Netflixオリジナルドラマ『ザ・ホーンティング・オブ・ヒルハウス』は、ホラーの体裁を取りながら、その核にあるのは家族の深い絆と再生を描いた物語です。シャーリイ・ジャクスンの古典的名作を大胆に再構築した本作は、単なる「怖い」を超えた哀切な人間ドラマとして高い評価を得ています。過去と現在が交錯する構成の中で、ヒルハウスという屋敷がいかに一家を蝕み、そして救ったのか。監督マイク・フラナガンが放つ、恐ろしくも美しい世界観の魅力を紐解きます。(2023.9.4)
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目次
シャーリイ・ジャクスンの名作を現代の家族像へと再構築
原作はシャーリイ・ジャクスンの『丘の屋敷』(創元推理文庫)で、あらすじは次のような内容です(引用は『山荘綺談』=ハヤカワ文庫=から)
モンタギュー博士が幽霊屋敷研究のために選んだ家は、小村ヒルズテールの奥深い森に囲まれた築後80年の〈山荘〉だった。その実験に招かれたのは、カード当ての名人セオドラ、家の中に小石がふりそそぐポルターガイスト現象を体験したことのあるエリーナー、そして〈山荘〉の持ち主の甥ルークの三人。やがてエリーナーのまわりに不思議な物音が聞こえはじめついには惨劇が……迫りくる恐怖を描くサイコ・サスペンスの名作
屋敷での怪異が5人の兄弟に残した消えないトラウマと傷
ところが、ドラマは原作をいい意味で”換骨奪胎”しています。
かつて幼少期に〈ヒルハウス〉に住み、怪奇現象の末に母親を失ったうえに、大人になってもなお怪異に心をむしばまれ、あえぎ苦しむ5人の兄弟が主人公です。
兄弟は上からスティーヴン、シャーリイ、テオ(テオドラ)、ルーク、ネル(エレノア)
二女と二男、三女の名前は原作と一緒ですが、兄弟という設定は異なります。ちなみに長男はスティーヴン・キング、長女はシャーリイ・ジャクスンにちなんだ名前だそうです。
長男のスティーヴンは、幼少期の経験を家系から引き継がれる精神障害と受け止め、子供を持つことをためらい、ついに妻とも別居状態に。〈ヒルハウス〉の経験を小説にして人気ホラー作家になっている。
長女のシャーリイは、幼少期に猫の死骸に触れ、死への恐怖を乗り越えようと葬儀屋のオーナーに。
二女のテオは、母親からの遺伝体質で感受性が強く、手で触れることで真理がわかる。その体質を生かして心理カウンセラーとなっている。
二男のルークは、幼少期に見た黒い男の影に悩まされ、薬物依存症に。
ルークと双子で三女のネルは、幼少期に「首折れ女」を何度も見たが、大人になっても「首折れ女」の幻影はひどくなるばかり……。
過去にむしばまれた5人の兄弟に最初の悲劇が訪れる。ネルが〈ヒルハウス〉を訪れ、首つり自殺するところから物語は幕を開ける。残された4人と父親がネルの葬儀で集まり、ふたたび怪異に見舞われはじめる……。
運命の夜に隠された真実|優しい母親を狂わせた屋敷の誘惑
各話とも現在と過去が交錯しながら、徐々に母親が〈ヒルハウス〉の怪異にむしばまれていった経過が浮かび上がってきます。
母親の身に何が起きたのか。父親はなぜ、母親を見捨てて、5人の子どもたちだけを連れて〈ヒルハウス〉から脱出したのか。
過去の謎は終盤になって明かされますが、怖いのに哀しい真相とラストに胸が締め付けられます。
本編を見るにはネットフリックスの会員にならないといけませんが、ネットフリックスの公式ホームページで各話のあらすじを紹介しています。
https://www.netflix.com/jp/title/80189221繊細な心理描写の旗手、マイク・フラナガンが描く恐怖の形
監督はマイク・フラナガン。スティーヴン・キングの名作『シャイニング』の続編である『ドクター・スリープ』を映画化した監督です(原作もいいですが、映画もすごくいいです)
ちなみに二女のテオ役のケイト・シーゲルはフラナガン監督の奥さんです。
「ヒルハウス」の好評を得て制作された『ザ・ホーンティング・オブ・ブライマナー』(フラナガンは原案者に名を連ねるも、監督は別の人)は、ヘンリー・ジェイムズの恐怖小説『ねじの回転』が原作。ネル役のヴィクトリア・ベドレッティ、ルーク役のオリヴァー・ジャクソン=コーエン、そしてテオ役のケイト・シーゲルが出演しています。
その次が『真夜中のミサ』という「ヒルハウス」に勝るとも劣らない傑作ですが、これはまた別の機会に紹介したいと思います。
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涙を誘う終焉。グレゴリー・アラン・イサコフの哀切な調べ
最後に「ヒルハウス」のエンディングに流れる曲について。
ホラーは最後に驚かすエンディングが多いように思います(例えばブライアン・デ・パルマ監督の『キャリー』)が、「ヒルハウス」は、怪異の果てにたどりつく兄弟たちの気持ちに寄りそうな歌声で、心揺さぶられるエンディングとなっています。
グレゴリー・アラン・イサコフというシンガーソングライターの「If I Go, I’m Goin」という曲です。この拙い文章も、この曲で締めくくりたいと思います。
(しみずのぼる)
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