若い人と話していると、公的年金制度に否定的な意見が散見されます。「僕らの世代は、支払い額に比べて受け取り額が少ないに決まっている」というものです。多くの人は大学在学中に20歳を迎えて、「国民年金を払ってください」という通知を受け取ります。年額20万円近い納付申請書を受け取った時、親元から離れて大学に通っているような学生なら、「こんな大金、とても払えないよ」と憤慨して、そのまま放置、つまり未納にしているケースも少なくないはずです。そんな若い世代に対して、わたしは「なんてもったいない! 正しく理解していれば、大学在学中の支払いこそ親を頼って払っておけばいいのに」と言ってあげたい(2028.6.29)
〈PR〉
登録は簡単、3ステップのみ!無料会員登録はこちら公的年金と企業年金の違い
そもそも、公的年金は何に備えるものか、きちんと答えられるでしょうか。
「そんなことは百も承知だよ。老後に備えるものだろ!」という答えが返ってくるでしょうね。では、次の質問です。
「公的年金と企業年金。どちらも老後に備えるために用意されている仕組みですが、その違いは何でしょう」
大学を卒業して会社勤めを始めたら、多くの企業が年金を用意しているはずです。DB(確定給付型)年金とDC(確定拠出型)年金とあり、DC年金だけのところもあれば、DB年金とDC年金両方を用意している企業もあります。
この企業年金と、20歳になったら支払い義務が発生する公的年金(会社勤めの人なら、国民年金+厚生年金)の違いは何か、きちんと答えられるでしょうか。
定年間近になれば(これは切実な問いですから)答えられるでしょうけど、若い世代はまだ実感がない話題ですので、違いがわからないのではないでしょうか。
答えは「企業年金は受け取り期間を過ぎたら受け取れない。公的年金は終身で受け取れる」なのですが、もう少しリアルなケースで説明しましょう。
死ぬまで支払われる公的年金
企業年金のほうは、60歳から受け取りを開始したら、69歳までしか受け取れません。もしあなたが67歳で亡くなったら、残り2年分の受取額は遺族に支払われます。でも、70歳以降は1円も振り込まれなくなります。
一方、公的年金のほうは、あなたが90歳になっても、100歳になっても、あなたが死ぬまで決まった額が支払われます。
人生100年時代と言いますが、長寿の人は120歳ぐらいまで生きるケースもあります。企業年金はとっくの昔に受け取りを終えてしまうのに、公的年金はずっと受け取ることができるのです。
「公的年金は何に備えるものか」と訊かれたら、それはあなたが望外に長生きした時に備えるものなのです。
公的年金の本質は保険
経済コラムニストの大江英樹氏は「年金の本質は”貯蓄”ではなく”保険”」と言っています。同氏の著書「知らないと損する年金の真実」(ワニブックス)から、該当部分を引用しましょう。
「公的年金は一体どんな不幸に備える保険なのでしょうか。年金が想定している最も大きな不幸は『予想外に長生きすること』です。(中略)金融機関の人などは、よく『年金なんてあてになりませんから、老後に備えて自分で投資(貯蓄)しましょう』と言いますが、何歳まで生きるかは誰にもわかりません。自分で備えると言っても『いくらあれば安心か?』というのは正直に言ってわからないのです。だからこそ終身、つまり死ぬまで受け取ることのできる年金制度が必要なのです」
企業年金は、自分が積み立てた掛金+その運用で得たお金を取り崩して受け取るので、その本質は「貯蓄」と言えるでしょう。それに対して、公的年金の本質は、長生きリスクに備える「保険」だということです。
大学在学中の未納が、なぜ「もったいない」のかは、別の機会に改めて書きます。
(いしばしわたる)