーの曲「正しい者をこっそり入れて」(Let The Right One Slip In)の歌詞が引用されているのです。
「MORSE」の第1章にもモリッシーの別の曲の歌詞が引用されているので、作者はモリッシーが好きなのでしょう。この曲も、当然、わたしのプレイリストに加えました。
(しみずのぼる)
〈PR〉

