きょうは田中相さんの漫画「千年万年りんごの子」(全3巻、講談社)を紹介します。青森のりんご農家に入り婿として入った主人公は、意図せず村の祭儀の封印をといてしまいます。愛する妻を神に差し出す運命に抗うことができるか……。とてもせつなく、哀しい愛にあふれたストーリーです(2023.9.8)
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1巻目のあらすじは、次のようなものになっています。
雪深いりんごの国に婿入りした雪之丞。昭和の激動から離れ、北の家族と静かに巡る四季は親を知らない彼の中になにかを降り積もらせてゆく。それは冬、妻の朝日が寝込んだ日。雪之丞の行動が、りんごの村に衝撃を与えた。りんごの時間が動き出す…
この「雪之丞の行動」というのは、第1話の最後の場面です(1巻あたり3話構成)
リンゴ農家の暮らしに懸命に慣れようとする雪之丞のほほえましさと、妻・朝日とのおだやかな時間の描写が、わずか1話だけだったのかと思うと、とてもせつなくなります。
死ねばりんごになる
家で飼っていた老猫がりんごの木のたもとでなくなっているのを見て、朝日がつぶやく。
埋めなくていい
どちらにせよ
巡り巡って
この子はこの村の
りんごになる
村にはまだ土葬の習慣が残っていた。
私が死ぬまで
この風習が残ってると
いいんだけど
死ねばりんごになるーー。そのような心持ちの朝日ですから、雪之丞のせいではなく運命だったと思いたいですが、ここから話は動き出します。
雪之丞は、雪深い二月にもかかわらずリンゴの実をならす古い大木をみつけ、熱を出して臥せっている朝日のために、りんごをもいで朝日に食べさせる。
しかし、その大木は”おぼすな様の木”といって、「なんぴともあのりんごをとってはならぬ」と言い伝えられていた。
朝日の父が雪之丞に聞く。
おぼすな様の りんごば食えば
祝福をもらってまるんだ……
君が食ったのか?ときいでいる
雪之丞が答える。
あ いえ すりおろして
朝日さんに……
息をのむ家族たち。ひとり何が起きたかわからない雪之丞。父親は「いまは祈るべし」と語るのみ……。
おぼすな様の嫁
雪之丞はいてもたってもいられず古老に言い伝えを聞くが、
りんごを食うたら 福がくる
福が来たなら ひかれてく
という唄の意味が理解できない。
そのうち朝日の髪が伸び、爪が伸び、背が縮んでいく。明らかな異状を前に、父親は座り込み、嘆息する。
だめだったが…
うぢは九十年前に出したごどあるはんで
あるいは、と思ったがなぁ
雪之丞はたまらず「ちゃんと教えて下さい」とすがるが、父親は首を垂れたまま、こう返した。
もうおメさは 関係ね
朝日はもう あんたの嫁でねえ
おぼすな様の 嫁っこさなった
60年前に絶えた祭儀
雪之丞は朝日の幼なじみをつかまえ、何が起きようとしているのか訊ねた。
この村では、女性のひとりがおぼすな様のりんごを食べる12年に1度の祭儀「嫁立て(めたて)」があった。
食べた女性は1年後におぼすな様に「ひかれていく」と言い伝えられていた。この祭儀は60年前を最後に絶えていたが、そのおぼすな様のりんごを、朝日は食べたのだった。
生贄じゃないか
と口にする雪之丞に、幼なじみは「軽々しく口さすんな」と反発した。
今 村の者は
おぼすな様さ 頼ることねぐ
懸命に畑を 守っている!!
おら達は この軛(くびき)を
負い続けて
末代まで この土地で生ぎる
朝日はおぼすな様の嫁になるという運命を慫慂と受け入れるが、雪之丞は運命に逆らおうとする。
心を鬼と化した結末は…
60年前にどうやって祭儀がなくなったか調べようと村の長老の蔵に忍び込み、長老から60年前に起きた出来事を聞かされる。長老は語りかける。
…若ぇころ
おらもおめのように考えでいた
災いの何が 神だばとな
捨てるすべねぐ 持て余している
それは崇(たたり)とどう
違うというんだべしかしその後 何年も経ち
毎年兆す 芽・草・花・実
くりかえし くりかえし
その不思議 これこそが
大いなる神の所業だど
気付いだんだ
すべてを知ってもなお、雪之丞は神に抗おうとする。心を鬼と化した行動と、朝日の想いと最後の選択……。
りんごの村に待ち受ける結末は、どうぞ漫画を手に取ってご確認ください。とてもせつなく、泣けて泣けて仕方ない漫画です。
(しみずのぼる)
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