きょうはコメディのはずなのに泣けて仕方なかったハートウォーミングな映画の紹介です。世間的には全然有名ではないのですが、ダニー・デビート主演の「勇気あるもの」(原題: Renaissance Man)です(2023.7.21)
【追記】YouTubeの公式(認証済み)チャンネルに関連動画がありましたので加筆修正しました(2024.5.5)
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教え子は落ちこぼれの兵士
DVDの背表紙からあらすじを紹介しますと、
それはエリート広告マン、ビル(ダニー・デビート)の失業から始まった。この不況で仕事は全く見つからず、やっとありついたのが、教師、しかも生徒は陸軍の落ちこぼれ達だった…。
やる気のない教師とやる気のない生徒。それが、たまたまビルが手にしていた本ーーシェークスピアの「ハムレット」から変化が生じます。ハムレットの中身を聞かれたビルの返答が「殺人、セックス、近親相姦、狂気」というのも面白いし、それで落ちこぼれ生徒たちが興味を示すというのも、何ともコメディタッチです。
ハムレットをラップで披露
そんなビルと生徒たちの距離感が徐々に埋まっていき、中盤では生徒たちが「ハムレット」のTo be, or not to beのせりふでラップを披露したりもします(このラップは秀逸です。ユーチューブでも、この場面をアップしている方がいます)
生徒たちも徐々に人間的に成長していって、課外授業でシェークスピアの「ヘンリー5世」の劇に連れて行った時は最初、他の観客に顰蹙を買うほどの雑然とした様子だったのが、いつのまにか物語に引き込まれていて、生徒の一人はシェークスピアの原作にまで手を出して読みふけるように…。
その生徒が、雨中の訓練で教官の軍曹(グレゴリー・ハインズ)から、からかい半分いやがらせ半分で、「お前はシェークスピアを習ってるんだよな。何か聞かせろ」と強要されるのです。
最初は、いつものようにオドオドした様子でせりふを口にするけれど、徐々に朗読が堂々としたものになっていき、最後はからかったつもりの軍曹を圧倒してしまう。このシーンは特に好きです。

バンド・オブ・ブラザーズ
このシーンで生徒が朗読するのは、ヘンリー5世の「聖クリスピンの日の演説」(St.Crispian’s Day Speech)です。英仏100年戦争で、ヘンリー5世率いるイギリス軍がフランスの大軍を前に絶体絶命のピンチに陥る。その戦いの日にヘンリー5世が全軍を前に演説したのが、これです。
今日は聖クリスピアンの祭日だ。
今日を生き延びて無事故郷に帰る者は、
今日のことが話題になるたびに我知らず胸をはり、
聖クリスピアンの名を聞くたびに誇らしく思うだろう。今日を生き延びて安らかな老年を迎えるものは、
その前夜祭がくるたびに近所の人々を宴に招き、
「明日は聖クリスピアンの祭日だ」というだろう。
そして袖をまくりあげ、古い傷あとをみせながら、
「聖クリスピアンの日に受けた傷だ」というだろう。老人はもの忘れしやすい、だがほかのことをすべて忘れても、
その日に立てた手柄だけは、尾ひれをつけてまで
思い出すことだろう。そのとき、われわれの名前は
日常のあいさつのように繰り返されて親しいものとなり、
王ハリー、ベッドフォード、エクセター、ウォリック、
トールボット、ソールズベリー、グロスターなどの名は
あふれる杯を飲み干すたびに新たに記憶されるだろう。この物語は父親から息子へと語り継がれていき、
今日から世界の終わる日まで、聖クリスピアンの祭日が
くれば必ずわれわれのことが思い出されるだろう。
少数であるとは、われわれ幸せな少数は、兄弟の一団だ。
(We few, we happy few, we band of brothers)なぜなら、今日私とともに血を流すものは
私の兄弟となるからだ。いかに卑しい身分のものも
今日からは貴族と同列になるのだ。そしていま、
故国イギリスでぬくぬくとベッドにつく貴族たちは、
後日、ここにいなかったわが身を呪い、われわれとともに
聖クリスピアンの祭日に戦ったものが手柄話をするたびに
男子の面目を失ったようにひけめを感じることだろう。
この雨中の朗読シーンのあと、ビルが軍曹に「きみの好きなようにしたまえ」と言って書類を渡します。その書類は、別の落ちこぼれ兵士の父親で、ベトナム戦争の犠牲者の従軍記録。そして兵士たちの卒業式のシーンとなります。
わたしは、雨中の朗読シーンで胸がジーンときて、卒業式で父親の従軍記録に触れた将軍の演説シーンに泣いてしまいました。
やり直す勇気を持とう
DVDの背表紙に「勇気を持とう 誰だって、いつからだって、やり直せる!」とあります。原題とかけ離れた日本語タイトルですが、中身はこのフレーズの通り。見終わって心温かくなります。
幸いDVDにはなっていますし、たまに動画配信サイトでも見かけますので、機会があれば鑑賞してみてください。
最後に蛇足ですが、ダニー・デビートとグレゴリー・ハインズは、どちらも「カッコーの巣の上で」で精神病患者役でした。こちらは言わずもがなの名作。ラストは号泣ものです。
(しみずのぼる)
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